第13話「炎上作戦」
第13話「炎上作戦」
■真壁慎一視点
慎一は、すべての法的布石を終えた今、次なる段階——“世論の制御”へと舵を切った。復讐はもはや水面下ではない。情報戦、SNS戦争の開幕である。
その標的は、加害者A・桐生貴文。
法ではなく“声”によって追い詰める手段、それが炎上作戦だった。
■自動Bot ver.2.0の展開
慎一は、自ら設計したSNS拡散Botの最新版を起動した。その特徴は、自然言語生成AIを搭載し、感情共鳴を誘発する投稿ができる点だった。
システム画面にはこう表示される。
《自動Bot ver.2.0 感情パラメータ:怒り=80 悲しみ=60 軽蔑=40》
「人の怒りは火薬だ。だが、燃やすのは“共感”だ」
慎一は、投稿素材として桐生の過去のSNS投稿、虚偽記載された会社報告書、脱税指摘のある取引データ、さらには両親の不正献金関連文書を用意した。
■拡散の導火線
Botは「拡散条件」に基づいて、自動で投稿を作成・発信していく。
《条件:「桐生貴文」「親の七光」「虚偽報告」「税金泥棒」などのタグ含有》
投稿例:
『親が社長だからって何でも許されると思ってんの? #桐生貴文』
『税金使って豪遊してたあいつ、脱税してたってマジ? #親の七光』
投稿数は30分で500件を突破し、SNS上にじわじわと“火種”が広がっていく。
■テレビ証言の登場
その夜、慎一は予め仕込んでいた「姪のテレビ証言」をBotによって拡散させた。
番組では、姪が三毛猫を抱きながら、こう語っていた。
『叔父が最後に遺した写真には、桐生さんらしき姿が映っていました。彼が“助けるべき存在”だったなら、こんな結末にはならなかった』
慎一はその発言を切り出し、Botにより感情増幅加工を施して拡散した。
『猫を抱いた彼女の目には、涙が浮かんでいた。#桐生貴文の沈黙』
『誰かが“見殺し”にした——もう黙ってる理由はない』
■炎上の連鎖
SNSでは、一気に“桐生貴文”がトレンド入りした。匿名のアカウントからは、過去の発言スクショ、同級生の暴露、授業中の態度、パーティ写真が一斉に貼られた。
慎一の操作はすべて“裏側”で行われ、誰もその存在に気づかない。
「俺の声は届かない。だが、声は“届いたように見せる”ことができる」
その結果、桐生は一気にネット上で“敵”と見なされていく。
■経済的打撃の始まり
翌日、桐生の会社株が3%下落した。株主たちの間で不安が広がり、匿名の“内部告発”もSNSで拡散された。
『上層部の資金流用は有名な話。帳簿操作、やってますよ』
これにより、メディアも注目し始める。
『人気若手経営者に不正疑惑——SNSで拡散中』
慎一は、操作画面を閉じながら小さく呟いた。
「炎は、誰かが薪を投げ込めば、いずれ山火事になる」
■ネット世論の爆発
その夜のうちに、#桐生貴文に関連する投稿は1万件を突破し、Botは過去最大のトレンド操作に成功していた。
感情の波は、実名ユーザーの投稿にも波及し始めた。
『大学の後輩です。あの人、普段から見下してきて本当に嫌だった』
『桐生って、正直ヤバいやつだったよ。先生に取り入るのも上手かったし』
慎一は、それらの投稿を厳選してAIが加工し、より“共感”を得られる形で再拡散した。
AIの出力が画面に表示される。
《予測拡散範囲:+12,400/感情共鳴指数:78%》
「これが“世論の裁き”だ。法ではなく、民の感情が動く時代」
■企業内部の崩壊
Botによって流された“帳簿操作”の噂は、社内にも影響を及ぼしていた。実際に、会社の一部社員が「匿名告発フォーム」に記録を提出し始める。
『2年前の接待費用、現金処理で抜けた分があると思います』
『経費申請が二重だったのを見たことがあります』
慎一は、これらの情報をAIにより“信憑性スコア”で評価させ、スコアの高いものを選別し、マスコミ関係者に匿名で提供した。
朝のワイドショーが取り上げたのは、それから数日後だった。
『若手経営者に不正の影? “帳簿操作”疑惑で取材殺到』
■加害者家族の反応
桐生貴文の父・剛志は、社内での緊急会議を開いた。情報が漏れていることを疑い、息子のスマートフォンを取り上げようとしたが、貴文はそれを拒絶した。
「親父、これは俺の問題だ。あんたには関係ない」
その映像が、慎一の監視システムにより密かに記録されていた。
ファイル名:《Family_Crack_VisualLog》
慎一はそれを見ながら、静かに頷いた。
「家庭の亀裂は、社会の崩壊を映す鏡だ」
■最終段階の準備
炎上作戦の終盤、慎一は“桐生家”に関する資産情報をまとめたマップを作成した。土地、会社名義、株式、政治献金の流れまでを視覚化し、それをインフォグラフィックとして加工。
最終出力画面に表示されるタグ。
《#炎上地図2025》《#拡散許可済》《#構造破壊型情報》
Botは、この地図を画像検索最適化形式でSNS上に拡散を開始した。
投稿数は1時間で5000件を超え、画像検索結果の上位はすべて“桐生”に関連するデータで埋め尽くされた。
■姪の猫が再び炎上の中心に
トレンドがピークに達した頃、あるBotが一つの画像を投稿した。
それは姪が三毛猫を抱いてテレビに出演していた瞬間のキャプチャだった。慎一は、その映像に「共感促進フィルタ」を適用し、視聴者の感情を揺さぶる色合いに調整した上で投稿した。
『この子が黙ってるのは、もう限界かもしれない』
『誰かが守らなければならない命がある——#三毛猫の証言』
驚くべきことに、これらの投稿が再び炎上の火に油を注ぎ、“動物好き”のコミュニティにまで波及した。
「人は正義よりも“弱きもの”に反応する。感情の流通経路を見誤ってはいけない」
■SNS拡散の臨界点
Botのダッシュボードが警告を発した。
《拡散指数が安全閾値を超過しました。リミッターを解除しますか?》
慎一は静かに頷き、“はい”をクリックした。
その瞬間、全てのBotが最大出力モードに切り替わり、全世界の主要SNSに向けて桐生家関連情報の投稿を同時展開した。
各プラットフォームには、自動生成された「見出し付き動画」や「感情分析グラフ」が投稿され、見る者すべてに“怒り”と“共感”を与える設計だった。
そして投稿の最終画面に、慎一はこう刻んだ。
《これが、記録による裁きである》
■桐生貴文の崩壊
翌朝、桐生は会社のビルを一歩も出られなくなった。社員は出社を拒否し、取引先は連絡を絶ち、株価は暴落した。
唯一残ったのは、社長室のPCに表示されたSNSダッシュボードだった。
そこには、数十万件の怒りと、三毛猫の瞳が静かに揺れていた。
■“記録者”の微笑
シンガポールの夜、慎一はバルコニーに出て、空を見上げた。スマートウォッチには、炎上の全データがリアルタイムで更新されていた。
Botの活動ログには、桐生の名前が“社会的抹消対象”として記録されていた。
だが慎一は、ただ一言つぶやいた。
「裁いたのは俺じゃない。見た者の“記憶”が、裁いたんだ」
それが、慎一の復讐の流儀だった。
第13話「炎上作戦」終わり