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その十四

 ユーリアスお義兄様目当ての令嬢は知らない人ばかりで緊張する。

 だけど、お義兄様やディアナ様が会話に加わってくれて助かった。

 それでしばらく和気あいあいと談笑して過ごす。


 ところがだ。

 いきなり、わたくしたちを囲む令嬢たちの間に手が入り、輪を壊すように赤いドレスの令嬢が分け入った。

 主役の強引な登場。

 なごやかな雰囲気があっという間に消える。


「みなさん! 今日は私の誕生パーティに来てくださりありがとう。誕生日を迎えた私にも、ぜひユーリアス様とお話をさせてくださいな」


 はっきりと、自分が主役だから遠慮しろと主張してきた。

 ユーリアスお義兄様の正面が譲られると、その場所にずいとサンドラ様が侵入。

 さすがの令嬢たちも遠慮はしたが、みんながサンドラ様に注目して、この場所を離れる人は誰もいない。

 きっとライバルの動向が気になるのだろう。


「ユーリアス様、やっとお話する時間が取れましたわ。実は以前からお見かけしておりましたが、なかなかお声がけするチャンスがなかったのですよ」

「では、これからはどうぞよろしく」


 さっきの挨拶が初めての対面なのに、もうお義兄様を名前呼びした。

 たぶん叔父様が辺境伯になるまでは立場も弱く、加えてこの性格なのでユーリアスお義兄様を紹介してくれる友達もいなかったのだろう。

 出遅れた分を取り戻そうとしていると感じる。


 お義兄様は態度に出さず受け流したけど、周りの令嬢たちの目つきは鋭い。

 しかしサンドラ様は、そんな周りの態度など気にする素振りもなくグイグイ行く。


「これからは辺境伯の父と一緒に、どんどん社交界へ顔を出すのでユーリアス様にお会いできますわ」

「では辺境伯は、王都のこのお屋敷にいらっしゃるのですか?」


「ええ、ここで一緒に暮らしております。あのような田舎に引きこもっても、何も得られるものなどありませんから」

「すると現地へは視察で行かれるくらいですか」

「視察へは行きません。だって馬車の事故で死にでもしたら、辺境伯の役割を果たせずに国王陛下へご迷惑をおかけしますもの」


 サンドラ様は口元を扇子で隠したが、わたくしに視線を送りながらいやらしく口の端を上げるのが見えた。


 みんなの前で事故死したお父様を侮辱するなんて!


 わたくしは完全に言葉を失って視線を床に落とす。

 ふさぎ込んでいた気持ちが持ち直していたのに、またつらく悲しい記憶が思い出されて胸が苦しくなる。


 不意にわたくしの肩へ手がかけられた。

 お義兄様が肩に触れたまま、わたくしのそばに顔を寄せる。


「大丈夫か?」

「……はい」


 心配させてしまった。わたくしが簡単に落ち込むからだ。

 このくらいでへこたれる訳にはいかないわ。

 彼女にやりかえすと決めたのですから。


 右手に持っていた伊達眼鏡を掛ける。

 目も悪くないのに眼鏡を掛けるのはパーティなら避けたいところ。

 でもわたくしにはそんなことどうでもいい。

 この女性には負ける訳にいかない。


 わたくしには事前にディアナ様から教わったサンドラ様の情報がある。

 お義兄様へのちょっかいをやめさせるため、その情報でサンドラ様をけん制だ。


「サンドラ様には大層素敵な婚約者様がいらっしゃいますよね。このたびお誕生日を迎えられて成人されたので、そろそろご結婚も近いのでは?」


 ユーリアスお義兄様へちょっかいを出すのは婚約者のいる淑女として問題があるのでは、と暗に問いかけた。

 サンドラ様は少し驚いた様子で顔を歪めたが、すぐに胸を反らせて反論する。


「わ、私が順序も考えず、ユーリアス様へ話しかける訳ないでしょう。婚約はとっくに解消しましたわ」


 予想もしないその言葉にみんなが驚いた。

 ディアナ様も知らなかった様子で、驚きながらもサンドラ様へ問いかける。


「あの、サンドラ様がお茶会に呼んでくださったとき、とても誠実で真面目な婚約者だとおっしゃってましたよね?」

「誠実? 確かに真面目が取り柄の人ですとは言いました。でもそれは、パッとしなくて魅力がないという意味ですよ」


 理由を聞いてディアナ様が目を丸くした。

 普通それを聞けば、誠実な彼を愛するがゆえの照れ隠しで言ったと思うだろう。

 信じられないという様子のディアナ様が動揺しながら尋ねる。


「……まさか、婚約解消の理由はパッとしないからですか?」

「辺境伯の娘になったんですもの、十分な理由でしょう? あ、それと彼が不細工で不満だったというのもありますわ」


 聞いたディアナ様、隣のわたくしとお義兄様、一緒にいた令嬢たちも無言で立ち尽くした。

 そんな理由で婚約解消をするなんて、誰も信じられないからだ。


 あっけに取られていると、サンドラ様が壁際の楽団へ向けて手を上げた。

 すると合図を待っていたのか、すぐ演奏が始まり会場内にダンス曲が流れ始める。


「あら、ちょうどダンスの演奏が始まりましたわ」


 彼女は大きく開いた胸の前で両手の平を合わせると、上目遣いでユーリアスお義兄様を見つめた。

 演奏が始まった曲はステップが高難度で普通は最初に選曲されない。

 にも関わらず彼女は自信満々の笑みを浮かべる。



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