奈
「う~んとね、特にないよ? もしかして行きたいところあったの? だったら、わたしもそれに着いて行かせて貰っちゃうんだけど」
あぁ、別にどこかを目指して歩いてる訳じゃなかったのね。どうしよう。
①行きたいところ候補を ②行きたくないところ候補を ③スルー
ーこんなん③で十分じゃないですかいー
俺も特に行きたいところと言うのがないので、何も答えられずに黙ってしまった。
「別にない、そう言う沈黙ね。だったらさ、全クラス回っちゃおうよ」
ニコッと悪戯に微笑んで、百々先輩は俺の掌じゃなくて腕を掴む。どうしよう。
①着いてく ②振り払う ③逃亡
ーハイ①ですー
楽しそうに小走りする百々先輩に、俺も急いで着いて行った。そして三年生から順に色んなクラスを覗いて行き、一年六組の時点で午前の部は終わりを告げようとしていた。どうしよう。
①急ぐ ②急がせる ③諦める
ーこりゃ①と②のダブル選択ですねー
これでは間に合わないと思い急ぎ出し、百々先輩のことも急がせる。百々先輩が全クラス回っちゃおと言ったんだから、絶対に全クラス回りきって見せるんだ。
「ふぅ、ギリギリだったね」
ほとんど流すように残りのクラスも見て行き、一応最後の最後で全クラス回り切ることができた。
「自分のクラスに遅れちゃうね、急いで戻ろっか☆」
そう言って最後にニコッと微笑むと、百々先輩はさっさと立ち去って行ってしまう。どうしよう。
①追う ②自分のクラスへ ③ここに
ーはい②ですぅー
もういい加減ヤバい時間なので、俺は自分のクラスへと走って行った。今の時間帯はどのクラスも交代の時間、つまり……そのクラスのほとんどが教室の出入り口付近にいたりしてるんだ。その人混みを何とか通り抜け、階段を上って自分の教室へと何とか戻ることが出来た。
「お前ぇ、受付かい? まだ間に合うから、さっさと荷物置いて仕事に入ってはくれねぇかい」
何とか教室内に滑り込むと、花空さんにそう言われた。どうしよう。
①はい ②うるせぇよ、クズ
ーこんなの聞くまでもありませんね、①に決まってるじゃないですかー
「はい」
あんまり得意なタイプじゃないので小さくそう返事をして、俺は自分の仕事受付の場所に着く。
次々に雪崩れ込んでくる客たちを、人見知りながらも何とか捌いて行く。
メイドの『いらっしゃいませ』や『ありがとうございました』の声が、ほぼ絶え間なく聞こえてくる。
客の楽しそうな笑い声。何か悪いことも、全く起こったりしない。
そうして文化祭一日目は、幕を閉じた。




