その二十七
何とかお父様が殺害されたことを立証したい。
殺人犯に繋がるような証拠があればいいのだけど。
事件から半年も経っていない。
まだどこかに賊の手がかりがあるかもしれない。
急いでウォルタナの首都街へ戻り、ホテルでみんなの帰りを待った。
夜になりユーリアスお義兄様が戻ったので、お義兄様の部屋で事情を説明する。
「なるほど。現場がその状況だと馬の話は本当かもしれない。となると実行犯の賊がどこにいるかだ」
「まだウォルタナにいるかもしれません。一緒に探して欲しいのです!」
首都街にいるかもしれない賊を探したいと訴えた。
「悪いが、明日も査察官たちが屋敷内の調査を続ける。すまないが、もう少し待っていて欲しい」
お義兄様は査察官たちの護衛なので、明日は手伝うことはできないそうだ。
なら、できるところまで自分たちで調査したい。
せっかく真相が見えてきたのだ。
じっとしてなんていられない。
いきなり賊のアジトへ踏み込む訳でもないし、まずは自分たちで情報収集をすると告げた。
すると、美しいユーリアスお義兄様の顔が険しくなる。
「シャルロッテ、君が危険なことをするのは反対だ」
「危ないことはしません。商店の店主たちに、怪しい奴らがいないかを聞くだけですから」
「もし何か情報を得ても、その先に踏み込むのは数日待って欲しい。査察官の護衛を終えたら、私も賊探しを手伝えるから」
「安心してください。無理はしません」
心配させないように努めて笑顔で返事をして自分の部屋へ戻った。
お義兄様は賊について探るのをとても心配してくれる。
とても嬉しい。
嬉しいけど、お父様の死因が事故ではなく殺人だと分かったのだ。
少しでもできることをしたい。
それにお義兄様は査察の護衛任務を終えても自由時間は二日しかない。
わたくしだってディアナ様と一緒なので、いつまでもウォルタナにはいられない。
明日は少しでも賊の調査を進めなければ!
サンドラ様の屋敷でお馬の証言を聞いたとき、最初は半信半疑だった。
それが現場を見てやはり殺人なのだと確信したのだ。
わたくしはお父様のペンを握りながら、急がなければという強い衝動に駆られていた。
翌日、早朝から査察ということでみなさまをまた屋敷までお送りする。
いくら査察とはいえ、案内なしで屋敷へ踏み込んだりしない。
今日も礼儀正しくノッカーで使用人を呼んでみんなで待つ。
待っている間にお義兄様に聞かれた。
「今日は街で情報収集すると言っていたが」
「ええ。何かお父様に関することが聞ければと」
少しも待たずに昨日の代官らしき使用人が現われる。
「査察官のみなさま、おはようございます! 今日もどうぞお手柔らかにお願いしますね」
「昨日の帰りにした書類の封印は解いてないですよね?」
「もちろんです」
異様に腰が低い。
途中から態度が変わったとは聞いていたけど、よほどやましいことがあるらしい。
「やはり心配だ」
お義兄様は代官に興味がないのか、まだわたくしのことを心配してくださる。
「無理はしませんから」
「しかし護衛がいないのは」
「おふたりとも、それでしたら私目の部下を護衛につけましょう」
ふたりで話しているのに代官が申し出てきた。
「え、部下って、わたくしたちの護衛をですか?」
「もちろんでございます」
「私の義妹に何か企んでいるのではあるまいな」
「めっそうもございません。財務庁のみなさまの手心などまったく期待しておりません」
語るに落ちている。
少しでも心証を良くして悪事を見逃してもらいたいのが丸わかり。
「デイジー、こちらへ」
代官に呼ばれて来たのは吊り目のメイド。
「この者は最近雇ったのですが、腕が確かで命令に忠実でございます。同じ女性ですし護衛には持ってこいかと」
「は、デイジーと申します」
呼ばれたメイドが直立する。
姿勢がいい。
「なるほど実力はありそうだな」
立ち姿を見てお義兄様が納得してくださり、彼女に護衛を頼むことになった。
◇
わたくしとディアナ様は、さっそく首都の商店街で情報収集を始める。
街中で乗馬服も変なので用心して街歩きの服に着替えた。
デイジーはメイド服のままだ。
一応護衛の彼女はいるけど、それでも用心しろと言われたので、安全そうな商店を見つけては店主に近況を聞いて回る。
結果、女子三人がよかった。
協力的な人が多くてそこそこ情報が集まる。
集まった情報で辺境伯令嬢のころの人脈へ手紙を書きたくて文房具店に入った。
「ディアナ様、ここは屋敷へ紙やペンを納めてくれていたお店のようです」
「本当です! 素敵な筆記具がいっぱい」
「これまで屋敷へ届けさせていたのでお店に来るのは初めてですけど、品揃えが多くて楽しいですね」
「あ、シャルロッテ様。装飾のある高級品もありますよ」
ふたりで盛り上がっていると店主がやって来た。
「こ、これはお嬢様! ご無沙汰しております!」
わたくしの顔を見てかなり驚いている。
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