私の好きな人は貴方です!
☆1☆
「実はルルーシュとは既に婚約破棄したのですよ」
そんな話し声が聞こえて、私は足を止めた。
ルルーシュ・ローゼン。
ローゼン侯爵家の娘である私の名前だ。
そして、話し声にも聞き覚えがあった。
私の記憶が確かならば、婚約者であるエルビス・ブラウン伯爵令息。
その隣に縋り付くように腕に絡みついている女性は……誰かしら?
「ルルーシュとは14歳の時に婚約してから5年、それなりに関係を築いていたと思っていたんですが、僕は彼女の本当の姿を知らずにいたようです」
それなりの関係、ねぇ……。
花の一本も貰った事、ありませんけどね。
「彼女はメーテル嬢に嫉妬して、陰湿なイジメを繰り返していたんですっ。メーテル嬢の物を壊したり、突き飛ばして怪我をさせたり……。メーテル嬢は我慢していましたが、止みそうにない苛めに耐えられなくなり僕に相談を」
辺りはざわついて、エルビス様のまわりに人々が集まり始めて口々に話はじめる。
「ルルーシュは表の顔は美しく優しげですが、裏では可憐なメーテル嬢を陰湿に苛めていたんです……僕はそんな心根の歪んだ彼女とこれ以上婚約関係を継続出来ないと、婚約を破棄したんです」
「エルビス様……」
エルビス様とメーテル嬢は見つめあって、なんだか2人の世界のようですけど、周りをよく見られた方がいいと思いますよ。
「僕は彼女、メーテル・パルセナ男爵令嬢と新しく婚約を結びます。最近は、婚約破棄されたショックでか男遊びも酷いと聞きました。ルルーシュのような醜悪な女ではな」
「あら、エルビス様」
さっきまであんなにペラペラと話していたのに、あんぐりと開いた口のエルビス様は、固まってしまったようで。
まぁ、そうでしょうね。
今日は体調が悪くて参加出来ないから、私も不参加にしてくれ、と言われたパーティーですもの。
エスコートしてくださる男性がいなければ、無理ですものね。
父は母をエスコートしますし、2歳下の弟は魔術学校に通っていて寮生活ですし?
ですが、あまりにもエルビス様にほっておかれている姉が可哀想に見えたのか、弟のウィルバルトが急遽帰って来て連れて来てくださいましたから。
居ないと思っていた私が現れて驚いていらっしゃるのでしょうね。
そんなエルビス様とメーテル嬢を感情の消え失せた目で見たウィルバルトが、
「姉上、いつ婚約破棄されたのです?」
と、地を這うような低音を響かせる。
「え?そうね……今かしら?」
その言葉にエルビス様の顔色は一瞬で青を通り越し白くなっていく。
「で、エルビス様のお連れのご令嬢はどちらの家門のご令嬢です?」
「さぁ?私も初めてお会いする方だから存じ上げない方だわ」
チラリとメーテル嬢に目をやると、ビクッと肩を揺らした。
あら、怖かったかしら?
「で、姉上は婚約破棄されたショックで手当たり次第に男性に声をかけているとか」
ウィルバルト、殺意が漏れ出てますわ。
エルビス様が今にも倒れそうよ?
「そうね、今日はあなたとお父様と庭師のビルと話をしたかしら?」
「そうでしたね。さて、姉上、エルビス様は我が家と縁を切りたいようですね」
「そのようね。あちらがそう望むのですからこの際、スッパリと切りましょう」
そう言う私達姉弟の会話にエルビス様はガタガタと震えはじめてしまった。
私はそんなエルビス様に声をかける事なく、ウィルバルトと会場をあとにした。
今にも走り寄って来そうにしていたけれど、メーテル嬢にしがみつかれて引き剥がすのに時間がかかっていたみたい。
まぁ、近寄って来ても話なんかしませんけどね。




