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その四

 お母様の結婚式から数日が経った。


 バーナント卿が新しいお父様になり、スチュアートお義兄様とユーリアスお義兄様という素敵な兄妹ができた。

 でも、親戚として対面したひと月前と感覚は変わらない。

 このバーナント家の屋敷もまだ自分の家という感じがせず、戸惑いながら生活している。

 当然、ひとつ屋根の下で暮らせば出勤前のお義兄様と会ったりも。


「やあ、シャルロッテ」

「ユーリアスお義兄様、ごきげんよう」


 少し長い銀色のくせ髪が騎士団の白い制服によく映えて。

 もう素敵すぎる。

 同じ家にこんな格好いい男性がいるなんて、いまだに信じられない。

 しかも、わたくしに元気がないのを気にしてよく声をかけてくれる。


「気晴らしに街へ出てみてはどうだ?」

「お心遣い感謝いたします。でもまだよく知らない土地ですし、ご一緒するお友達もいませんし」

「では、私と一緒に行こうか」


 お母様がバーナント卿と再婚して、新しい家族としての生活が始まった。

 それまでの二か月は、不幸な事情をかかえた母子が一時的に親戚を頼って身を寄せていた訳だけど、お母様の再婚で居場所ができた。


 新しく父となったバーナント卿やふたりのお義兄様はとても優しい。

 主人であるバーナント卿の人柄のお陰か使用人たちもよい人ばかり。

 新参者のわたくしたちにも大変よくしてくれる。

 メイドたちの心のこもった対応が逆に、故郷で仲のよかった使用人たちを思い出させた。


 周りに優しくされても気分は落ち込んだまま。

 自分ではどうにもできない。

 尊敬する大好きなお父様が亡くなり、生まれ育った屋敷や故郷から追い出されたばかりなのだから。


 もうバーナント家の子女になったのです。

 このままではいけない。

 バーナント家の利益になる結婚ができるよう、女子力を磨くべき。

 そうでないなら、別のことでバーナント家の名をあげるように考えなくては。


 幸いわたくしには、ほかの誰にも使えない魔法が使える。

 世にも珍しい「異国の言葉を自在に操れる通訳魔法」で、知らない言葉でも母国語のような会話を可能にする。


 この通訳魔法を使えば、異国の言葉を駆使する外交官僚になれる。

 頑張って家に貢献しなければならない。

 新しいお父様のバーナント卿は何も気にするなと言ってくださる。

 けど、そんな訳にはいかない。


 元気を出さねばと、無理に笑顔を作ってみる。


「お義兄様と一緒に街へですか? 嬉しいです。でもすみません。今回は遠慮いたします」

「なぜ? 行きたいのだろう?」

「わたくしがお義兄様の妹だと周りに知られていません。お義兄様は女性から人気があるので噂になります。それに……」


 整ったお義兄様の顔がキラキラ輝いて見えたので、ドキリとして目をそらす。


 あまりユーリアスお義兄様と仲良くしてはいけない。

 こんな神が創ったような美麗な人とふたりで買い物なんて危険すぎる。

 理由は単純。

 好きになってはいけない相手だから。

 わたくしとお義兄様は、血は繋がっていなくとも兄妹で家族なのだ。

 もうすでに惹かれ始めているのに、これ以上仲良くしたら本気になりかねない。


「私と噂になっては嫌か?」

「嫌ではありません。でも、世間体があるのでお義兄様がお困りになるかなと」


「困る? 相手がシャルロッテならむしろ嬉しいよ。では週末は開けておいて」

「え、えーと、あの……」


 突然のお誘いに戸惑ってしまう。

 お義兄様がわたくしを気遣ってくださったのだ。

 元気のないわたくしのために。


 彼の優しさがとても嬉しい。

 好きになってはいけないけれど、先にあれこれ考えて好意をむげにしてはいけない気がする。

 ただ素直にお義兄様のお誘いを受けようとそう思った。


「お義兄様とのお出掛け、楽しみにしています」


 彼はわたくしの言葉に嬉しそうにしてなぜかすぐ顔をそらす。

 そしてすました表情に戻すと「行ってくる」と短く答えて馬車で出勤していった。

 

 わたくしは部屋へ戻ると静かに椅子へ座る。

 思いがけず、ユーリアスお義兄様と街へ出掛けることになってしまった。

 

 わたくしが十七才、お義兄様が二十才なので、他人からカップルに見られるかも。

 商人を家へ呼ばずに一緒に街へ行くなんて、まるで恋人同士みたいだし。

 ふたりでいれば、店主から婚約者として扱われるかもしれません。

 もし婚約者だと誤解されたら、兄妹ですと訂正しないとまずいですよね。

 わたくしは童顔だけど、年の離れた兄妹だと言えば信じてもらえるとは思う。

 けど、彼の髪は銀色でわたくしの髪は金色だから兄妹だとやっぱりおかしいわ。

 それなら恋人と誤解される方がいいかしら。


 あれこれ考えすぎて頭がパンクしそうになる。

 落ち着かなくて部屋をうろうろしていると、ふと窓から見える景色の違いに気づいた。

 いままで灰色に感じていた庭の景色が、明るく色づいて見えたのだ。


「いまは青葉の季節だったのですね。若々しくて、なんて綺麗な緑色かしら」


 ユーリアスお義兄様のお陰で視界に明るさがよみがえっていく。


 意識しすぎないようにしよう。

 単に新しい家族と仲良くなるために出掛けるのです。

 そう、兄妹として上手くやっていくためですから。


 ふたりで買い物へ行く後付けの理由を考えながら、週末までのときを過ごした。



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