俺は天然じゃない
数ある作品から、本作品を選んでいただいていただきありがとうございます。
連載中の作品の気分転換に書いてみました。
天然って何だろうなって思ったのがきっかけで書いてみました。
気楽に楽しんでいただければ幸いです。
天然。性格が天然とはなんだろう。マイペース。会話の受け答えがズレている、独特な性格を持っている等、様々な意見がある。もちろん悪い意味に使われることもあれば、いい意味に使われることもある。
俺、海道翼は家族や近しいもの達から天然と言われる。だが自分では天然と思ったことはない。俺は天然ではない。ただ自分に正直なだけだ。
「おーい翼。帰ろうぜ。」
「亮か。いいぜ。帰ろう。」
俺は親友の亮と一緒に学校を後にする。亮との付き合いは幼稚園からだ。家もすぐ近くで、2人でよく遊んでいた。ただ最近亮に彼女ができたため、一緒に遊ぶ事は極端に減った。今日も彼女が別の用事で一緒に帰れないため俺と帰っている。
そんな俺達も高校2年生だ。高校2年生となると進路が気になる頃だ。俺達は大学進学希望のため、大学を何処にするかの話をしていた。
「俺はロボットの研究をしたいから電気大学かなあ。偏差値高いし、国立だから勉強頑張らないとだけど。翼は何処にするんだ?」
「俺か〜。うーん。大北大学かなあ。」
「・・・それって近いからとかいう理由じゃないよな。」
「そうだけど?」
俺の返しに亮はため息をつく。そして俺の目の前に回り込むと、俺の肩を力強く掴んだ。
「お前な。人生1度きりなんだからもう少し考えろ。やりたいこととかないのか?」
「うーん。今のところ特には。ただ何にでも興味を持てる性格だと思っているから、大学に行って探すのもありかなあと。」
「そうだとしてもだ。もう少し考えろって。別に実家にいたいわけじゃないんだろ?」
「そうだけど。ただ学校の距離の近さは大事だろ。通学が遠いと大変だし。」
「そんなの一人暮らしをすればいいじゃないか。別にこの県に拘る必要もないだろ。」
「そっかあ。そう言われてみればそうだな。」
俺の答えに亮は力なく肩をおとした。そんな呆れるような事を言ったつもりはないんだけど・・・。
「お前は本当に・・・。天然というとかなんというか。」
「む。天然という言葉は聞き捨てならないぞ。俺は天然じゃない。自分に正直なだけだ。」
「いや、天然だよ・・・。」
「なんの話ししてるの?」
俺達が話している時に、急に明るい声が割って入ってきた。俺達は声がした方向へ振り向く。そこにはポニーテールが特徴的な可愛い女子生徒がいた。
「雫か。委員会早く終わったんだな。お前からも言ってくれよ。こいつが天然でさあ。」
「天然じゃない。正直者だ。」
「あはは。いや、翼は天然だよ。」
「むぅ。」
雫が可笑しそうに笑う。それと同時に彼女のポニーテールが左右に揺れた。彼女は天美雫。可愛らしい姿でありながら、明るい性格で誰とでもすぐ仲良くなるのでクラスの人気者だ。沢山の人が彼女に告白しているが、皆玉砕している。理由は不明だ。
雫との付き合いは中学1年からだ。1年の時、彼女が教室で1人不安そうに席に座っていたのを見た俺が絡みに行き、そして亮も巻き込んだ。
彼女はいきなり絡んできた俺に驚き、不安そうにしていたが、遊ぶうちにその不安も消えたのだろう。次第に俺達に笑顔を見せてくれるようになってくれた。それからは3人で遊ぶようになった。俺達と遊ぶことで人付き合いの不安はなくなったのだろう。彼女はあっという間に友人を増やし、クラスの人気者となった。
高校2年生になった今でも3人で遊ぶことはある。ただ亮に彼女ができてからは、3人で遊びに行く頻度は極端に減った。流石に2人で遊びに行くことはなかった。それでも俺は雫と一緒に帰ることもあるし、教室でもよく話す。クラスで一番仲がいいと自負している。
だが俺は彼女に弱い。俺は中学1年生の頃から雫に片思いをしているからだ。中学1年生の時、雫に話しかけたのはなんとなくだ。1人ぼっちは寂しいだろうと思って、話しかけたのだ。それから一緒に遊びに行く事が増えて、彼女の事を知る機会が増えた。彼女は笑顔も可愛いいが、時々失敗して恥ずかしがる姿がとても可愛らしかった。一緒にいるうちにいつの間にか目で追いかけるようになった。そして気がついたら好きになっていた。
「そんなことより、雫も大学進学だろ?何処に行くのか決めてるのか?」
