都会に住む天使
―不意に空を見上げると、そこには真っ白な天使がいた。―
青空からは太陽を、夜空からは星達を奪い取り、
その存在を示す摩天楼。
毎日なんの変化もないつまらない、そんな”空”を、
僕が今日は見上げたのは、”空”から黒い羽が落ちてきたからだ。
『こんな真っ黒な羽、あんな綺麗な天使の羽なわけないよな。』
今僕の手の中にある羽は、真っ黒ではあるが、単に黒だけでない複雑な色をしていた。
小学生のときに使っていた絵の具を全部混ぜてしまったような、そんな色だ。
それになんだか、感触もすこぶる悪い。
羽毛が全部カラカラに乾ききっているし、それぞれが僕に敵意があるかのようにとげとげしく、一見不規則のようだが見事に規則的に並んでいる。
そんな奇妙な羽から目をそらし、再び”空”に浮かぶ天使に目をやると、
なんと彼女は自分の羽をむしりとっていた。
手は血に染まり、苦痛を押し殺したような笑みを浮かべながら、それでも羽をむしり続けていた。
雪のように柔らかく、蝶のように美しく踊る羽たちは、幸福をかたどっているように見えた。
『あれは幸福の羽なのか。天使は僕達に幸せをくれているのか??』
僕の勝手な推測だが、そう思えて仕方なかった。
素晴らしい羽たちはビルの30階あたりにさしかかると、急に黒味を帯び、灰のように地上を目指して降ってきた。
僕の手には今、2枚黒い羽がある。
段々、天使のいるところの真下あたり――僕の足元が、黒い絨毯を敷き詰められたようになっていく。
僕はその様子を、何かを考えるわけでもなく、ただ呆然と眺めていた。
そして最後の羽が地上に触れたとき、天使は飛ぶ力を失った。
『あっ!』
僕は思わず叫んでしまった。
冷たいアスファルトに打ちつけられた天使は、それでも笑顔を絶やすことはなく、必死に黒い羽を拾い続ける。
しかし忙しく歩く人々は、それを視界にいれることすら許さなかった。
今では僕も、その中の1人だ。
『金だったら拾ってやるのに。』