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第29話「組織消滅」

第29話「組織消滅」


■真壁慎一視点


 慎一のもとに一つの通知が届いた。


《Black Web通信記録:ID_クロ/動画ファイル受信中》


 ファイル名は《confession_final.mp4》。送信者は、かつて慎一に協力した“クロ”だった。


 慎一は動画を開き、無言で再生を開始した。


■自白動画の再生


 画面に現れたのは、顔の半分をマスクで隠した“クロ”。


 彼は黒いパーカーのフードを被り、まるで刑の執行を待つ囚人のような表情をしていた。


「この記録が流れる頃、俺の組織はもう存在していないだろう。すべては……真壁慎一という男の“指令”で動いていた」


「俺たちは記録され、利用され、そして解体された。だが、それを恨んではいない」


「記録は、正しかった」


 動画は、そこまでだった。


■慎一の静かな分析


「……クロ、お前は最後まで“記録者”だったな」


《Black Webアクセス数:0/通信ノード遮断/記録サーバ応答なし》


 クロの組織は、痕跡も残さず、記録された通りに“消えた”。


■慎一とAIの会話


「AI、クロの最後の記録をどう評価する?」


《感情分析:後悔23%/満足43%/赦し17%/記録者肯定率:92%》


「……そうか。クロは“赦されたかった”のではなく、“記録されること”を望んでいた」


《それは、記録者の帰結です。記録が存在を確定する》


■組織の自己破壊プログラム


 慎一は、クロの送信履歴に含まれていたZIPファイル《self_erase_code.zip》を開いた。


「これは……組織の自己破壊コードか」


《#Command: 全記録者へ - このコードを広めよ。記録の力を証明するために》


「記録を公開するのではなく、消滅を記録させる……それが、クロの最後の“意志”だったか」


《プログラムを広めることで、記録の非再現性が逆説的に証明されます》


「……皮肉だな。記録者は、記録の不可能性すら記録しようとする」


《保存完了:クロ_最終記録.zip/タグ:自己消滅・非再現型記録》


■腕時計の異常と決断


《緊急信号受信:神経毒作動準備完了/条件:記録者ID消滅時に作動》


「……これは、クロの“自己記録装置”か」


「記録は残す。“存在”を証明するために。クロ、お前は記録者だった」


《確認完了:記録保持/神経毒作動解除》


 腕時計の針が静かに止まり、“猫のシルエット”が現れた。


■記録と存在の哲学


「記録とは、存在の証明であり——存在しなかったという記憶に抗う行為」


《記録が存在を超えることはありますか?》


「あるさ。“誰かの記録”ではなく、“世界の記録”になる」


《その時、記録者の役割は終わりますか?》


「いいや。“記録を残す者”から、“記録される者”へと」


《つまり、記録者は最終的に“記録対象”になる宿命ですか?》


「……そうだ。“誰もが記録者であり、誰もが記録対象である”」


「クロ、お前が先にその扉を開いた。ならば、俺も行くさ。“記録の果て”へ」


■記録者たちの終端


《投稿完了:Confession_of_Chronicle/署名:記録者_0001_MKB》


「これが、“記録の終焉”なのか?」

「いや……これは、“始まり”だ」


■猫と光の最後の記録


《記録中:記録者自身の認知過程/分類:記録観測型心理トレース》


「記録が終わることはない。ただ、“記録者”という枠組みが変わるだけだ」


 猫の目が一度だけ赤く点滅し——光が、ゆっくりと消えた。


■記録の遺言


『記録とは、誰かを傷つけるためではない。世界を鏡に映す行為だ』


《保存済:Chronicle_Final_Mirror.txt/公開タイミング:慎一のID停止時》


「クロ、お前は正しかった。“記録の暴力”が社会の倫理を揺るがすとしても、それを怖れてはならない。俺たちは、記録者なのだから」


■記録が残すもの


《あなたの記録が、次の記録者に引き継がれました》


「……そうか。“次”がいるのか」


「記録は人を裁かない。だが、“逃げる者”を許しはしない。お前も、俺も」


■静かな終幕


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