「私?私は川崎大学だよ。あそこにいる教授の研究が気になるんだ。」
「な?普通はもう少し志望動機を固めるもんなんだよ。だからもうちょっと考えろって。」
「なら俺も川崎大学にするかなあ。」
「え?」
雫がその言葉を聞いて固まる。亮は呆れたような顔でこちらを見た。
「お前、それって雫が行くから?」
「そうだけど?」
「いや、それはストーカーレベルだぞ。気持ち悪いからやめとけって。」
「そうなのか。雫もやっぱり気持ち悪いと思うか?」
雫に駄目と言われたら素直に諦めようと思い、彼女に聞く。だが彼女は困ったような表情を浮かべていた。頬が少し赤い気がするのは気のせいだろうか。
「全然気持ち悪くはないけど・・・。もう少し、自分の理由を持ってほしいかな。私が行くからっていう理由だけで決めちゃうとね。もし私が落ちたらどうするのって話になるし。」
それを聞いて素直に納得する。雫が目的になってしまうと、雫が行けない時に何を目的にすべきなのかわからない。何にでも興味を持てるとは思うが、亮に言われた通り、大学にも興味を持ったほうが良さそうだ。
「それもそうか。でも今のところ希望の大学がないんだ。だからもう少し川崎大学の事を教えてくれないか。もしかしたら俺の興味があることがあるかもしれない。」
「それならいいよ。明日資料持ってきてあげる。」
「さんきゅ。」
そんな話をしながら3人で帰り道を歩く。そして雫と別れる場所まで来た。雫が俺達に向けて手を上げる。
「それじゃあ。私こっちだから。また明日ね。」
「おう。また明日。」
「また明日。急ぎじゃないけど、学校の資料よろしくな。」
「うん。」
そう言って雫は去っていった。雫の姿が完全に見えなくなってから俺達は同じ道を歩き出す。亮は不思議そうに首を傾げた。
「それにしても翼、雫とよく話すよなあ。教室でもよく話しているし。」
「好きだからな。」
「おう、直球。もう告白すればいいじゃないか。2人は仲が良いし、なんだかんだうまく行きそうな気がするが。」
「何度か言ったぞ。でも流されて終わりだった。」
「どんなタイミングで言ったんだ?」
「教室で雑談している時にだな。よく「私に絡むね〜」と言われたから好きだからと言った。」
「すごい度胸だな。それでどんな答えだったんだ。」
「「またまた〜」って言われて流された。まあ俺も不安でそれ以上は突っ込めなかったんだが。」
実は会話の流れで雫に何度か好きだと伝えたことがあるのだが、何時も流されていた。明確に断られるわけではないからもどかしい。だが、不安でそれ以上聞く事はできなかった。
そう言うと、亮は何か考え込んでいるようだった。やがて顔をあげると、力強く頷いた。
「それは翼が悪いな。告白するならシチュエーションが大事だ。相手が逃げられない場所で、100%誤解のないタイミングで言わないと。」
「そうなのか。流石彼女持ち。うーん。ちょっとタイミングを考えてみる。」
「そうしろ。もたもたしているうちに誰かと雫が付き合い始めたら悲しいしな。うまくいったらダブルデートしようぜ。」
「そうだな。頑張る。」
その日はそう言って亮と別れた。告白するタイミングというのは中々難しい。
どこかに呼び出しても今の状態だと、また告白ではないと勘違いされてしまうかもしれない。絶対に逃げられない場所で100%誤解のないようにするようにしないと。俺はそんな事を考えつつ眠るのだった。
だがそのタイミングは意外に早く訪れた。数日たったある日のこと。6限のHRの時間で、学園祭の出し物について決めることになった。各チームに別れて1つの出し物を決め、それらを集めて最終的に多数決で決めることになった。俺は亮と同じチームになったが、内容決めは難航していた。喫茶店と展示会で揉めていたのだ。
「だから展示会がいいんだって。そうすれば皆学園祭を自由にまわれるしさ。楽な方が良いだろ。」
「でも何もしないのが嫌なんだよ。俺としては喫茶店の準備とかで皆と盛り上がりたいんだ。」
亮と他の男子生徒達が意見をぶつけ合っていた。男子生徒達は展示会。亮は喫茶店がやりたいようだった。亮が縋るようなめで俺を見た。
「翼。お前はどっちなんだ。」
「俺は喫茶店かなあ。」
「え〜。なんで。」
「雫に制服姿で給仕されたいから。」
そういうと展示会と言っていた男子生徒達はピタッと止まっていた。どうやら頭の中で雫が給仕している姿を想像しているらしい。雫はスタイルもかなりいい。制服姿で給仕したらかなりモテるだろう。その姿を勝手に想像するなんてけしからんといいたいが、今は意見の一致が大事だ。亮がここぞとばかりに攻める。
