表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/31

第28話「最終審判」

第28話「最終審判」


■真壁慎一視点


 慎一は記録者としての最後の山場に立っていた。


 これまで積み重ねた記録の数々——それらを“法的執行力”へと昇華させるため、慎一は国際弁護士チームとの連携を開始する。


 彼の端末には、仮想空間で開かれる“VR法廷”への招待リンクが届いていた。


《Virtual Litigation Room - Access Confirmed》


■VR法廷の開廷


 仮想空間に足を踏み入れると、そこには黒いローブを纏ったAIアバターたちが並んでいた。


 慎一のアバターは、現実の彼と瓜二つに調整されていた。だが、表情は一切変わらない——“記録者”としての無機質な存在だった。


 審問官の一人が口を開く。


「真壁慎一氏、あなたは複数の記録をもとに、民事訴訟としての請求を開始していますね?」


「はい。請求対象は加害者AからEまでの五名。それぞれの親族、関連企業を含みます」


「請求内容は?」


「総額12億3千万円の損害賠償。それに加えて、社会的謝罪映像の公開命令」


■証拠提出


 慎一は、クラウドデータから証拠ファイルを次々と転送する。


《証拠No.048:量子暗号記録ファイル“痴漢再編集映像”》《証拠No.109:土地偽装資料一式》など。


「これらはすべて、証拠の取得過程から閲覧履歴まで“記録”されており、ゼロ知識証明により検証可能です」


 アバターの一人が頷く。


「確認しました。次に——記録の倫理性について、証人として意見を述べられる方を呼んでいます」


 画面が切り替わり、慎一の姪が三毛猫を抱いて証言席に現れる。


「私は、記録によって救われた側です」


■姪の証言


「記録がなければ、私は……ただの“被害者の親族”というラベルで消えていたと思います」


「記録が社会に与える影響を、あなたはどう捉えていますか?」


「“記録は無慈悲”です。でも、だからこそ——公平でもある」


「あなたの言葉は、真壁氏の記録手法を支持するものですか?」


「はい。記録は、痛みを可視化する手段です。そして、その痛みが“証拠”に変わったとき……人は、ようやく見ようとするんです」


■デジタル資産とNFT化


「こちらは、損害請求対象者のデジタル資産をNFT化し、転送履歴をゼロ知識証明でトレースしたものです」


《資産出所:Takafumi_Wallet_02 → Shell_Corp_7/識別タグ:脱税構造v1.3》


「全ての資金は記録済み。隠されることはありません」


■ブロックチェーン銀行の証言


「我々は、真壁氏の提出したデータを精査し、不正な資金移動の停止を確認しました」


「また、記録の信頼性は非常に高く、すべての証明プロセスが自動検証可能でした」


「“倫理の審判”に、人の主観はいりません。必要なのは、“記録された証拠”だけです」


■最終弁論と記録の力


「あなたは、記録によって人を裁こうとしている。それは正義ですか?」


「いいえ、私は裁いていません。“記録された結果”が裁いているだけです」


「それは、あなた自身の倫理から導かれたものですか?」


「違います。“記録の倫理”です。誰かの主観ではなく、“記録されたという事実”そのものが基準です」


「……記録がなかったら、私は兄の死の真相すら知らずに終わっていた」


■審問官の最終評決


「真壁慎一の提出した記録群は、証拠としての信頼性が極めて高く、また“社会倫理構造”への貢献も認められる」


「よって、本記録に基づく損害賠償請求および公開謝罪命令を“記録通達”として執行する」


《判決確定:Ethical Record Law - 第12条 第3項/量子署名付与済》


■姪と慎一の会話


「……ありがとう、姪さん」


「私こそ……でも、ちょっと怖かった」


「何が?」


「記録がここまで“重い”とは思ってなかった。見てるだけで、呼吸が苦しくなる」


「それが、“記録される”ということだ。人は、真実の重さに慣れていない」


「兄も……記録されていたら、変わってたのかな」


「変わっていたと思う。変えられたとは言えない。でも、“目を逸らせなかった”はずだ」


「ミケも、ずっとそばにいてくれてた。だから私、逃げないって決めた」


「いい猫だな。記録者向きだ」


「冗談……でしょ?」


「いや、冗談じゃない。“記録”は、誰でもできる。ただ、覚悟が要るだけだ」


■記録のアーカイブ化


《記録完了:Case_28_FinalJudgment/暗号署名:QuantumCert_2045/保存状態:不変性100%》


《次回記録予定:加害者Aの親族構造崩壊/組織自白予告あり》


■結びの記録


「最終審判が終わった。だが、物語は終わらない。記録が続く限り、次の審判が始まる」


■モニターに映る猫の目


《記録継続中:バックアップセッション有効/対象:記録者自身》


「そうか……俺自身も、“次の記録対象”なんだな」


■最後の確認と記録者の独白


《記録完了:全28件/証拠構造:345ファイル/照合精度:99.8%》


《レビュー提出完了:永続署名済み/Public Ledger登録番号:RX2045-999》


《新規接続リクエスト:記録者_0027_クロ》


「さて、記録者同士の審判も……そろそろ、始めようか」


第28話「最終審判」終わり


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