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雪乃の地理授業

 雪乃は紙に「し」の字形の円を描き、そこに2本の線を引いて三分割した。

「ざっくりだけど、これが中央大陸。そしてこの『し』の先端が、わたしたちが済む央南おうなん地域ね。そしてこの線が、央南と央中(おうちゅう)を分ける屏風山脈(びょうぶさんみゃく)よ。そしてもう一本の線の上から先が、央北(おうほく)と呼ばれているわ」

「びょ、屏風山脈と言えば、あの黒炎教団のっ」

 聞きかじったばかりの知識を披露する晴奈に、雪乃はにこっと笑みを返す。

「ええ、その通り。黒炎教団の本拠地である、黒鳥宮がある場所ね。地理的に央中とも近いから、向こうの文化も多く入り込んでるらしいわ」

「教主一族の名前も……ういう、……うり、……ういそん」

「ウィルソンね。ええ、元々は央中系の人たちらしいわよ。そう、その央中は別名、『狼と狐の世界』と言われているの。狼獣人と狐獣人がとびきり多いからですって」

 それを聞いて、晴奈は「ふむ」とうなる。

「央南は何の世界と呼ばれているのですか? 『猫』はそれなりに多いようにも思えますが」

「種族名は付いてないわね。『四季と桜花(おうか)の世界』だとか、『古跡と苔径(たいけい)(こけむした道)の世界』だとか、植物とか自然系。『仁義と礼節の世界』なんて呼び方もあるみたいだけど、なんだか偉ぶってるみたいで、わたしはあんまり好きじゃないわね。

 あと、確かに種族で一番多いのは『猫』だそうよ。ただ、わたしの実感としては、『狐』や『虎』もそこそこ多かった記憶があるから、その情報も確かかどうかは怪しいところだけど」

 話してもらった内容を自分の手元の紙に書き連ねながら、晴奈は質問を重ねた。

「では央北は何の世界と呼ばれているのでしょう? どのような種族が?」

「央北は『天帝と政治の世界』ね。これも堅苦しすぎて好きじゃないけれど、理由が理由だから他の呼び名は無いみたいね。ここは天帝教の本拠地があるし、天帝教を後ろ楯(うしろだて)にした中央政府なんてものもあるみたいだから」

「中央政府? 聞いたこと、いや、本で読んだことはありますが……」

「かつては中央大陸全土を治め、他の大陸にも強い影響力を持った巨大な政治組織……だったそうだけど、今は央北全域程度まで勢力は後退してるわね。1世紀、2世紀くらいには央南も勢力下だったから、現在でもチラホラと名残はあるわね。

 種族で一番多いのは短耳と長耳。獣人もまあまあいるけれど、6対4で裸耳(短耳・長耳の総称)と言うところかしら」

「ふむふむ……」

 紙から顔を上げ、晴奈はこんな質問をぶつけてみた。

「師匠は央中も、央北も巡ったことが?」

「あるわよ、旅は好きだから。小鈴と二人旅したり、一人でぶらぶらしたり。一番記憶に残っているのは央中の、ゴールドコーストって街に行ったことね。ここは世界一の大富豪一族、ゴールドマン家の本拠地でもあり、世界経済の中心地にもなっているの。だから色んなモノや人がいっぱい集まってて、何日いても退屈しないところよ。にぎやかで騒がしいところだったけれど、結局半年以上も長居してしまったわね。

 晴奈、あなたももし央中へ旅に出ることがあれば、絶対行ってみた方がいいわよ」

 そう勧められはしたものの、これまで一度も――紅蓮塞に渡った経緯を除けば――旅はおろか、ギリギリ友人と言える関係の者の家に一泊二日程度遊びに行くような経験すら無い。加えて基本的に想像力が乏しく自分が見聞きしたものでしか空想を組み立てられないため、師匠が楽しそうに思い出話に花を咲かせる様子を目の当たりにしても、自分がその、見たことも聞いたことも無い土地を歩く姿が、欠片も想像できない。

 結局、晴奈はこの時、ぼんやりした返事を返すことしかできなかった。

「まあ……もし旅をすることがあれば、是非。……うん?」

 と、晴奈は首をかしげ、地図に目をやる。

「あの……西方? はどこにあるのです? 央南、央中、央北のどこにある地方なのですか?」

「えっ? ……ああ」

 雪乃はクスッと笑い、「し」の字形の円の横にもう一つ、小さな円を描いた。

「西方大陸、通称『西方』は文字通り、中央大陸の西にある大陸よ。中央大陸のどこか一地方と言うわけではないわね」

「あっ、……そうなのですね」

 勘違いをやんわり指摘され、晴奈はふたたび顔を赤くする。一方、雪乃はさらに円を1つ描き加え、説明を続ける。

「中央大陸の西と北にも大陸があって、それぞれ西方大陸、北方大陸と呼ばれているわ。あなたが見た兎獣人はもしかしたら、この西方大陸の出身かも知れないわね。西方人のほとんどが『兎』で、他の大陸にはあんまり出ないって話だから。あと、西方人は昔から芸術家が多いらしくて、中央の文化にも少なからず影響を与えてるって話よ。だから地域の呼び名も、『兎と芸術の世界』。こっちならあなたも、いつか行ってみたくなるかも知れないわね」

「う、……は、はは」

 さっきの反応もほんのり抱いていた欲求も見透かされてしまい、晴奈は苦笑いするしかなかった。

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