4話
石の階段を下りるごとに、空気は冷たく、湿りを帯びていった。
灯りの魔石が青白く壁を照らし、長い影が七人を伸ばす。
「浅層とはいえ、油断は禁物だ」
オルフェンが低く言う。大剣の刃が光を受けて鈍く輝いた。
水路沿いの通路はじめじめとし、苔が石畳を覆っている。
流れる水は濁っており、ところどころに獣の爪痕が刻まれていた。
「……来る」俺は指を動かす。
空気が震え、風が湿気を切り裂く。獣臭が一気に押し寄せた。
影の奥から群れが現れた。巨大な鼠、犬に似た魔物、牙をむき出したものが十数。
目が赤く光り、低い唸りが壁に反響する。
「任せろ!」ガルドが先陣を切る。
拳が閃き、鼠型の頭蓋を粉砕した。血と脳漿が飛び散る。
「ふっ!」
オルフェンの大剣が振り下ろされ、通路ごと獣を裂く。三体が同時に崩れ落ちた。
「上から射る!」
セリナが弦を鳴らし、矢が一直線に走る。目、喉、膝へ。動きが封じられ、次の矢が容赦なく突き刺さる。
「治癒は任せて!」リィナが声を張る。
兵士のいない戦場でも、仲間の小さな傷を瞬時に塞いでいく。光が通路を柔らかく照らした。
「……首、三つ」
影からシュナイダーの声。刹那、三体の喉が裂かれ、血が飛沫のように散った。姿は見えない。
「うおおおっ!」
カイルが大剣を構え、獣へ突っ込む。
だが動きが直線的すぎる。犬型の牙が彼の腕を狙う。
「遅い」
俺は指を二度動かす。風が軌道を逸らし、牙は石を噛んだ。
その隙にカイルが渾身の一撃を叩き込み、獣を両断する。
「ありがとうございます、副団長!」
「次は自力で避けろ」俺は淡々と答える。
---
群れはまだ尽きない。十、二十。壁を蹴り、天井からも落ちてくる。
「面倒だな」俺は指を鳴らす。
瞬間、圧縮した空気が爆ぜ、通路を埋める魔物がまとめて吹き飛んだ。
骨が折れる音、肉が裂ける音が重なり、十体が壁に叩きつけられ、沈黙する。
「……やっぱりお前が本気を出すと楽すぎるな」
オルフェンが笑い、大剣を振り払う。
「だが数が揃っていた。浅層にしては異常だ」セリナが眉をひそめた。
リィナが拾い上げる。「これ……笛の破片?」
湿った床に転がっていたのは、小さな管だった。割れているが、昨日見たものと同じ作り。
「やはり……人為だな」俺が呟く。
「浅層の魔物が、連携して動くはずがない」シュナイダーの声が続いた。
「つまり、昨日のスタンピードと同じ……」カイルが拳を握る。
「まだ浅層でこの有様か」ガルドが肩を鳴らす。
「先へ進もう」オルフェンが前を向いた。「答えはもっと下にある」
湿った風が通路を抜け、冷たく頬を撫でた。
俺は手袋を直し、指輪を一度撫でる。
(深い層に潜れば、もっとはっきり見える。これは……序章にすぎない)
七人は再び進み出す。背後には血の匂い、前方には闇と湿気。
浅層の影は、まだ始まったばかりだった。




