表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

笑う雪乃

 師匠に付き合う内に、晴奈も大分酔ってしまった。

「ふわ、あ……」

 思わず、大あくびが出てしまう。雪乃の方を見ると、食卓に上半身を伏せ、既に寝息を立てている。

(いけない、いけない。寝かせないと)

 ふらりと立ち上がり、卓上を片付けて、寝床の用意をする。

「うにゃ……せえな?」

 と、雪乃が卓に突っ伏したまま、晴奈に声をかけてきた。

「どしたのー……?」

「寝支度を整えております。今日はもう、お休みください」

「んー、ありがと。……ごめん、おみずもってきてちょうらい」

「あ、はい。今お持ちします」

「ありがと。……ふふ。わたし、おさけすきなんらけろ、よあいのよ」

「そのようですね」

「せえな、あんまいよっれないろれ。うらやあしいなぁ」

 呂律が回っていないため、雪乃が何と言っているのかは今ひとつ理解はできなかったが、言わんとすることは何となく察せられたため、晴奈はうなずいておいた。

「いえ、そんなことは。……ただいま水をお持ちしますので、それを飲んだら今日はもう、お休み下さい」

「ん、ありがと。せえなも、もうねる?」

「あ、はい」

 晴奈がそう答えると同時に、彼女は晴奈の手を取り、引っ張ってきた。

「いっしょにねよ?」

「……はぁ?」


 晴奈と雪乃は普段、別々の部屋で寝ている。だから二人揃って枕を並べることはまず無いのだが――酔った上での発言とは言え――師匠の誘いでもあるし、そのまま放っておくこともできなかったため、その日は雪乃と二人で眠ることとなった。

「ふー……よこになると、ちょっとらくね。……そっか、はじめてよね。こうやってふたりでねるのって」

「そうですね。塞に入ってからは、初めてのことです」

「こんなによっぱらったのも、なんねんぶりかなー」

「少なくとも私がこちらに来てからは、初めてお見かけするお姿です」

「そっかー」

 そこから会話が途切れ、晴奈もじわじわと眠気を感じ始めた。

(もう寝たか……?)

 と、また声がかけられる。

「ねえ、せいな」

「あ……はい」

 眠気をほんのちょっと振り払って答えると、雪乃はこんな提案をしてきた。

「こんどさ、ちょっとだけ、とおでしてみない?」

「とお……遠出ですか?」

「そ、ひとつきか、ふたつきか、それくらい。ちょっとだけ、たびしない?」

「いいですね。是非、お願いします」

「ん……」

 また、静かになる。今度は完璧に眠ったらしく、すうすうと寝息が聞こえてきた。


 翌朝、晴奈と雪乃は昨日の酒宴など無かったかのように、黙々と食事を取っていた。その内に、一足先に雪乃が食べ終え、茶を飲み始める。そして晴奈が食べ終わったところで、唐突に口を開いた。

「どこに行こっか?」

「え? どこ、とは?」

 何の話か分からず、晴奈は聞き返す。雪乃はにこっと笑みを浮かべながら、こう継ぎ足した。

「ゆうべ話してたでしょ、旅の話。さっと行って、さっと帰れるところがいいわよね」

「ああ……そう言えば、そんなことも。えーと……どこがいいでしょうか。相変わらず地理に疎いもので、どこと言われてもさっぱりでして」

 晴奈に聞き返され、雪乃はあごに指を当てて思案する様子を見せる。

「んー、じゃあ央南東部の……そうね、州都の青江(せいこう)辺りなんかどうかしら? 同じ央南だからこことそれほど勝手も違わないし、街道も通ってるから、万一何かあってもすぐ戻れるもの」

「では、それでお願いします」

「ふふ、楽しみね」

 雪乃はうれしそうに微笑みながら、茶を一息に飲み干した。




 そして数日後――晴奈は師匠と共に、央南東部へ向かう旅に出た。

「青江とは、どのような場所なのですか?」

「あなたの故郷、黄海と同じ港町よ。昔話も豊富で、退屈しない場所ね」

「ほう……」

 13の頃まで自分の住む街から出た経験の無かった晴奈は、その話に思わず、心がときめいた。

(黄海とはまた別の港町か……楽しみだ)

「ふふ……」

 唐突に、雪乃が笑う。

「どうされました?」

「ん、ああ……」

 問われてもう一度、雪乃は楽しそうに微笑む。

「あなたいつも、そんなに笑う方じゃないわよねって」

「え?」

 そう返されて晴奈は、自分がいつの間にか笑みを浮かべていたことに気付く。

「そうですね。心が浮ついておりました」

「大丈夫、わたしもよ。……うふふ」

 そう言ってはいるが、彼女はいつも笑顔でいるため、晴奈には師匠の様子がいつもと違うようには感じられない。しかし――。

(……そうだな、やはり上機嫌に思える。いつもに増して、口数が多い)

 と、雪乃が晴奈の前に回り込み、顔を覗き込んでくる。

「わたしね、こうして旅をする度に思うんだけど」

「はい」

「やっぱり旅は、一人より二人の方がいいなって思うの」

「はあ……そんなものでしょうか」

「そんなものよ。一人旅も楽しいと言えば楽しいけれど、こうして二人で、色んなこと話しながら歩くの、好きだから。小鈴とも一緒に旅したこと、何度かあったんだけど」

 クスクスと笑いながら、柊はこう続ける。

「あの子といると、なんでか騒動って言うか、事件みたいなのにいっつも巻き込まれるのよね」

「そうなのですか?」

 晴奈が目を丸くするのを見て、柊はまた笑う。

「ええ。それはそれで退屈しなかったけど、でもやっぱり普段の倍は疲れちゃうのよね。まあ、晴奈となら、流石にそんなことにはならないと思うけど。

 あなたとなら、楽しい旅になりそう」

「ええ。楽しい旅にしましょう」

 晴奈は力一杯うなずき、嬉しさと楽しさを満面に表した。


蒼天剣・手本録 終

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