似た者同士
「まことくんっ! はやく~」
吉田 夏が大きな声を出しながら玄関で待っている。
「はぁ…。おい、誰が迎えに来いと言った」
「えへへ。良いじゃない。早く行こう!」
呼んでもないのに毎日勝手に来て「行こう」と笑顔で言う夏。
「あのな、別に来なくていいんだよ」
「来てもいいのね?」
「…はぁ」
なんだよ、この女!
「あ、ちょっと急がなきゃ。あと5分でバス来ちゃうよ」
夏が腕時計を見て足を速めた。
確かにこのペースでは5分でバス停までつかない。
「ね、沖縄のイトコが言ってたんだけど、沖縄ではバスが時間通り来ないんだって!」
「知らねぇよ」
「前なんか雨の中40分待って風邪ひいたって言ってた。ふふふ」
「はいはい」
俺は簡単に相槌を打つ。
夏はいつもずっと喋りっぱなしだ。
「あ、バス停。じゃあね」
「うん」
バス停の前で夏は違う方向へ曲がる。
「おはよう、まこと」
田中。
「よっ」
加藤。
「おはよ、田中、加藤」
「また夏ちゃん?」
田中が遠くなっていく夏の後ろ姿を見ながら言った。
「ああ」
「「違う学校なのに毎朝一緒に」…ねえ。羨ましいなー。あんな可愛いこと」
加藤が笑って言う。
「アホだよ、あいつは」
「いつも言うよな」
「本当にアホなんだよ」
わざわざさ。おばさんから聞いたんだよ。
いつもギリギリで間に合ってるって。
「お二人さん、バス来たよ」
田中が俺の肩をたたいた。
「おう」
バスが止まると、降りる人は一人もいなく、バス停にいる人たちがどんどん乗り込んだ。
―*―*―*―
「おはよーございまーす」
「あら、夏ちゃん。おはよう」
おばさんが出てくる。
「まことくーん。はーやーくー」
私はいつも通り大声でまこと君を呼ぶ。
「来なくていいっていつも言ってんだろ」
ドタドタと階段を降りてくる。
あのね、まこと君。
私はまこと君のことが好きだからね、分かるのよ?
『来るな』って言ったことないんだよ。
自分で気づいてる?
私は『来るな』って言われたら来ないし、『黙れ』って言われたら喋らない。
まこと君って変なとこ素直で分かりやすいのよ。
―*―*―*―
「大丈夫だよ」
夏は笑って言うけど、昨日は遅刻したって聞いた。
何で、どうして毎朝俺を迎えに来て学校に遅れそうになってんだよ。
別に俺なんかどうでもいいだろ?
「お前って正真正銘のアホで、更にバカだよな。いつも来なくていいって言ってんのに」
俺は靴を履きながら言ってみた。
「そぉお? ははっ」
表は笑ってるけど、いつも裏で苦労してるのが夏なんだ。
俺は夏のこと好きだから知ってるんだよ。
あと、『来るな』って言ったらきっと来るのをピタッとやめるだろう。
本当はこうやって毎朝一緒にバス停ンとこまで歩くのは楽しいと感じている。
――ま、こんな事ぜってー言えないけどな。
――そんなことは絶対言えないけどね
―*―*―*―
「吉田さんっ。夏ちゃんっていい子よねえ」
「あら、そう? でもまこと君も頭いいでしょう?」
「そんな事ないのよ。でも本当に…」
「『似た者同士よねぇ』」