異国
静かな青い漆喰のシャワールームがあった。
簡素なシャワーを備えただけの
がらんとした作りだったが、
ひとりが適当に水を浴びるのには
申し分なかった。
わたしは何をするでもなく、乾いた床を踏みしめていた。
天井を気にすると、巨人のてのひらにやさしく匿われた心地になる。
意識をとおくに投げかけると
こどもの夢の片りんが頭をかすめた。
知っている構図に出会ったきがした。
しかし、息を吸いなおしたら
おとなの食具のつめたさが身に戻る。
重厚な洋食器、かちゃりとなるグラス。
ふと、シャワーが目についた。
手持ち無沙汰で蛇口をひねる。
ばらばらと散らばる真水は、本物すぎて、
青臭かった。苦みさえ錯覚した。
レモン水を飲んだあとの飽きが
いやがうえにもよみがえる。
小窓からは
変わらず、ひるまの青褪めた光が差す。
わたしは床にひざまずき
胎児のかっこうをとった。
行き先はわからない
ただ準備だけはととのえておこうと。
ひっそりと、異国の風にさらわれるのを待つ。