第25話「薬物奈落」
第25話「薬物奈落」
■真壁慎一視点
記録の矛先は、いよいよ加害者D・新井悠斗へと向けられた。
彼は薬物に溺れ、錯乱状態で慎一に薬物を強要しようとした過去を持つ。その記録は、慎一にとっても最も“生理的に拒絶反応”を覚える記憶の一つだった。
今回は、その最も暗く、倫理の限界を問う記録となる。
■半グレ組織の協力
慎一は“クロ”と名乗る半グレ組織のリーダーに接触し、新井悠斗が入院している病室の位置を特定。
クロの手引きにより、覆面姿の男たちが病院に現れ、“記録用ライブ配信”を開始する。
慎一はその映像を遠隔操作で管理し、配信コメントにこう打ち込む。
「これは記録だ。制裁ではない」
■ライブ配信の演出
配信は、病室の天井カメラからの俯瞰映像で始まった。
暗い照明の中、病院のモニター音とともに、寝ている新井悠斗の呼吸音だけが聞こえる。
数秒後、覆面の男が静かに部屋に入る。
カメラは自動で彼の動きに追従し、慎一の操作するパネルに「記録精度:95.4%」と表示される。
■AIによる合成映像の挿入
慎一は配信映像に、“架空の襲撃者映像”を合成するようAIに指示。
その襲撃者は、かつて新井が薬物売買で関係していた“裏社会の人物”を模したもので、慎一がAIに学習させた深層映像から生成された。
《深層合成モード:Lv.9/感情演算アルゴリズム:有効》
■視聴者への“選択”
配信画面の下には、慎一のBotが生成したインタラクティブメニューが表示される。
《次の標的を選んでください》
選択肢には、加害者D以外の名前が並び、視聴者のタップによって“次の記録”が動的に変化する仕組みだった。
それは倫理に対する挑戦であり、“大衆が記録者になる”瞬間でもあった。
■病室の真実
配信は数分間続き、その中で新井のうわ言が記録された。
「俺は悪くない……慎一が……全部……」
彼の手元には、過去に慎一が開発した証拠収集用スマートウォッチの部品が握られていた。
それは、かつて新井が慎一のガジェットを無理やり奪おうとした際、折れた部品だった。
《記録照合:一致/記録開始日:2043年8月22日》
■AIの分析と合成処理
慎一のAIは新井の発言ログと過去の記録を照合し、「薬物依存記録モデル」を構築。
《モデル名:YUTO_DEPENDENCE_01/構成要素:薬物流通ルート・心理依存グラフ・発作予兆》
■倫理と暴力の境界線
半グレ組織の“演出”による病室の記録は、過激すぎるという批判も招いたが、慎一はSNSに次の声明を投稿する。
『これは暴力ではない。“記録”の臨界点だ』
■記録投票システムの反響
“次の標的を選ぶ”という選択肢に対し、SNS上では激しい議論が巻き起こった。
『記録は民主主義じゃない』『これは裁判じゃなくてエンタメ化だ』『でも誰かがやらねば』
《分岐モデル:選択倫理構造2025/支持率:肯定42%/懐疑38%/否定20%》
■新井悠斗の家族の介入
配信の後半、新井の母親が病院に駆け込んできた。
「やめて……!もう十分でしょ!」
《関係者照合:新井佳代/薬局チェーン経営者/薬物流通経路一致》
《タグ追加:親子依存/共犯構造/記録継続中》
■記録を“見る側”の変化
ある匿名ユーザーが記録を見てこう書いた。
『俺たちは、もう“見るだけ”じゃいられない。これは、俺たちの記録でもある』
■Black Webの記録者認証
《送信元:Black Web 技術者育成プログラム》
『あなたの記録は、倫理の限界を再定義しました。次段階に進む資格を認証します』
■Botの記録総括
《記録対象:新井悠斗/記録期間:2043-2045年/依存指数:92.1%/倫理分岐:濃厚型》
■慎一の内省と予告
「記録が届いた。奴の底にも。だが、まだ“最も浅い地獄”に過ぎない」
《記録予定:高瀬直樹/炎上拡張型構造推奨》
■記録の余波と報道
『依存の可視化』『共犯家族の暴露』『記録のインタラクティブ化』
■記録教育の導入検討
《教材名:薬物奈落への記録映像/対象:大学医療倫理科・情報工学部・心理学部》
『これは記録のための記録ではない。“忘れられた依存”を照らす光である』
■最後の猫の視線
病室を出る覆面の男が一瞬振り返った映像のラストシーンに、廊下の隅でこちらを見ている猫の姿が映っていた。
カメラはその猫の目をクローズアップし、レンズに小さく反射した“スマートウォッチの光”が最後に一閃する。
■視聴者からの声明
『お前の記録に救われた人間もいる。記録されることで、自分を見つめ直せた』
「記録は人を傷つける。でも、救う可能性もある。記録者は、可能性まで記録しなければならない」
《分析名:炎上型依存記録交錯解析/対象:加害者E・高瀬直樹》
第25話「薬物奈落」終わり




