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第24話「依存の末路」

第24話「依存の末路」


■真壁慎一視点


 次なる標的は、加害者C・村上俊哉の母、村上真理子。


 彼女は地元の開業医として善人を装ってきたが、裏では息子の金銭トラブルや犯罪行為を幾度となく“揉み消して”きた人物だった。


 慎一は今回の記録で、“医療倫理の崩壊”という新たなテーマを掲げる。


■医療ミスと引き換えの提案


 慎一は村上真理子とZoomで接触。


 彼女は、ある重大な医療過誤記録の隠蔽を“情報提供”として申し出る代わりに、息子の記録公開を停止してほしいと訴える。


「あなたなら、倫理と真実のバランスを取れると思ったの」


 だが慎一は、情報を受け取ると同時に、録画を開始した。


「あなたの選択も、すべて記録する。どちらにせよ、逃れられない」


■Zoom背景の演出


 慎一はZoom通話中、自身の背景画像を“火炎放射器が発射される瞬間”の動画に設定していた。


 その意図は一目瞭然だった。


「これは脅しではない。あなたの過去が、自分を焼く映像だ」


 村上真理子の表情が引きつる中、慎一は表情一つ変えず記録を続ける。


■父の形見の正体


 慎一が記録装置として使用していた腕時計には、量子コンピュータの実験機が内蔵されていたことがここで明かされる。


 その機器はかつて父が研究していたプロトタイプであり、事故の前に慎一へと密かに託されたものだった。


《内部解析:量子演算ユニット接続済/記録再構築率:99.7%》


■交渉の決裂とAI記録


 村上真理子が“情報提供”の交換条件を提示した瞬間、慎一のAIが警告を発する。


《記録倫理違反:情報と記録停止のバーター要求/記録中断推奨せず》


 慎一は静かに頷き、そのまま通話を続けた。


「情報は受け取った。あなたの意思も含めて、すべてが記録される」


■情報開示と録音の全貌


 村上真理子の提供した“医療ミス記録”には、複数の患者死亡事例が含まれていた。


 そのうちの一つには、治療ミスで心停止に陥った高齢女性が、実は“裏口患者”であり、政治家の関係者であると明記されていた。


 慎一はこのデータをAIに分析させ、関係者全員の相関図を即座に生成。


《相関図完成:村上医院 → 市議会議員・高瀬宏樹 → 建設利権ルート発見》


■記録のAI可視化


 慎一は情報公開前に、映像編集AIに以下の可視化指示を送る。


・医療ミスのタイムライン再現

・発言と実行責任者の照合

・息子・俊哉との金銭授受履歴を挿入


 これにより、ただの“隠蔽の証言”ではなく、立体的な“構造的記録映像”が完成した。


■倫理パッケージの形成


 Botが自動でパッケージ化したタイトルは以下の通りだった。


《パッケージ名:依存連鎖記録2025/タグ:#医療腐敗 #親子構造 #記録社会》


■記録公開と社会的反響


 公開から24時間以内に、記録映像は動画共有サイトで再生回数50万回を超え、SNSでは「#依存の末路」「#医療の裏側」がトレンド入り。


 その中には、かつて村上医院で診察を受けた患者の証言も含まれ、AIが自動で検証を行った。


《証言信憑性:82.6%/過去カルテ記録との整合性確認済》


 慎一はそれらの証言を“記録の補完”として再構成し、証拠性を一層高めた。


■俊哉の破滅


 村上俊哉本人もSNSで騒動を知り、自ら声明を投稿するが、過去に投稿されたギャンブル動画や借金相談のスクリーンショットが瞬時に拡散された。


 その一部は、慎一が用意したBotにより“記録済”であり、AIが編集した合成映像にはこうテロップが表示された。


『依存症とは、記録の裏にいる“もう一人の自分”である』


■母子の決裂とその記録


 村上真理子は息子の投稿を見て、慎一に最後のメッセージを送信する。


「すべて記録された。もう、私は母ではいられない」


 慎一はその音声ファイルを“記録締結音声”として保存。


《記録終了:親子依存構造データ/再解析可能性:高》


■記録が導く診断


 慎一は、俊哉の過去の行動パターンとSNS投稿ログをAIに統合し、「記録依存症」という新たな精神診断項目の仮モデルを生成した。


《仮診断:記録依存症候群/症状:匿名拡散衝動・自己認証欲求・記録否定反応》


■腕時計が記録する最後の通話


 事件の終幕、慎一は父の形見の腕時計を外し、その背面に小さく刻まれたコードを指先でなぞる。


《コード反応:音声記録起動/再生準備完了》


 そして、村上真理子からの最終通話を再生しながら、慎一はこう呟く。


「依存を断つには、記録を切らねばならない。でも、記録を断てば、真実も死ぬ」


■ラストシーンの可視化


 AI編集によって生成されたラストシーンには、静かな病院の廊下を歩く猫の映像が挿入される。


 その猫は、慎一がかつて保護した三毛猫“ミケ”によく似ていた。


 映像にテロップが浮かぶ。


『記録は、静かに歩いてくる。そして、すべてを見ている』


■社会の目と記録の余波


 この記録は、各新聞社やネットメディアで取り上げられ、「記録が家庭と医療をどう変えるか」という特集が組まれた。


 番組内では、記録された親子の言葉が再生され、専門家が次のように述べた。


「これは単なる犯罪記録ではありません。依存という構造を“可視化”した社会記録です」


■記録の評価と今後


 記録アーカイブセンターの評価システムでは、今回の記録が“高倫理記録”としてランクイン。


 慎一の記録者コードに新たな称号が付加された。


《記録者認証:LV8/称号:構造記録者》


■最後のログ


 慎一が記録保存を完了させた後、AIがこう記した。


《記録ファイル:依存の末路 完了/倫理トピック:親子共依存/更新済》


 慎一は腕時計を再び装着し、モニターに映る猫の後ろ姿を見つめながら、短く呟いた。


「次の依存者は——記録を恐れる者だな」


■記録の再送信とその意味


 慎一は、村上俊哉の依存記録と母親の証言をパッケージ化したファイルを、医療倫理委員会と家庭問題研究所に匿名で提出した。


 添えられていた一文は、こうだった。


『依存は恥ではない。隠すことが、罪になるのだ』


■猫と記録の対話


 記録提出後、慎一は久しぶりに猫のぬいぐるみに触れる。


 中から、小さなスクリーンが自動起動し、記録済の映像が流れ始めた。


 そこには、村上母子の姿と共に、三毛猫のイラストが添えられていた。


「記録は消えない。静かに、温かく、見ているだけだ」


 その瞬間、慎一は目を閉じ、深く息を吐いた。


第24話「依存の末路」終わり


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