時計の王様
全世界の時計をつかさどる「時計の王様」がいた。
大きな振り子と大きな鐘。1日1回、人間がネジを巻く。
正確に、遅れることも進むこともなく、何百年と時を刻んできた。
だが時代は進歩した。時計は皆、電池式に変わり、
今ではもうネジ巻き時計は、時計の王様一人だけになっていた。
それでも彼は時計の王様。全世界の時計達は彼に従った。
デジタルもアナログも王様の時間と経度を基準とし、正確に時を刻んだ。
王様は言った。
「全世界の時計たちよ、我々は人間達の発展と共に繁栄してきた。これからも一生懸命
働いて、人々のために尽くそうではないか。」
時計たちは働いた。人々の起床時間、電車の時間、昼休み、就寝時間・・・正確に刻み続けた。
特にスポーツでは活躍した。1000分の1秒まで正確に刻み、人々と共に感動を分け合った。
まさに時計たちと人間は共存共栄だった。
ある日それは、人間達の小さな紛争から始まった。
やがて国同士の紛争となり、大きな戦争へと発展していった。
1秒でも早く情報を掴み、1秒でも早く攻撃を仕掛ける。
時計たちも協力せざるを得なかった。
1秒刻みでミサイルが飛び交う。戦闘機が爆撃する・・・
戦闘は日ごとに激しさを増していった。
時計の王様は嘆いた。
「我々は、戦争のために時を刻んでいるのではない・・・」
そして王様は決断した。
「全世界の時計達よ。今すぐ時を刻むのをやめよ。長い年月ご苦労であった。」
全世界の時計たちは時を刻むことをやめた。
ある者は入水し電池を壊し、ある者は飛び降りて自爆した。
こうして王様以外の時計は全世界から消えた。
人間達は時間が分からなくなり、闇雲に攻撃し合った。
長く栄えた機械文明のため、人間達は太陽から時間を計算する能力も失っていた。
長い争いが終わり、人間達は一人残らずいなくなった。
鳥達が静かになった大地を楽しそうに飛び回っている。
1羽の鳥が動かなくなった時計の王様の振り子にとまった。
ゆっくりと振り子が動く。
かすかに目覚めた時計の王様が言った。
「人間達もいなくなったか・・・人間がいなければ時を刻む必要もない。
いや、もともと時など刻む必要はなかったのかもしれんなぁ・・・」
王様は最後の力を振り絞り、鐘を鳴らした。
鎮魂と平和の鐘の音を、もはや聞く者は誰もいなかった。




