その二十四
入って来たのは着崩した身なりでガラの悪いチンピラ風の男たち。
そんなのが六人もいる。
「おお、今日は客が多いな」
「おい、大人しく場所代を払えや!」
店員を恫喝。
金銭を要求している。
店からオーナーらしき人と用心棒が出てきたが、用心棒は多勢に無勢で殴られてすぐにやられてしまった。
「お前が責任者だったよな?」
恫喝するチンピラがオーナーの顔をのぞき込む。
「ぜ、税金ならお支払いしています」
「税金なんか関係ねえよ。前に来たとき、俺らのシマで商売するなら迷惑料を集金するって言ったよな? なに用心棒なんか雇ってんだ?」
チンピラはオーナーへは手を出さず、床に転がる用心棒を蹴りつけた。
何てこと!
でもどうしたら……。
奴らはわたくしとディアナ様がおびえたのを見て、ぞろぞろとこちらへやってくる。
我々が貴族然としたドレスを着ていたせいで、目をつけられてしまったようだ。
ユーリアスお義兄様がわたくしの席の前へ立ってくれる。
わたくしも急いで立って彼の背中に隠れると、隣のテーブルにいたディアナ様と査察官たちも急いでお義兄様の後ろに隠れた。
査察官たちは書類仕事をする文官。
争いごとには向かないので頼れない。
しかし、騎士ならもうひとりいる。
お義兄様の後輩のヘンリー様はどうしたのかと探すと、わたくしたちの後ろに隠れ、尻を突き出すへっぴり腰でこぶしを構えていた。
あ、たぶん伝手で騎士になった人なのね……。
相手は六人。
お義兄様がいくら強くても、ひとりだけなんて無茶だ。
わたくしが震えていると、チンピラのひとりがオーナーに向かって大声をだす。
「客の女が困ってもいいのか?」
「お、おやめください。分かりました。お金ならお支払いしますから」
「ようやくか。だが返事が遅い! さっさと金を払わないとどうなるか、見せしめが必要だ」
チンピラのひとりがわたくしに手を伸ばす。
が、お義兄様がすかさずその手を叩き落した。
「彼女には指一本触れさせない」
「なんだと!」
手を叩き落されて激高した男がお義兄様へ殴りかかった。
向かってくるこぶしをかがんで避けた彼は、敵の懐に飛び込む。
直後鈍い音がしたかと思うと、チンピラがひざを突いて床へくずれ落ちた。
「や、やりやがったな!」
「てめえ、覚悟しやがれ!」
お義兄様はいきり立つ彼らを見据えて、ゆっくりと背筋を伸ばす。
「貴様らなど何人いても同じだ」
低い声が響くと同時に、お義兄様の全身が白いオーラで包まれた。
何かの魔法を使ったようで、クセのある長い銀髪がいつもより輝きを増し、小さく逆立って光っている。
身にまとう白い騎士の制服は、お義兄様の魔力に反応して白さを増していく。
白銀色!
雪のような白い輝きがまるでプラチナみたい。
な、なんて綺麗なのでしょう。
残り五人をお義兄様ひとりで相手しなければいけない現状で、わたくしは白く輝くお義兄様に見入っていた。
あまりの美しさに見とれたのだ。
「クソがぁああああ!」
残りのチンピラがいっせいにお義兄様へ殴りかかる。
ユーリアスお義兄様は武器も抜かずにこぶしを構えると、襲いかかる奴らの打撃をことごとく腕で受け止めた。
お返しとばかりに一発ずつ殴り返す。
最初に敵の攻撃を華麗に避けたのに、おそらくかわせると思えるほかの攻撃もすべて片腕で受け止める。
そしてお返しの一発を与えていった。
どの相手も打撃一発で床へ倒れていく。
多勢に無勢だと思われた状況は、ものの十数秒でお義兄様の圧勝に終わった。
返り討ちにされたチンピラたちは、殴られた場所だけでなく、殴りかかったこぶしも痛そうにして床で悶えている。
査察官たちが安堵の息をついた。
「これが噂に聞く白銀硬化の魔法か!」
「最初はどうなるかと焦ったが、バーナント騎士がいれば安心だ」
お義兄様が称賛する査察官たちへ軽く頭を下げる。
「査察官のみなさま。この魔法は私だけが使える特別なものです。どうかご内密に」
どうやら白銀硬化の魔法は秘密にしているらしい。
戦いに関する魔法は、敵に知られていない方が有利だから秘匿しているのだろう。
ホッとしたところでディアナ様がわたくしに抱き着いてきた。
「怖かったです」
「わたくしもです」
「バーナント様はお強いんですね」
「お義兄様に助けられましたね」
ディアナ様が目を細めてお義兄様を見ながら、ぼそりとつぶやく。
「……やっぱり強い人って素敵だな」
確かに。
わたくしもそう思う。
あんな大立ち回りで守ってもらえたら、強い人が魅力的に見えるのは当然だろう。
その点で査察官は文官だからしょうがないと思うんだけど、やっぱり女性なら危険を排除してくれる強い男性にキュンとくる。
わたくしが意識せずにお義兄様を見上げると、彼がこちらを見て微笑んだ。
わ、わわわ。
不意打ちの笑顔がとても格好よくて、思わず目を逸らしてしまった。
お義兄様のこの笑顔に慣れる日なんて来るのでしょうか。
ぼーと考えるわたくしをよそに、みなさまが慌ただしく動きだす。
特にへっぴり腰で震えていたヘンリー様が、元気にチンピラたち縛り上げていた。
「シャルロッテちゃん、もう安心してね!」
「え、あ、はい」
わたくしがそっけなく答えるとお義兄様が苦笑した。
うーん。
ヘンリー様って悪い人じゃないのですけど。
ユーリアスお義兄様の後輩なのはちょっと可哀そうかな。
しばらくして、六人のチンピラたちが縛り上げられた。
店員が衛兵を呼んで暴漢どもを引き渡してから、オーナーがこちらに来て謝罪する。
「お客様、申し訳ありませんでした」
あんなチンピラの乱暴は、オーナーや店の責任ではない。
わたくしはウォルタナの印象が悪くなるのが嫌で、オーナーに続いてみなさまに訴える。
「以前はこんなことありませんでした!」
それにオーナーも同意する。
「先月くらいから、目に見えて治安が悪化しました。それに暴漢が隣国のヘルメア国民だと分かると、なぜかちゃんと処罰されないことが多いのです」
領主が取り締まりを緩めているため、暴漢どもが増えたそうだ。
叔父様が原因?
一体、ウォルタナで何が起こっているの?
領内の状況は気になるけど、ここに来た目的は事故現場の調査だし。
明日は事故現場に行くので朝が早い。
お義兄様たちの査察も明日の朝からなので、レストランをあとにして大人しく先ほどの高級ホテルへ戻った。
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