「どうだ?雫も含め、女子生徒達に給仕されたくないか?メイド喫茶と言うと文句が出そうだから、普通の喫茶店だ。それなら女子生徒達の反発も少ないんじゃないか?」
「確かに・・・。」
「有りだな・・・。」
展示会といっていた男子生徒達も欲望には逆らえなかったらしい。こうして、俺達のチームの意見は纏まった。チーム内で纏めた意見を集めて、全体で多数決となった。その他の意見だと、お化け屋敷や俺達が却下した展示会などが候補に上がっていた。ここから多数決になるのだが、その前に亮が手を上げた。
「先生。ちょっといいですか?」
「どうしました?」
「俺達があげた喫茶店なんですけど、もし喫茶店にしてもらえるならいい案があります。実は翼のお姉さんが服飾系の大学に通っていて、色々な服を作っています。そこで翼のお姉さんから服を借りられれば、一風変わった喫茶店ができると思います。勿論着るのが嫌な人は普通に制服でいいと思いますし。」
「ほう。それは面白いですね。どうなんですか?海道君?」
担任が俺に聞いてくる。亮は俺を見て申し訳なさそうにしているが、喫茶店にしたくて必死なのだろう。そこまでする理由はわからんが、俺としても雫の給仕姿は見てみたい。それに姉が服飾系の大学に通っているのも事実だ。
「姉が服飾系の大学に通っていて、色々な服を作っているのは事実です。サイズ直しとかはあるかもしれませんが、期間もまだありますし、感想とかを聞かせてくれるなら協力してくれるかもしれません。」
「・・・とのことですが皆さんどうですか?」
担任が皆を見回す。皆から「良いかも・・・。」「面白そう・・・。」という声がちらほら聞こえてくる。それを見て担任は頷いた。
「じゃあ、それを踏まえて多数決を取ります。ただし、先程の件は確定事項ではないことを忘れずに。駄目だったら普通の喫茶店ですからね。じゃあまず1つ目・・・。」
そう言って多数決を取り出した。結果は喫茶店の勝利。亮がガッツポーズしている。俺もつられて嬉しくなり、亮と握手した。皆も結果に一喜一憂している。それを鎮めるために担任が手を叩いた。
「はい静かに。では、喫茶店に決定ということで。海道君。お姉さんに聞いてもらえますか。」
「わかりました。」
「先生。そこでもう1つ提案があります。」
「なんでしょう。」
「翼のお姉さんだから大丈夫だと思いますが、実際に着る人の意見も必要だと思います。なので、翼の相方として1人女子生徒をつけてもらえませんか。」
「なるほど・・・。確かにそうですね。女子生徒の意見も大事です。では海道君。誰か希望はありますか?仲のいい人がいいでしょう。」
亮が手で俺をつついてくる。その目はわかっているなという目だ。なるほど。ここで決めろということか。俺は亮に向かって力強く頷くと先生に目を向けた。
「先生。雫が良いです。」
「なるほど。天美さん。いかがですか?」
「私ですか?いいですけどなんで?」
雫は頷くが何故自分が選ばれたか不思議そうだ。いやまあ一番仲いいのが雫というのが一番の理由なのだが、ここは決めるべきところだと言われたからな。俺は雫を見て満面の笑みで答えた。
「俺が雫のことが大好きで少しでも一緒にいたいから。」
瞬間。クラス全体の時が止まった。
「お・・・おい。翼・・・。」
「?」
恐る恐るといった感じで亮が俺の方を見る。なにか変なこと言ったかな?絶対に逃げられない場所で100%誤解のないように言えと言ったのは亮なのに。雫の方を見ると、真っ赤な顔をしてプルプルと震えている。おお。今回はちゃんと伝わったようだ。ならもう一言だな。
「追加で言うなら、家族にこの人が、自分の大好きな人で、少しでも早く結婚したいと考えている人ですって紹介したいから。」
「!!」
雫がさらに顔を真っ赤にして俯いてしまう。おお。流石は彼女持ちの亮のアドバイスだ。効果は抜群だ。だが返事が聞けないのは困るんだが。
「あっはっはっはっはっはっは!!あ〜お腹痛い!!」
担任が俺の言葉を聞いて爆笑している。なんだろう。変なこと言ったかな。それよりも返事を聞かないと。俺は固まっている雫の元に近づくとしゃがみこんで顔を覗き込んだ。
「それでどう?雫の答えが聞きたいんだけど。」
「む」
「む?」
「むりぃぃぃぃいぃ!!!!」
