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頭上緑化

作者: 辰野さとる

地球温暖化はもはや取り返しのつかないところまで進行していた。

海面は上昇し地球上には小島が一つだけ残された。

わずかに残った数百人の人類は、温暖化の原因物質とされた二酸化炭素を減らすため、大規模な緑化活動をはじめた。

緑化は順調に進み、最後の小島はほとんど森に覆われたが、やはりそれだけでは面積が足りなかった。

そこで、人々は海底から文明の遺物を集め、小島の上に巨大なプランター施設を建設した。

海上にも膨大な面積のプランターが作られ、ついには大気中の二酸化炭素濃度を若干減少させるまでに至った。

さらに、想像を絶するような面積の森は大量の水を吸い上げ、数十年が経つ頃には海面水位も下降傾向を見せ始めていた。

「ここのところ、ようやく緑化の成果が出てきたようだな」

男は二十年の間、地球の緑化事業を統括してきた。

彼が事業を始めた頃には数年で水没すると言われていた島が、今では面積を広げ始めている。

「これもひとえに統括の努力の成果でしょう。あなたは人類の救世主です」

助手に持ち上げられるのも悪い気はしない。

男はこの仕事にやりがいを感じていたし、これまで人類を守ってきたという誇りも持っていた。

「新たなプランターの建設はどうなっている?」

「そのことなのですが……」

助手がすまなさそうに言葉を濁す。

「調査船団の報告によりますと、ついに海底の資材が底をついたとのことです。発掘を見込んでいた資材が手に入らなくなったため、残念ながらプランターの建設は断念せざるをえないのです」

「そうか……いつか尽きるとは思っていたが、早かったな。これからどうしたものか……」

もはや緑化できる場所は全て緑化が完了していた。

島内はもちろん、住居代わりに係留された船の側面に至るまで、彼らの世界に緑化されていないものなど存在しなかった。

しかし、そこにはただ一つだけ盲点が存在した。

「そうだ。君、頭に鉢植えを載せたまえ」

「なんですって」

「もはや資材も土地も尽きたが、私たちの身体はまだ緑化していない。もう、ここぐらいしか残されていないのだよ」

助手は統括の正気を疑ったが、相手は人類の救世主。反抗など考えもしなかった。

全島で直ちに頭上緑化運動が始められた。

人々は自らの身体、もっぱら頭の上に植物を載せるようになった。

みなが不自由な生活を余儀なくされたが、これまでの功績がある統括の言葉に誰もが従った。

二酸化炭素濃度は順調に減っていったが、やはり人々の緑化だけでは限界があった。

「もうこれ以上の緑化は望めません。しかし、我々はよくやったのではないでしょうか」

助手はこれまでの成果に満足していたが、統括は違った。

「いや、まだだ。ここに、研究所に命じて作らせた新薬がある。これは我々の体質を変容させ、二酸化炭素と水を取り入れるだけで生活できるようになる薬剤だ」

「それは素晴らしい! すぐ全島へ配布しましょう!」

小さな島に全人類を抱えているため、食糧問題は常に付きまとっていた。

しかし、この発明によってその問題も解決され、再び二酸化炭素は減少した。

ただ、それにも限界は来る。

「もう十分でしょう」

「いや、まだ削れる部分はある。我々は動くたびに二酸化炭素を排出するが、その場に立ち止まっていればその排出を抑えられる。背に腹は変えられない。人類の発展のため、島民には極力活動を控えるように達してくれ」

そうして、島の人々はあまり動かなくなった。そもそも、動く必要はすでに薄れていたのだ。


それから千年が経ち、一万年が経ち、ようやく地球は過去の雄大な陸地を取り戻した。

『世紀の大発見です。ある種の植物に、二足歩行をしていた痕跡が発見されました。これは生物学の常識を覆すものであり……』

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― 新着の感想 ―
[一言] 最後にひっくり返る。これがおもしろいですね。
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