その二
「お母さま、おめでとうございます!」
「ありがとう、シャルロッテ」
わたくしは、お母様の再婚を祝福した。
無事に結婚式を終えて鐘の音が鳴り響く。
花嫁姿のお母様は、白いドレスに金髪が映えて本当に綺麗で。
素敵なお母様のお陰で、わたくしも同じ金色の髪と紫の瞳を持って生まれた。
「ウェディングドレス姿、お美しいです」
「ウフフ。娘に祝福してもらえて嬉しいわ」
三ヵ月前、お父様を馬車の事故で亡くして、わたくしもお母様もまだ心の傷は癒えていなかった。
それでも、わたくしを露頭に迷わさないようにと、早々に再婚を決断したお母様には心から感謝している。
わたくしは式場の外でほかの参列者と並んでお母様たちを出迎えていたが、向かいの列に並んで立つふたりの男性と目が合う。
あっ。
思わず目を逸らしまった。
十七年間ひとりっ子だったのに、急にお義兄様がふたりもできるなんて。
新しいお父様、バーナント子爵はずいぶん前に奥様をご病気で亡くされて長らく独身だった。
そのバーナント卿には、ふたりの息子がいる。
だから今日、わたくしにお義兄様がふたりできた。
幼いころならいざしらず、十七才にもなって突然兄ができましたと言われても。
しかもこのお義兄様たちは、どっちもとんでもない美形。
上のお義兄様は婚約しており、バーナント家の跡継ぎとして領主経営を補佐している。
「これからは兄妹だ。よろしく、シャルロッテ」
「はい。スチュアートお義兄様。どうぞよろしくお願いします」
スチュアートお義兄様は、銀色の短髪でさっぱりとしていて、声が低くて頼りたくなるような力強さがある。
グランデ王国の中でも金属加工の一大拠点であるバーナント領。
この領地の次期当主はずいぶんと頼もしくて素敵だ。
スチュアートお義兄様と婚約された令嬢は、さぞかしほかの令嬢に羨ましがられていると思う。
続いて微笑むのは、少し長いくせ毛で綺麗な銀髪の美青年。水色の目で優し気な雰囲気が漂う下のお義兄様だ。
「シャルロッテ、兄妹になれて嬉しいよ。これからよろしく」
「はい、ユーリアスお義兄様。どうぞよろしくお願いします」
下のお義兄様は二十才で婚約者がおらず、この見た目で王城勤めの騎士なのもあって女性に大人気だと侍女から聞いた。
そんな美形男子ふたりと同居することになるなんて聞いていない。
動揺を隠して彼らを観察する。
ふたりで並んだ立ち姿がとても絵になっている。
いくら兄妹になったとはいえ、出会って二ヶ月だし、こうも顔立ちの整った男性と一緒にいて緊張するなというほうが難しい。
スチュアートお義兄様は優しいけれど、わたくしとの会話はあまりない。
次期当主の落ち着きか、婚約者がいるからか。
わたくしとはあえてほどほどの距離をとろうとしているようだ。
それに比べ、ユーリアスお義兄様は毎日話しかけてくれるのだけど、どうも距離感が近いというか。
彼が親し気なのは、以前にどこかで会っているからのようで。
でも、わたくしには会った覚えがない。
困った。
忘れたとは言えないし。
お母様の結婚式を終えたので、先に屋敷へ帰るためにお義兄様たちと馬車へ乗り込む。
座席に座るわたくしの手にはカラフルな花々で作られた小さなブーケが握られていた。
新婦であるお母様が投げたブーケがこちらめがけて飛んできて、ついうっかり掴んでしまったのだ。
新婦が幸せのおすそ分けとして投げるブーケ。
これをキャッチした女性は花嫁の次に幸せになると言われている。
向かいに座るスチュアートお義兄様が、わたくしの持つブーケを話題にする。
「次はシャルロッテが幸せになる番か」
それにユーリアスお義兄様が反応する。
「まだ相手はいないよな?」
「いまは結婚なんて考えられないです」
その気がないと急いで答えた。
悲しいことがいろいろあって落ち込んでいるのに、とてもそんな気持ちにはなれない。
美形ふたりを前に緊張したが、ようやく馬車が屋敷に到着してきらきらなお義兄様たちとの時間が終わった。
私室に戻って横長のソファに腰を下ろす。
自然と大きなため息が出た。
ユーリアスお義兄様と会ったのはいつのことでしょうか。
正直に覚えていないと打ち明けるのは……さすがに気まずいですね。
悩んでいると扉をノックされた。
「シャルロッテ、いいか?」
「どうぞ。ユーリアスお義兄様」
お義兄様がわたくしの部屋を訪れた。
なんだろうと横長のソファに座って見ていると、彼が近くに来る。
「隣、座っても?」
「え、ええ。どうぞ」
少し緊張して、持っていた伊達眼鏡を握りしめる。
家族になったばかりで、邪険に断るのも感じが悪いので同意した。
本当はこんな美形が横に座ったら緊張して困るのに。
※ ブクマしてくださると嬉しいです!
m(_ _)m
お願いします。