雫はそう叫んで教室から飛び出していってしまった。それを見て担任がさらに爆笑している。何故だ?仲は良かったから、真正面から告白すればいけるかなとは思っていたんだが、逃げられてしまった。やはり絶対に逃げられないように全校生徒の前とかでやったほうが良かったのか?それに無理と断られてしまった。振られたことがショックで俺も泣きそうになる。思わず亮の方を振り向くと、彼は数年老け込んだようにげっそりとしていた。
「翼・・・。やっぱりお前天然・・・。いや、ただの馬鹿だわ。」
「なんで?お前が言ったんじゃんないか。絶対に逃げられない場所で100%誤解のないように言えって。」
「だからって教室の皆のいる前でやるなよ・・・。流石に雫に同情するわ。」
同意するようにクラスメイトの皆が頷く。納得していないのは俺だけのようだ。担任は相変わらず爆笑している。亮が俺の方に近づいてきて、肩に手を置いた。
「とりあえず追いかけろ。場所はわかるだろ?」
「わかるけど。でも俺断られたぞ。」
「あの場では恥ずかしくて、そう言うしかなかったんだって。もう一度、今度は2人きりで話してこい。」
「あ・・・ああ。わかった。」
俺は皆に見送られて教室を出た。雫はおそらく屋上だろう。1人になりたいときやテンパった時は必ずあそこにいるのだ。俺は彼女に追いつくために走り出した。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「雫。見つけた。」
「ぴぅ!!」
俺の言葉に雫がビクリと反応する。俺の予想通り、雫は屋上にいた。入口からは見えづらい位置で座り込んでいる。
「なあ。俺にとっては一世一代の告白だったんだけど。やっぱり駄目なのか?」
「・・・・・・ない。」
「?」
首を傾げる俺に、雫は立ち上がり俺に掴みかかった。
「ありえない!!よりによってなんであんなところで告白するのよ!!皆に揶揄われるに決まっているじゃない!」
「いや、何度か告白したけど流されただろ。」
「軽い雰囲気で「好きだから」なんて言われても本気かどうか分かるわけ無いじゃん!!それで一喜一憂したくなかったのよ!!」
「一喜一憂してくれるんだ?」
「・・・。」
雫がしまったという顔で口に手を当てる。そして再び座り込んでしまった。やばい。どうしよう。ニヤニヤが止まらない。でも流石に俺でもわかる。ここはやり直すべきだ。
「雫。立って?」
「・・・何よ。」
「いいから。」
俺は雫を立たせると、彼女を真正面から見た。
「雫。ずっと昔から好きでした。俺と結婚前提で付き合ってください。」
「・・・はあ〜。」
俺の再度の告白に雫はため息を吐いた。なんだ。またなにか間違えたかと思ったら、雫が俺に寄りかかってきた。
「この天然。」
「?」
「結婚前提なんて気が早すぎるわよ。せめて普通に付き合ってにしてよ。」
「いや、俺は雫としか結婚したくないし、可能なら来年にでも籍を入れたいくらいだ。」
「重い・・・。」
「嫌か?」
「・・・それが嫌じゃないって思う私も相当重症なのかしら。」
「本当か!?」
思わず飛び上がって喜ぼうとしたが、雫が寄りかかっているのを思い出してなんとか耐える。代わりに雫をそっと抱きしめた。
「ありがとう。本当に嬉しい。」
「私も・・・。でもどうしてあの場で告白したの?」
「いや、亮が絶対に逃げられない場所で100%誤解のないように告白しろって言ったから。結局逃げられちゃったけど。」
「亮め・・・。戻ったらしめてやる。」
「それよりもさ。」
「?」
「一緒の大学行こうな。これからも一緒にいような。」
「・・・お願いだから、自分のやりたいことも見つけてよ。」
「おう。」
雫が俺を抱きしめ返してくる。
その後、2人で教室に戻ると、俺らの様子でうまくいったことはわかったようで、女子生徒達には祝福され、男子生徒達には羨ましがられた。担任は「若いって良いねえ。」と何処か遠くを見ていた。ドタバタしたが、今回の事で雫に告白しようとした人達はいなくなったようだ。それは嬉しかった。
ただ一番納得行かないのが、俺のあだ名が天然君になったことだ。雫や亮もたまにそう呼ぶ。・・・解せぬ。
この主人公。一歩間違えると危ない人になるんですよね・・・。
うまくいってよかったねって話でした。
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