その六
ディアナ様はわたくしに起こった最近の出来事など知らないので、事情が呑み込めずに取り乱していた。
不幸話などあまり広めたくはない。
でも、友人の彼女にはお父様の事故死とお母様の再婚をちゃんと話しておきたい。
「込み入った話なのでここではちょっと。……外で話す内容でもないので」
「それなら、うちでふたりきりのお茶会をしましょう!」
なんとディアナ様がお茶会に招待してくださった。
久しぶりにお会いできただけでも嬉しいのに、王都でもおつき合いしてくださるなんて。
「嬉しいです。またディアナ様とお茶会ができるのですね」
「あの、シャルロッテ様がいらっしゃる際はお義兄様のエスコートが必要だと思います!」
ディアナ様が頬を染めて、横にいるユーリアスお義兄様を見つめる。
そうですよね。
ディアナ様は婚約者を探して、王都へ出ていらしたのですもの。
お義兄様が気になりますよね。
「ええ、フォルタナ様。シャルロッテをエスコートしてお伺いします」
お義兄様の了承に「まあ」とディアナ様が嬉しそうに歓声をあげた。
するとちょうど入店したふたり組の女性がユーリアスお兄様をちらちら見てから、わたくしやディアナ様を厳しい目つきで睨んでくる。
「騒がしいと思ったらフォルタナ男爵令嬢だわ」
「嫌ね、お店で奇声とか。これだから田舎者は」
あとから帽子店に来た女性たちが嫌味を言ってきた。
都会育ちなのかツンとしていて、お高く留まった感じだ。
「あ、お久しぶりです……」
「せっかく私たちが都会の作法を教えたのに、まったくできていないわ」
「やはり田舎者には無理なのですよ」
どうやらディアナ様はこのふたりと面識があるらしい。
でもいい関係ではないのか気まずそうにしている。
明らかにディアナ様が困っているようだ。
いま助けます!
わたくしは戦闘モードに入るべく伊達眼鏡をかけた。
交渉に限らず、同性同士でやりあうときも童顔を舐められないよう眼鏡で武装するのだ。
気合いが入って強気になれる。
「何か用ですか? 急に横から割り込んで」
「あなたたちみたいなのがどうしてバーナント様といるのかしら」
「不釣り合いだと自覚すべきだわ」
彼女たちは、どうやらわたくしたちがユーリアスお義兄様といるのが悔しいらしい。
それにしてもさすがお義兄様ね。
モテると侍女に聞いてはいたけど、王都の女性たちに顔を知られているとは。
でも大切なお友達のディアナ様を田舎者呼ばわりしたことは許さないわ。
敵対心とは裏腹に、わざと優しい口調で聞き取りやすいように心がける。
「あら、帽子を選ぶのですもの。親しい男性の意見は大切ですよ」
「何ですって⁉」
「親しい男性と言いましたか⁉」
兄妹だから親しい間柄。
それを彼女らが勝手に誤解しただけ。
ふたりは慌てた様子でお義兄様へ詰め寄る。
「バーナント様、この女性と親しいって本当なんですか?」
「あの! 彼女たちとはどういうご関係ですの?」
ふたりの声が途切れたタイミング、それを見計らってすかさずお義兄様へ声をかける。
「あの! わたくしのことは大切ですよね」
「ああ、もちろんだ」
「嬉しいです。ではわたくしが懇意にしているディアナ様も大切ですよね」
「シャルロッテの友人なんだ。当然大切に思うよ」
お義兄様から狙い通りの言葉を引き出すと、感じの悪い令嬢ふたりへ向き直る。
「まったく驚きです。買い物をする親しい男女の会話に割って入る人がいるなんて。無粋にもほどがあるでしょう。一体どちらの田舎者かしら」
にっこり微笑むと女性たちは顔を赤くする。
「な、な、な!」
「ぶ、無粋ですって⁉」
何か反論しようとしたけど、結局何も言えず悔しそうに店を出て行った。
「助かりました!」
「いいえ、ディアナ様のためですもの」
ディアナ様は感謝を述べながらも驚いている。
「だけどびっくりしました! シャルロッテ様の眼鏡姿、とても素敵です!」
とまどう彼女の反応に眼鏡姿を引かれたかもと心配になったけど、まったく大丈夫だった。
それどころかお義兄様などは、この変わった見た目に好反応を示す。
「いつも持っていた伊達眼鏡で、こんなに大人っぽい美人に変身するんだな」
その辺の令嬢など、伊達眼鏡を掛けたわたくしの相手にならない。
本当ならあのサンドラ様にだって口論で負ける気などなかったのだ。
あのときは、お父様の事故死で悲しみに暮れるなかで辺境伯位のさん奪に衝撃を受けた。
その状況で、コンプレックスの童顔を変えられる伊達眼鏡が手元に無かったのは痛かった。
一言でいい、あのとき言い返せたら。
そうすればこんなに彼女を気にすることはなかったのに。
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