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第27話「万引き法廷」

第27話「万引き法廷」


■真壁慎一視点


 高瀬直樹の“痴漢記録”によって社会的評価を崩壊させた直後、慎一のもとに一通のメールが届いた。


 差出人は、都内の高級セレクトショップのオーナー。


 タイトルはこうだった。


《謝罪を求めます。拡散された“万引き記録映像”について》


 慎一は、にやりと口元を歪めた。


「やっと、来たか。お前が“映る”番だ」


■記録の起点


 その店では、高瀬直樹が学生時代からたびたび衣料品を無断で持ち出していた。


 慎一は、その一連の記録を“3Dスキャン店舗モデル”と合成することで、リアルな“万引き映像”を構築していた。


 記録映像には、店舗の陳列棚が滑らかに回転し、真上からの視点で商品が“消える”瞬間が再現されていた。


《映像構成:店舗スキャンモデルVer3.2/視点切替:上空固定→背後カメラ→POS連動》


■オーナーとの交渉


 慎一は、メールに返信する形でオンラインミーティングを設定。


 画面に映ったのは、年配の男性で、やや神経質な表情を浮かべていた。


「あなたが記録を公開した張本人ですね?この映像、非常に悪質です。あたかも直樹くんが常習犯であるかのような——」


「実際に“記録された”だけですよ」


「しかし!彼が支払いを後から済ませた商品もあったはずです!」


「ええ。記録してあります。映像の1分43秒、彼が財布を出した場面。でも——袋に入れていない商品が3点、記録されています」


「……」


 オーナーの顔色が一瞬で変わる。


「この件で、店の信用も落ちている。どうか“謝罪広告”を出してもらえませんか。あなたが、記録に誤認があったと認めれば——」


「誤認はしていません。誤認しているのは、あなたです。“万引き”を“曖昧な支払い”と呼び続ける、その姿勢を」


 慎一の言葉に、オーナーは絶句した。


「……あなた、何者なんですか」


 慎一は、眼鏡を押し上げた。


「“記録者”ですよ。記録された側に、その意味を教えるために存在する」


■記録の解説とオーナーの反応


「この映像には、五つの視点が使われています。一つ目は店内固定カメラ、二つ目は背後視点、三つ目は顔認識。四つ目がレジログ連携、最後が——3Dスキャンとの融合」


「まるで映画の編集じゃないか!」


「違います。“現実”の再現です。記録とは、事実に“構造”を与える行為」


「……だが、それを公にすれば、直樹くんだけじゃなく店の未来も——」


「その未来は、“過去の記録”によって作られた。誤魔化された事実が積み重なれば、未来は歪む」


「あなたにとって都合の悪い記録は、存在しないことにしたいですか?」


「……」


「それは、記録を“編集”する権利が、あなたにあるという思い上がりだ。私は、その思い上がりを記録している」


■記録映像の再生


 慎一は、画面共有を開始。


 再生されたのは、“無言の視線”と“手の動き”だけで万引きが成立する映像。


 商品のセキュリティタグが一瞬だけ光り、音もなく懐に吸い込まれる。


「これが、あなたの言う“後払い”です」


「……どうして、こんなことを」


「私は復讐しているわけじゃない。“責任の記録”をしている」


「記録されたものは、責任から逃げられない。誰一人、例外なく」


■記録証拠と背景データの提示


「これは、POSシステムから抽出した在庫変動記録。そしてこちらが、非購入商品のタグ読み取りログ」


「そんなものまで……」


「あなたの店のシステムに、バックドアを入れました。記録のために。違法ですか?」


「……違法だが、正論だとも思えてしまう。私は、店を守りたかっただけだ」


「あなたが守っていたのは“虚構”です。現実ではない」


「直樹くんは……家族ぐるみの客でした。甘かった。正直、見て見ぬふりをしたことも……あった」


「その“見て見ぬふり”が、彼を加害者にした。あなたも共犯です」


「……わかった。私は謝罪広告を出す。だが、どうしても一つだけ、聞かせてくれ」


「なんでしょう」


「あなたは……何のために“そこまで記録する”んです?」


「“過去”を、未来に通報するためです。誰も、逃がさないために」


■“法廷”の意味と記録者の言葉


「……記録というのは、こんなにも冷たいものか」


「違います。冷たいのは、現実です。記録は、それをありのままに映すだけ」


「私は、いつの間にか“映らない者”の側にいたんだな」


「ええ。記録されないことで、安全圏にいるつもりだった。でも、今はもう——すべての人間が記録される世界にいます」


「“万引き法廷”という言葉に、あなたは違和感を覚えましたか?」


「……ええ。こんなものは裁判でもなんでもないと」


「でも、事実はここにある。証拠もある。証言も、映像も、感情も——すべて“記録された”。それを前にして、“法廷”ではないと言えますか?」


「……それは……」


「“法”が裁くのではない。“記録”が裁くのです。すでに、あなたは証言台に立っている」


■記録映像の最終処理


《記録完了:万引き法廷/被記録者:Takase_N/関係者:StoreOwner_Y/証拠点数:17》


《伏線Q回収:2045カード番号→記録裏付け》


■結末


「記録された者は、再び過去に戻れません。“未来に向かってのみ存在する責任”が生じる」


■モニターに映る最後の一行


『記録済:映像を信じなかった者が、最初に裁かれる』


 慎一は、その言葉を読んで、静かに眼鏡のレンズを拭いた。


 部屋の隅に置かれた猫のぬいぐるみが、わずかに揺れた。


 その目には、赤い光が宿っていた。


第27話「万引き法廷」終わり


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