3.新生特査始動
4月1日18時。、結局この日は何も仕事がなく1日が終わった。新人2人にとっては、驚きの連続であったが、今後の職務についてよく知ることができた1日である。今日のことをきっかけに、特査、そしてSSに良い影響があれば穂高も冬島も嬉しい。特査ルームに戻ると、皆良い顔で家路につくのだった。ただし、昼間にサボりすぎて資料整理のノルマが終わらなかった光は、穂高監督のもと居残りになったのだ。
エントランスでそれぞれの方向に分かれる。日向とあおいは、同じ寮に住んでいるため、必然的に共に帰ることとなった。
「今日、初日で情報が多すぎて色々追いつかないけどなんか、大変そうだよね。」
2人で歩くことに気まずくなったあおいが口を開いた。
「そうだが、俺たちとしてもやれることをやれば良いと思うぞ。少しずつ慣れていこう。」
あおいからしては、年下の日向。発言や行動はまだ幼さを感じることもある。しかし今は、その背中はとても大きく見えたのであった。
「うん。ありがとう。元気出た。じゃ、これから頑張ろうね。寮まで走って帰ろ。競争だよ。」
普段のあおいに戻り、未来に向かって2人、走り出すのであった。
奇妙な音をたてて特査のドアが開く。今日の一番乗りは雅のようだ。春物のトレンチコートを脱ぎ、ラックに掛ける。かばんを開き、荷物を取り出す。そうこうしている間に日向とあおいが一緒に入ってくる。
「おはようございます。」
「おはよ。2人とも。朝から元気だね。」
朝から一緒なのは、決して時間を合わせたとか、そういうのではなく、本当にたまたま寮の共有スペースで、ばったり会ったからだ。毎日なぜか会うのである。
なんだかんだ8時前には、全員が揃う。業務開始は本来8時30分からだが、やることもない特査メンバーは、結局早く出勤する。穂高は来るなり、コーヒーを淹れ始めた。出雲は謎の体操を始めた。光は、朝に弱く機嫌が悪いようだ。しばらく近づかないほうがいいだろう。
8時30分。穂高が自分のデスクから立ち上がり、それに習い皆も立ち上がる。丸テーブルの周りに皆が座ると穂高が話し始める。
「皆さん。4月も始まって10日が過ぎました。ただ、いまだに特査は、今年度一度も仕事がありません。昨日までは。」
そう言い、資料を取り出す。
「これをみてください。2係が、宝石強盗犯を取り逃がしたみたいです。他の捜査があるから、と言って特査に投げてきました。今日の目標は、この強盗犯2人を確保すること。できますね。」
穂高が全員の目を見つめる。その目はさながら猛禽類のそれであり、普段の彼からは想像できないものであった。
そこからの流れは早かった。
「顔も、車もわれてるならすぐじゃないですか。私、防犯カメラあたります。愼くんにも情報共有しておきますね。」
「今日は、二手に分かれましょう。光くんとあおいさんがAペア。出雲くんと日向くんがBペア。雅さんと、SSが犯人発見したらすぐに向かってください。」
トントン拍子で進んでいく。雅と愼がカメラ解析をしている間に作戦を立てる穂高。他のメンバーは、作戦を聞きながら出動の準備をする。特査と、SS。場所は違えど協力体制を敷き、犯人逮捕という一つの目標に向かって突き進む。
「カメラ、捉えました。場所は地図に送ってあります。」
雅の声を合図に皆が動く。車に向かう者、司令モニターの前で構える者、パソコンを駆使する者。特査だけではない。愼は、雅と共に防犯カメラで犯人を追っている。圭は、インカムから入ってくる情報を聞き逃すまいと、常に聴き入っている。それぞれの仕事、それぞれの役割、それを果たす。事件解決のために最も初歩的なもの。彼らの目指す、平和な世界のための小さな一歩。
「Bペア現着しました。中の様子は見えませんが、声は聞こえますね。Aペアが着くまで待機します。」
現場に着いた出雲からの報告。大抵いつも出雲が運転するペアが先に現着する。意外だが、運転が荒い。光は、見かけによらず安全運転だ。急いでいるときには、光に運転させてはいけない、というのが特査の共有事項である。
「こちら光。Bペアと合流。突入許可を。」
遂に、光からの報告が入った。それを受け、穂高が最後の指示を出す。
「皆さん、最後の確認です。犯行グループは、確認が取れているだけで3人。突入したら光くん、出雲くん、日向くんがすぐに犯人を確保。あおいさんは、他に犯人が隠れていないか確認をお願いします。今年度最初の任務。気合入れて行きましょう。」
「はい。」
穂高の指示に皆が鼓舞される。
現場は、光の合図で突入した。
「3人全員確保。他には、いません。盗んだ宝石類も、全部あります。」
犯人を捕らえていないあおいから報告が入る。皆が、安堵の表情を浮かべた。
「皆さん、お疲れ様でした。任務終了です。光くん、犯人はちゃんと捕まえてきてくださいね。」
新生特査の初任務は、順調に終わりを遂げた。今回の功労賞は、犯人の居場所を特定した雅と、愼であろう。新人2人の動きも悪くない。かなり良いスタートを切った、特査であった。
「初任務どうでしたか。日向くん。」
特査ルームに帰ってくるなり穂高が、問う。
「最低限の働きはできたと思います。」
日向の返答に大きく頷き、あおいにも目を向ける。
「私は、何もしてません。3人の動きが良かっただけです。」
2人の答えを聞きつつ、皆をイスにつくように促す。丸テーブルの上にはクッキーとティーカップがセッティングされていた。
「お疲れ様です。今日はだいぶ順調でしたが、これで過信せず、常に緊張感を持って任務に取り組みましょうね。クッキーを焼いたので紅茶と一緒にどうぞ。」
今日の総括とクッキーを勧める穂高。雅と出雲、日向、あおいは、クッキーを美味しそうに頬張るが、光は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「2係の奴ら、また自分たちが確保したように書類作りやがって。俺たちのことも書けっつうの。」
結局いつものように手柄は、横取りされた。光は何年立経っても新鮮な気持ちで愚痴を言えるらしい。そんな様子を横目に穂高が言う。
「今日は、もう遅いです。そろそろ帰りましょう。ただ、最後に。特査の一番の魅力はアットホームなところです。家族とまでは言わなくてもいいですが、大切な仲間だと思って信頼してくださいね。」
穂高のほほ笑みを思い出しながら、皆帰路につく。




