表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/31

第17話「万引き劇場」







:

第17話「万引き劇場」


■真壁慎一視点


 復讐計画の次なる舞台は、“商業空間”。加害者たちの罪が「倫理的逸脱」から「明確な法令違反」へと移行する中、慎一は「万引き」という一見小さな犯罪行為をもって、その“本質”を可視化することに決めた。


 今回の主役は、加害者C・村上俊哉。


 慎一の狙いは、彼を“習慣的な窃盗犯”として社会的に葬ることであった。


■万引き映像の設計


 慎一は、村上が実際に訪れた高級雑貨店の構造を3Dスキャンで再構築。映像編集AIによって、村上が商品の小物を服の袖に滑り込ませる動作をシミュレートし、現実さながらの映像を完成させた。


 映像は、天井の監視カメラ風の視点で撮影されており、画面上にはショップ名と日付、タイムスタンプ、GPS情報、さらにはAI判定による動作分析が重ねて表示された。


《動作分類:意図的持ち出し(確度:93.1%)》


 この映像を慎一は“匿名リーク”として流出させる準備を始める。


■クレジットカードの流出


 村上が使っていたクレジットカード番号は、慎一が過去に解析していた財務データから逆算し、決済ログを再構成して得たものであった。


 その番号は偶然にも「2045」から始まる特徴的な数字列で始まっていた。


 慎一はこのカード番号の一部を“画面の右下”にだけ残した状態で、偽造された買い物ログと共にリーク資料として加工した。


『このカード、盗品購入にも使われてたらしいぞ』

『また“親の金”かよ。ホントにクズだな』


■Bot拡散の波


 慎一のBotたちは、これらの映像と資料を瞬時に拡散。ツイート数は30分で8000を超え、“倫理的批判”と“経済的悪意”の両面から村上を圧迫していく。


 また、コメント欄にはAIが生成した“被害者女性の証言風投稿”が表示された。


『あの子、昔から学校の備品とか勝手に持ち出してた。今思えば予兆だったのかも』


 慎一はこれを“記録の伏線回収”と呼んだ。


■店舗モデルと証拠の融合


 3Dスキャンされた店舗モデルは、映像としての迫真性だけでなく、証拠としての説得力を高める要素でもあった。


 AIは村上の歩行軌跡、視線、手の動きまでを再構成し、「商品への接触→袖への移動→レジ外のルートへ離脱」という万引き典型のパターンを浮かび上がらせた。


《動線一致率:89.5%》《証拠一貫性指数:92.3%》


 慎一はこの映像を「教育資料」としてダミーの法学部向けコンテンツサイトにアップロード。そこから流出する“学術的議論”が、拡散の第三波となることを狙っていた。


■SNSと報道の連動


 Bot群の指示により、映像を引用する形で投稿された内容が、徐々にニュース番組の“視聴者投稿”欄に引用され始めた。


『この映像、うちの子が見たって言ってる。怖くて買い物行けないって』


『これが“躾けられなかった息子”の末路か』


 慎一は映像に“感情引き起こしアルゴリズム”を適用しており、画面の揺れやノイズ音、被写体の拡大などを通して“罪悪感”と“嫌悪”を引き起こす演出を仕込んでいた。


■村上母の反応


 事態が拡大するにつれ、村上真理子は裏でマスコミに“映像が不正取得である”という抗議文を送ったが、それ自体がさらに報道のネタとなった。


『息子の万引き動画は“合成”と主張? 医師の母が苦しい言い訳』


 Botが自動生成した記事タイトルがトレンドを攫い、慎一の用意した次の攻撃手段が発動する。


■司法連携の擬似構築


 慎一は映像と決済ログの整合性を解析したAIレポートを、匿名で警察の内部通報フォームに送付した。


 レポートには以下の情報が含まれていた。


《記録件数:3》《店舗名:LUXE JAPAN銀座本店》《映像解析一致率:93.8%》


 これは実際の証拠にはならないものの、“通報があった”という事実を報道が引用するだけで、社会的には「疑惑が公認された」構造を作れる。


■“演劇”としての告発


 慎一は、これらの記録を「公共犯罪劇場」という架空のWebコンテンツの一幕として再構成した。タイトルは《第12幕:窃盗の構図》。


 観客コメント風の投稿が次々とBotで生成される。


『劇場型犯行とはこのことか』『ここまで演出されたら否定もできない』


 慎一はここに、「人が信じるのは証拠ではなく、“構造”である」という前提を仕込んだ。


■花束と猫の余韻


 そして最後の投稿。


 三毛猫の後ろ姿と、高級店のレジ前にぽつんと置かれた花束の写真。


『買えなかった。盗るしかなかった。——それは、誰の責任か』


 慎一はBotの活動を停止し、端末を閉じた。


 記録は完成した。


■金融記録の浮上


 慎一は村上のクレジットカード決済履歴の中から、特定の“高額購入”が実際には店舗で行われていなかった痕跡をAIにより抽出させた。


 それを基に“疑似電子領収書”を作成し、万引き行為と“ポイント換金詐欺”の関連を示唆する投稿を展開した。


『商品は持ち帰って、ポイントだけは溜めた?』『これは常習の証拠では』


 SNSでは「詐欺型万引き」の新語が生まれ、大学生犯罪として“構造的な問題”が取り上げられ始めた。


■店側の対応と報道炎上


 慎一は、実在する高級店の問い合わせフォームに、動画と一致する構造情報を“善意の通報”として送信。


 その結果、店側は警備体制の見直しを発表。だがそれが「やはり事実なのでは?」という新たな憶測を呼び、報道番組が店名を伏せたまま動画を放映。


『高級雑貨店にて、不審な持ち出し行為が——SNS上で大きな反響』


 慎一はそのニュースを録画し、Botに「証拠映像と一致」と表示させる演出を加えた。


■記録の閉鎖と保存


 すべてを終えた慎一は、万引き事件の記録ログを量子署名付きファイルにまとめた。


《記録名:Murakami_Theft_Log_2045》


 そのサムネイルには、猫の背中と夕焼けに染まる店の外観。


『小さな罪が、大きな構造を炙り出す』


■記録という幕引き


 慎一は、すべての投稿と映像、解析ログをアーカイブに格納し、再生権限を一時ロックした。


 ファイルにはただ一言——


『この劇の観客は、あなた自身だった』


 画面には、最後にミケが振り返るGIFが映し出され、端末が自動でスリープ状態へと移行した。


 慎一は椅子を離れ、バルコニーに立つ。


 次の“幕”が上がる前の、静かな休息。


■未来の観客へ


 慎一は、今回の“万引き劇場”を、将来的な刑事教育や社会倫理教育に使用できるよう再編集したバージョンも作成した。


 そのファイル名は《Civic_Lesson_Theft2025》。


 記録にはこう記されていた。


『劇として記録された犯罪が、現実を変える。その時、人は記録を“教育”と呼ぶ』


 慎一は静かにそのファイルをクラウドへアップロードし、画面を閉じた。


「これで、次の準備が整った」


第17話「万引き劇場」終わり


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