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その四十三

 不安になってディアナ様と同時にためいきを吐くと、ブランターク侯爵が明るく話しかけてくださった。


「平気平気。人さらいの事件をうやむやにされそうになったら、俺が外交問題をちらつかせるから。あ、でもフリだから本気にしないでくれよな」


 冗談めかしてはいるけど、侯爵は隣国側の利益を追求する立場。

 あまり迷惑をかけられない。

 それに、本当に外交問題になって戦争の切っ掛けにでもなったら大変だ。


 わたくしは不安な気持ちのまま部屋の隅の大男をじっと見る。

 彼は議論の手札として終盤に登場させる手はず。

 この目隠しと耳栓をした大男が、叔父様を前にして狙った反応をしてくれたらいいけど。


 あれこれ考えながら拘束された大男を見ていたら、謁見の準備ができたと王城のメイドが呼びに来た。

 予定時間よりずいぶん早い。

 訝しく思いながらもみなさんと謁見の間に向かう。


 お父様であるバーナント卿、後継者であるスチュアートお義兄様、それに続いてブランターク侯爵、最後にわたくしとディアナ様が入室した。

 ブランターク侯爵の通訳はわたくしが務める。


 謁見の間を見渡すが、国王陛下はまだいらっしゃらない。

 最後に入室されるのだろう。

 ほかには白い騎士の制服を着た王国騎士団が、壁際に並んで立っていた。


 お義兄様を見つけて目を見張ると、彼がわたくしだけ気づくタイミングで目くばせ。

 バチっと音が鳴ったと思うくらい、好きな人からの視線は刺激が強い。

 こちらも負けじと目線を返す。

 隣に並ぶヘンリー様に気づかれないように「好きです」と強い想いを込めた。

 彼との秘密のやり取りが楽しくて、緊張で固く結んでいた口元がつい緩む。


 ほどなくして、先ほど入室した扉が開いた。

 入ってきた人物にわたくしの体が反射的にこわばる。

 最初に見えた叔父様に口を強く結ぶが、彼だけでなく、なんとサンドラ様も姿を見せたのだ。


 叔父様は立派な服だが猫背で似合っておらず、なんだか服に着られているよう。

 あとに続くサンドラ様は派手な赤いドレスと化粧でけばけばしい。

 叔父様は最初、緊張で死にそうな顔をしていたけど、国王陛下の椅子に誰もいないのを確認して表情を緩ませた。


 おずおずと前へ進む叔父様のあとを赤いドレスのサンドラ様が続く。

 彼女は人を見下したような視線を周囲に向けていて、いかにも成金を思わせる育ちの悪さを感じさせた。


 ……まさか彼女が一緒だなんて。


 サンドラ様はこの謁見に招集されていないはず。

 スチュアートお義兄様と同じで、後継者であると陛下に認知してもらうために連れて来たのかしら。

 いえ、叔父様をフォローするためかもしれない。

 叔父様だけなら眼鏡なしでも何とかなりそうでしたのに。

 絶対に彼女が口出ししそう。


 こちらを見たサンドラ様と目が合った。

 彼女の赤い髪に赤い瞳が視界に飛び込み、思わずつばを飲み込む。

 後ずさりしそうになり足に力を入れた。


 彼女を克服しないと!

 悲しみに暮れていては駄目とお母様にも言われたのですから!


 いつまでもサンドラ様に苦手意識を持っていては、彼女の策略で辺境伯をさん奪されたお父様に顔向けできない。

 童顔だからと怖じ気づいては駄目だ。

 眼鏡なしで彼女を負かして強くなる、わたくしはそう強く意識して表情を引き締めた。

 こちらの覚悟が伝わったのか、サンドラ様は目を細めてわたくしを見やる。


「あら、あのへんな眼鏡はしないんだ?」

「な、なくても負けませんから」

「子供みたいな顔で凄まれてもねえ」


 彼女にはバレている。

 伊達眼鏡に依存しないと自信が持てないのだと。

 だから誕生パーティでは扇子で眼鏡をはたかれ、彼女にいいようにやられた。

 修羅場を乗り越えても変わらず自信はないまま。

 でも、たとえ眼鏡がなくても絶対彼女を乗り越える。

 そしてお義兄様との婚約を阻止する。

 そう気持ちを強く持って彼女に向き直る。


「フン。どうせ頼りない私のお父様を追い込もうとしたんでしょ? 残念でした。私が相手してあげるわ」

「望むところです」


 わたくしが睨み返すと、彼女はフンとした態度でユーリアスお義兄様へ視線を移す。


「見てなさい。今日は彼も奪ってやるわ」


 サンドラ様が壁際で警護任務につくユーリアスお義兄様に駆け寄る。


「まあ、ユーリアス様! 護衛騎士の凛々しいお姿が眩しいですわ」

「これはウォルタナ様」


「もう! 婚約するんですから、サンドラと名前で呼んでくださらない?」

「それは警護任務中のこの場ではちょっと」


「でも婚約者になるんですよ? この謁見が終わったらぜひ名前呼びで!」

「分かりました。国王陛下に婚約のご報告をしてから名前でお呼びします」


 お義兄様が抑揚なく返事をして会話は終わったけど、それでもサンドラ様はその場から動こうとしない。

 叔父様はというと奔放に振る舞う彼女を咎めもせず、こちらをちらちらと見ている。

 そしてブランターク侯爵に気づくと、猜疑心あらわに上目遣いで睨んだ。


「き、貴公がブランターク侯爵かな? 若いとは聞いたが、こ、これほど無礼とは」


 侯爵がわたくしに通訳を求める。

 叔父様が中身のない話をしただけなので無視でいいと思ったけど、侯爵は受けて立つ気みたい。

 いまからするのは舌戦。

 なら、言い換えや補足をせずに正確なほうがよろしいですね。



※ ブクマしてくださると嬉しいです!

m(_ _)m

お願いします。


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