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第1話「転生の代償」




第1話「転生の代償」


■真壁慎一視点


 暗闇の中、意識が浮上してくる感覚を慎一ははっきりと感じていた。まるで長い眠りから目覚めるような、だがそれは眠りではなく——死の向こう側から戻ってきたという実感だった。

「……成功したのか」

 口にしたその声は、驚くほど若々しかった。慎一はゆっくりと体を起こし、周囲を見回す。古い木造の天井、カーテン越しに差し込む朝の光、そして自分の手のひら——張りのある皮膚、力強い関節の動き。

 鏡の前に立つと、そこには確かに二十歳の頃の自分がいた。だがその目は、五十年の記憶を宿していた。


 転生。それは慎一が死の直前に賭けた最後の希望だった。事故で失われた下半身の自由、裏切り、そして家族の死。彼の人生を壊したすべてを記録し、再び“始まり”の地点へと戻る。未来の知識と金を武器に、復讐の計画は今ここに起動する。


■装備と準備


 慎一は机の引き出しを開けた。そこには、未来で自分が保険金を使って手配したアイテムが入っていた。高性能のボイスレコーダー内蔵眼鏡、カスタマイズされたスマートウォッチ、そして使途明細のコピー。

「記録が全てだ。奴らの“本性”を世に晒してやる」

 眼鏡を装着し、起動を確認する。レンズの奥で赤い光が点滅し、録音が開始された。


 次に、押し入れから古いファイルを取り出す。父の遺書だ。数十年後に不自然な形で発見されるはずのその遺書には、すでに修正された箇所があった。慎一は、カメラを通じてその部分を拡大し、映像をクラウドに送信した。

「やはり、最初から操作されていた……」


■大学での再会


 数日後、大学の講義室。慎一は教室の隅で静かに座っていた。入ってきた学生たちの顔は、全て彼の記憶に焼き付いている。

 桐生貴文——傲慢で自己中心的。父は企業の社長、地元の経済界を牛耳る存在。

 佐伯亮太——暴力的で衝動的。かつて慎一を階段から突き落とした実行犯。

 村上俊哉——陰湿な性格で責任転嫁の常習者。依存癖のあるギャンブラー。

 新井悠斗——薬物に溺れた陰キャ型。薬物を慎一に強要した過去を持つ。

 高瀬直樹——痴漢常習犯。SNSで女性蔑視発言を繰り返す。


「おい、真壁。生きてたのか?」

 桐生が声をかけてくる。その顔にはかつての嘲笑の色が浮かんでいた。

「元気そうで何よりだよ、桐生くん」

 慎一は自然な笑みを浮かべて応じる。その眼鏡は、彼の声を一言一句記録していた。


■観察と記録


 講義の合間、慎一はカフェテリアの隅に座っていた。ノートPCを開き、「REBOOT_2045」と書かれたプログラムを起動する。そこには、加害者たちの情報が細かくフォルダ分けされていた。

 SNSの投稿内容、音声記録、映像データ、位置情報、仮想通貨の動き——全てが自動で分析され、必要な証拠に変換されていく。


 高瀬の痴漢行為を示す女性のSNS投稿がBotによって収集され、新井の薬局への出入り記録がGPSと照合されて時系列で保存された。


■猫と希望


 ある夕方、慎一は公園のベンチでノートを開いていた。ふと足元に、一匹の三毛猫が近づいてくる。

「君は……未来で見た猫だな」

 その猫は、未来で保護されたという投稿に度々登場していた存在だった。慎一はそっとポケットから猫用のビスケットを取り出し、差し出した。

 猫は躊躇なくそれを食べ、しばらく慎一の膝に身を預けると、静かに立ち去っていった。

「……偶然か、それとも……導きか」


■最初の仕掛け


 その夜、慎一は桐生に関する証拠の一部を匿名で投稿した。仮想通貨ウォレットの異常な取引履歴、親の会社が関与した裏献金の断片。

 それはあくまで“噂”の形で拡散されたが、SNSでは急速に注目され、地元紙の記者の目にも留まった。


「これで一つ、駒が動いた」


■静寂の決意


 真夜中、慎一は部屋の電気を消して窓辺に立った。外には静かな街並み、夜風がカーテンを揺らしている。

「父さん、母さん……俺はもう、泣き寝入りなんてしない。お前たちの死も、俺の身体も、すべて“奴ら”のせいだ」

 彼の手には、父の形見の万年筆が握られていた。それは、未来で遺書の修正に使われたとされる筆記具に酷似していた。


 慎一は、そのペンを机に置き、再びキーボードを叩き始めた。

「始めよう。俺の人生のやり直しを——いや、“裁き”を」

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