その三
横に座るユーリアスお義兄様は、これから王城での夜勤があるらしく騎士の制服に着替えていた。
「就寝中の王族を護衛だなんて信頼されているのですね」
「任務は大切だが身辺警護は正直気が乗らない」
「なぜです?」
「余計な部分が見えたりする」
王族だって人間。
身近にいれば嫌な思いもするのだろう。
お義兄様は人より正義感が強いのかもしれない。
そんな彼はただ座る姿も凛々しい。
端正な顔立ちに少し長い銀髪、白い騎士の制服がよく映える。
組み替えた脚はスラリと長くて、スタイルの良さに思わず見とれてしまうほどだ。
端正な顔立ちなので、もしドレスを着たら美人令嬢と間違う人がいるかもと思わせるほどに美しい。
ただ騎士だけあって肩幅はあるし、背もわたくしよりずっと高い。
「それより、君がこんなに美しくなっているとは。また会えて嬉しいよ」
「あ、ありがとう存じます」
美しいと言われてしまった。
童顔なので可愛らしいはよく言われる。
でも美しいだなんて。
こんな綺麗な顔立ちの美形から面と向かって褒められたので、つい「いえいえ、お義兄様には誰もかないません」と心の中で突っ込んでしまった。
そもそも、兄妹ってこのような会話をするものかしら。
「あのときと変わらず可愛らしいままだ」
やはりお義兄様とは以前に会っている?
この顔に見覚えがあるらしい。
お義兄様に可愛らしいと言われて嫌な気はしないけど、童顔は交渉に不利なので自分ではこの顔があまり好きではない。
「美しい金色の髪に紫色の大きな瞳も変わらない」
「え、ええ、そのままです」
思い出せないので話を合わせるしかない。
「あれからシャルロッテが忘れられなくて、気がついたら二十才だ」
「忘れられなくて? わたくしをですか?」
「ああ。もう無理かと思っていたが、諦めないでよかった」
「えーと、お義兄様がご婚約されていないのって……」
「フフ」
ユーリアスお義兄様は好意を隠そうともせずに見つめてくると、わたくしの戸惑う姿に反応して楽しそうに笑った。
そのままドレスから出た肩に軽く触れる。
「それよりも、もう家族なんだから敬語もほどほどにしてくれよ」
「で、でも失礼があってはと」
「家族に上も下もないさ」
それは確かにそうかもと思うけど、屋敷を追われて収入も後ろ盾もないわたくしとお母様は本当に途方に暮れていた訳で。
お母様の実家はおじい様もおばあ様も亡くなっていて、いまさら帰っても居場所などなく困り果てていた。
そんなとき、親戚のバーナント卿がわたくしたちを受け入れてくださった。
だから、どうしても気を遣ってしまう。
なのにわたくしは、ユーリアスお義兄様に会ったことを覚えていない。
申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「あの、ごめんなさい。本当は以前にお会いしたときのことを覚えていないのです」
「やっぱりそうか……。反応が鈍いから覚えていないのかもと思っていたが、残念だな」
「すみません」
「いや、謝らないで欲しい。幼いころの話だから覚えていなくても仕方ない。これから少しずつ仲良くなればいいんだから」
そう言ってユーリアスお義兄様は微笑んだ。
優しさでいっぱいの笑顔は、まるで春の日差しのようにわたくしの心を温めてくれる。
三ヵ月前にお父様を亡くし、叔父様に故郷を追われたことで、胸の奥をナイフでえぐられた思いだった。
その深い傷口が、お義兄様に優しくされて少しだけ閉じた気がする。
ユーリアスお義兄様は、緊張するほど美形なのに気さくに接してくれる。
でも、その愛情は家族のそれよりも深くて熱い気がして。
そう思うほどに鼓動が激しくなる。
いけない。
毎日この調子では勘違いしてしまう。
血は繋がっていなくとも、家族相手に恋心を抱いてはいけない。
いくら素敵でも好きになってはいけない相手。
心の距離を置かねばと強く自分に言い聞かせた。
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