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第7話「闇の連鎖」

第7話「闇の連鎖」


■真壁慎一視点


 慎一の復讐計画は、次なる標的へと進んでいた。村上俊哉——依存心が強く、金銭にだらしないその本性は、証拠の山の中で最も“人間らしい崩壊”を見せる存在だった。


 彼の狙いは、村上が過去に引き起こした金銭トラブルを皮切りに、家庭内の秘密、母の医療関係への圧力、そしてギャンブル依存による自滅を誘導することだった。


「今回は、“自分で落ちる”構造を作る。それが、連鎖の始まりだ」


■襲撃動画の購入


 慎一は闇サイトのマーケットプレイスにアクセスした。目的は、村上が関与したとされる過去の“暴力沙汰”の動画購入だった。彼が借金を取り立てる際に行った恫喝や、パチンコ店での暴言を録画したものが存在しているとクロから聞かされていた。


《動画ファイル名:村上_新宿襲撃_2019.mp4》


 慎一は仮想通貨で即座に購入し、内容を確認する。映像は粗いが、確かに村上の声が録音されており、「返さねえと家まで行くぞ」「お前の家族も巻き込む」といった脅し文句が明瞭に記録されていた。


「これで“圧力の人間”としての第一証明が整う」


 慎一は、証拠ファイルとして暗号化クラウドに保管した。


■偽IDと遠隔ソフト


 慎一はさらに、村上のスマートフォンに不正アクセスするため、偽IDと共に“遠隔操作ソフト”をダウンロードした。これは闇サイトで販売されている違法ツールで、対象のスマホをリモート操作し、カメラ・マイク・アプリ履歴などを自由に覗き見ることが可能だった。


 インストールは慎重に行われた。慎一は一度、村上のスマホを借りる機会を演出することで、短時間にアプリを仕込む。


「これで、お前の“日常”は俺の目の中にある」


 数日後、村上がパチンコ店で“音量最大”で台を打ちながら、電話で母親に怒鳴る様子が記録された。


《母さん、金ないって言ったろ!?医者の分から回せっての!!》


 慎一はその音声を保存し、証拠フォルダ「村上_家庭圧力」に追加した。


■猫の痕跡


 その夜、慎一は一輪の花束を手に、かつてホームレス男性が襲撃された場所を訪れた。彼はそこに小さなメッセージカードを添え、そっと地面に置いた。


 カードには、可愛らしい猫のイラストとともにこう書かれていた。


『君が守った命は、確かにここにあった』


 慎一はその場を離れ、スマートウォッチで周囲の映像を記録。その後、眼鏡のカメラで撮影された映像は、自動で量子暗号化され、バックアップされた。


「誰も見ていなくても、俺は知っている。あの人が命を守ってくれたことを」


■債務の闇


 慎一は、村上の借金履歴をAIで解析していた。パチンコ、競馬、オンラインカジノ——すべての取引ログが残っており、その額は累計で300万円を超えていた。


 さらに、彼の母がその借金の肩代わりをしていた形跡が確認された。診療報酬からの不自然な支出履歴、診断書発行件数の異常な増加……。


「母親もまた、嘘の診断で“金”を作っていたか」


 慎一は、未来で見た“医療不正の摘発”記事を思い出し、それが村上家のことだったと確信した。


 その情報は、「共食い構図_母子連鎖」として記録された。


■崩壊の兆し


 学内では、村上が頻繁にATM前で他人と口論する姿が目撃されるようになった。SNSには、「あいつ金の話ばっかしてる」「またギャンブルでやらかしたらしい」などの噂がBotを通じて拡散された。


 慎一はBotに指示を出し、「借金癖」「親の医者圧力」「依存体質」などのタグ付き投稿を散発的に拡散し、自然な話題形成を図った。


■裏社会の連絡


 その夜、慎一はクロとの定期連絡を行った。やり取りは暗号化されたテキストのみ。だが、その内容は村上の生活に直接影響する情報だった。


《Crow》「村上の借金、半グレ経由で回ってる。担保に“診断書偽造”の情報も売ってるって話だ」

《Makabe》「医療圧力から金融連鎖へ。思った以上に“使える”な」


 慎一はこの情報を元に、村上の母・真理子が診断書を提出した病院リストを収集。うち一件が過去に架空診断で行政処分を受けていたことが判明した。


 その診断書のコピーは、クロが内部関係者から引き出した非公開資料の中に含まれていた。


「これで“母親ごと”落とせる」


■トリガーの設計


 慎一はBotシステムに命令を与えた。


『キーワード:「診断書」「借金」「大学生」「母親 医者」一致数が規定値超えたら自動拡散開始』


 このプログラムは“自然発火型炎上”を誘導するアルゴリズムだった。投稿主がBotと気づかれぬよう振る舞い、社会の一部が“偶然”として拡散していく。


「誰も気づかないうちに、世論は流れを変える」


■一枚の写真


 慎一は過去に撮影した、花束の横に置かれた猫のメッセージカードの写真を再確認した。そこには、風にたなびく小さな白い毛が写っていた。


 AI解析の結果、それは三毛猫のミケのものと一致。投稿に使用すれば、保護活動と社会貢献を示す“正義性”の補強に使えると判断された。


 慎一はそれを“希望”のアイコンとして、次の証拠公開に添える準備を進めた。


■落下する心


 数日後、村上は大学を無断欠席し、その日の夜、路上で泥酔して保護されたという情報が慎一のネットワークに流れてきた。クロが提供した写真には、酩酊した村上が自販機の前でへたり込んでいる姿が映っていた。


 慎一は、その姿を冷静に見つめながらデータベースにこう記した。


『対象C:精神的自壊フェーズ突入』


 Botはこの情報を利用し、「地方大学生の依存地獄」シリーズとして、社会問題風にまとめたスレッドを投稿開始。その一部には、“猫の保護活動を行う姪”との比較構成が添えられ、倫理観のコントラストが強調されていた。


「同情ではなく、反発を引き出す。それが、このフェーズの目的だ」


■崩壊の前触れ


 翌朝、学内掲示板には“診断書に関する内部告発”のプリントが匿名で貼られていた。そこには、村上の母が関わる病院で“架空診断による報酬請求”が行われた疑いがあると記されていた。


 慎一のBotが自動投稿したデータであることを、誰も知る由もない。


「情報は、水のように滲み出る。真実でなくても、信じる者がいれば、それは現実になる」


■再構成された世界


 慎一は最終的な証拠フォルダを開き、フォルダ名を「村上連鎖破綻」と書き換えた。その中には、暴力動画、母親の医療記録、SNSの噂、猫の花束写真、全てが組み込まれていた。


「この一連の出来事が、偶然のように見える時が来たら……それこそが“完全な制裁”だ」


 量子サーバーの演算ログに、一行の記録が残された。


《対象C:社会的信用指数→12.4(危険域)》


 慎一は眼鏡を外し、そっと机に置いた。


「次は、火を灯す番だ」


第7話「闇の連鎖」終わり

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