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その五

 週末になり、わたくしとユーリアスお義兄様は馬車ではなく並んで街を歩いていた。


「あの……なんだか目立っていますね」

「普通の格好だと思うが」


 お義兄様は気にしていないが、わたくしは落ち着かなくて伊達眼鏡を握る。

 後ろに侍女をひとり連れて、三人で歩いているだけ。

 なのに、かなりの注目を集めている。


 一応わたしくしのドレスは、お気に入りの薄いピンク色を選んで華やかにした。

 でもそれよりもユーリアスお義兄様のキラキラが凄い。

 目立つ白い騎士団の制服ではなく、深い紺色のジャケットで、合わせたグレーのスラックスが脚の長さを際立たせる。

 美麗な顔だけでも視線を集めるのに、スタイルの良さで余計に周囲の注目を集めていた。


 すれ違う女性は振り返るし、男性ですら歩みを止めて見るのだ。


 視線は気になるけど、お義兄様を見た人が驚くのは仕方がないと思う。

 一緒に暮らして三か月。

 そのわたくしですら、顔を合わせればいまだに緊張するのだから。

 美人は三日で飽きると誰かが言ったそうだけど、本物の美形がそばに居るとあれは間違いだと分かる。


「歩くのは好きですけど、やはり馬車じゃないと見られているようで……」

「そうか……。気づかなくてすまない。次の移動は馬車にしよう。ところで、ここが女性に人気の帽子店らしい。見ていこう」


 お義兄様が帽子店の前で足を止めた。

 周りからの視線が気になっていたので急いで店に入る。

 すると、とても素敵な店内が目に飛び込んできた。


 なんて光景でしょう!


 店内に並ぶ色とりどりの帽子たち。

 王都の帽子店は凄い。

 故郷、ウォルタナには婦人向けの帽子店がなく、出入りの商人が王都から仕入れるのを待ちわびていた。

 その王都の新作がところ狭しと並んでいるのだ。

 わたくしは、嫌なことなどすっかり忘れて帽子たちを見て回った。


「あ、あの! シャルロッテ様ではありませんか?」


 急に女性から話しかけられた。

 一緒に歩いていても注目されるのはユーリアスお義兄様ばかりで、自分が声をかけられるなんて想像していなかった。


「え、えーと……どなたでしょう?」

「シャルロッテ様、私です! ディアナです」

「ええ! ディアナ様ですか⁉」


 なんと、同郷で幼少の頃に親しくした友人のディアナ・フォルタナ様に出会った。

 地方領主の四女であるディアナ・フォルタナ様。

 彼女は、三年前に単身で王都のタウンハウスへ移り住んでいる。


 親の勧める婚約者候補が年上のおじさんばかりで嫌気がさして、条件のいい婚約者を自分で探すために王都へ住むのだと聞いていた。


 目の前の彼女はあか抜けて、すっかり都会のお嬢様になっている。

 夕日ように明るい茶色の髪が後ろで結われていて、黄色のドレス姿がとても可愛らしい。

 綺麗なオレンジの瞳だけは変わっていなかった。


「お久しぶりです、シャルロッテ様」

「ディアナ様もお元気そうで何よりです。本当にお久しぶりですね」


 明るくて元気なディアナ様とは、ウォルタナにいるときにずいぶん仲良くさせていただいた。

 彼女は領地の中でも肥沃で広大な耕作地を管理するフォルタナ男爵の四女で、気が合うのでよく一緒に遊んだものだ。

 再開が嬉しくて、ディアナ様と手を取り合ってはしゃぐ。


「シャルロッテ様、今日はお一人で?」

「いえ、あそこに兄がいます。すみません、お義兄様」


 ディアナ様へ紹介しようとユーリアスお義兄様を呼ぶと、急に彼女があたふたしだした。


「え? あ、あの、シャルロッテ様? こ、この素敵な男性と一緒に買い物ですか⁉」

「ええ、最近できたわたくしの兄です。今日はふたりで買い物に来ました」


 ユーリアスお義兄様が、わたくしの友人ディアナ様へ丁寧に挨拶する。


「ユーリアス・バーナントと申します。シャルロッテの兄です。どうぞよろしく」


 お義兄様が彼女の手に軽くキスをした。


 クセのある長い銀髪が輝いて、軽く微笑む横顔がまるで絵画のようだ。

 ディアナ様は彼の挨拶を受けて固まった。

 口をパクパクさせて返事をできずにいる。


 緊張しますよね。

 ユーリアスお義兄様は素敵ですもの。

 では、わたくしが代わりにディアナ様を紹介しましょう。


「お義兄様、こちらは友人のディアナ・フォルタナ様です」


 彼女を紹介すると、ハッと我に返ったディアナ様が慌てて淑女の礼を取る。


「あ、はい。ディアナ・フォルタナですっ!」


 お義兄様の前でカチコチに固まったディアナ様が挨拶を終えてから、顔だけをゆっくりとこちらに向ける。


「いま、お義兄様って言いました⁉ シャルロッテ様って確かひとりっ子でしたよね? あの……お義兄様って?」



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