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選択肢  作者: ひなた
天沢美海ルート
281/389

YO

「お誕生日、おめでとうございます」

 俺が不思議に思いながらも指定時間に行くと、美海先輩はそんなことを仰り迎えて下さった。そういえば、俺の誕生日だな。しかし俺の誕生日なんて祝う価値もないので、誰か好きなキャラの誕生祭を祝うんだろう。誕生日、嫌な思い出しかないから自分でも覚えていなかった。

「もっと喜んで下さい。今日、君の誕生日でしょう? この私が間違えるなんて有り得ませんし」

 美海先輩は本当に俺の誕生日を祝って下さるおつもりらしい。どうして俺なんかの誕生日なんて、信じられない。どちらかというと、祝うんじゃなくて呪うのかもしれない。一年で最悪の日、俺みたいなクズが生み出されてしまった日。一年に一度の儀式的なのだろう? 誕生日って。どうしよう。


①素直に喜ぶ ②帰る ③死ぬ


ーここで③を選ばない人がどこにいますかー


「美海、先輩……。美海先輩、ありがとうございます。こんなの初めてで、俺。俺、どうしたらいいかわかりません。どうやって喜べばいいのか、わかりません」

 あまりの喜びに、俺はその場に崩れてしまった。外からバリバリ見える玄関で、崩れてしまった。幸い俺の復活まで人は通らないでくれたから、問題はないと信じてはいるが。

「素直に喜べばいいではありませんか。君は笑顔を知っている筈ですから、笑って下さい。今日くらいは、笑顔でいていいんですよ。気なんて遣わなくていいんです。優しくしないでいいのです、今日の君はプリンセスですから」

 優しく微笑んで、美海先輩が家に招き入れて下さる。言われたこともないし、言われるとは思わなかった言葉。プリンセス、か。どうしよう。


①姫らしく ②プリンスがいいな ③凡人


ーこれなら①を選んでもいいのでしょうー


「ありがとうございます。それでは、今日はパーティをやりますわよ」

 どうすればいいのかわからなかったけれど、俺はそれっぽく返した。しかしこれだとただのお嬢様になってしまうかもしれない。プリンセスって姫だよな。姫様と言っていただけたのならば、俺の知っている姫を演じればいいのではないか。

 イメージ的に言えば、正直姫って元気系。お淑やかなお姫様とか世間知らずのお姫様とかじゃなくて、暴れ回るじゃじゃ馬姫な感じ。ただあれは姫と言う身分と優しさとルックス、それがあるから許される行動。俺みたいなクズがやったら、それはただのクズでしかないのではないだろうか。

「はい、姫君。最近経済的に危うい状況で、盛大なパーティを開くことが出来ません。そこはご了承頂けるでしょうか」

 気分を害する様子もなく、美海先輩はそう言ってくれる。誕生日だからと思って、我慢して下さっているのではないだろうか。どうしよう。


①そんなの嫌、絶対に認めないわ! ②調子に乗ってごめんなさい


ーここでも①を選んでしまうのですー


「そんなの嫌、絶対に認めないわ!」

 突然のキャラ変更に、美海先輩も驚くような表情は見せた。しかし文句は言わない。文句は言わず、彼女は付き合ってくれるのだ。

「申し訳ございません。今、国はかなり危険な状況にございます。そこで盛大にパーティを開き、お金を注ぎ込んだとします。苦しむ民たちはどう思いますか? それを考えて欲しいのです」

 設定を細かくするのならば台本が欲しい。そう思ったが、美海先輩はきっとアドリブに拘りたいんだろう。そう考え直した。俺だって、台本通りの動きよりアドリブの方が面白い展開を期待出来るし。

 ただ問題点としては、キャラを完璧でいられるかどうかだな。いつまで俺みたいなクズが美少女役を演じていられることか。寿命はそう長くないと思われるな。

「民? そんなの私には関係ない。だって、姫がそんな奴らに合わせるなんて可笑しいじゃない。素敵なパーティがやりたいったらやりたいの! 今日は、この私の誕生日なんだから」

 これ楽しいな。一人でやってても楽しくないだろうし、今までこの遊びに出会えなかった理由はそこかな。しかし美海先輩に出会うことが出来て、本当に俺は喜怒哀楽を手に入れたよな。哀しか持っていなかったのに。

 四分の一しかないと言う、欠けているってレベルではなく足りていなかった俺。そんな俺を、美海先輩は救い出してくれたんだ。四分の一から、一にしてくれたんだ。もしかしたら今の俺は、クズではなくクズ人間になれているかもしれない。

「姫、君……。今日がお誕生日でしたね。国を挙げてお祝い差し上げたいところですが、今年だけは我慢して頂きたいのです。皇帝陛下もお悩みのご様子ですし、お金は大切にしようとなさっていらっしゃるのです」

 姫君が俺なんだよな? 皇帝陛下ってのは、俺の父親ということでいいのだろうか。わからないけれど、勝手にそうゆう設定にしてしまうのもいいだろう。美海先輩だって滅茶苦茶変な設定作るし。

「父上が。それじゃ今年我慢したら、来年は父上が祝ってくれるの? 私の誕生日を、父上が祝ってくれるのかな」

 不安げにか細さをイメージし、気持ち悪さに負けず俺はそう言った。その瞬間、美海先輩は崩れ落ちた。

「反則です! 今の可愛さは反則です。ちょっと待って下さい、私を殺しに来ているんですか? 姫と言うそれだけでクソ美少女設定を付けた私にも非があります、それは認めます。しかし、今のは少し可愛過ぎるんじゃないですか? 本気で死んでしまいます、私の気持ちも考えて下さい」

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