おむすびころりん計画
8月6日 権蔵
ある村におじいさんとおばあさんが住んでいた。
おじいさんがいつものように山で木の枝を切っていた。昼になったので、昼食にしようとおじいさんは切り株に腰掛け、おばあさんの握ったおむすびの包みを開いた。
すると、おむすびが一つ滑り落ちて、山の斜面を転がり落ちていく。おじいさんが追いかけると、おむすびが木の根元に空いた穴に落ちてしまった。おじいさんが穴を垣間見ると、何やら声が聞こえてくる。
おじいさんは他にも何か落としてみようか辺りを見渡していると、誤って穴に落ちてしまった。穴の中にはたくさんの白いネズミがいて、おむすびの代わりにと、小さいつづらを差し出し、おじいさんに選ばせた。おじいさんは小さいつづらを家に持ち帰り、家でそのつづらを開けてみると、たくさんの財宝が出てきた。
8月8日 友康
ある日おじいさんは友達からこんな噂を耳にした。
「あっちの村に権蔵っているだろ?その権蔵がな、突然大金持ちになったんだってよ。」
「え?」
「まあ権蔵は昔から性格がいいと聞くし、神様の恵みが来たってことかねぇ。」
その話を聞いた友康は「おや?」と思った。丁度2日前の出来事が思い出される。
友康はその出来事が起こる前、多くの財産を持っていた。しかし、2日前に金庫代わりとなっている蔵を見ると、保管しておいた高価なものや金などが、七割程なくなったいたのだ。それから少しのあいだ、友康はその犯人を探していたが、終始見つかることはなかった。
「あいつ…もしかして…」
「ん?なんだ?」
「いや、なんでもない。」
8月9日 権蔵
権蔵は朝早くに起き、今日も山へ行くための準備をしていた。
「ばあさん、おむすびをくれ。」
3日前の出来事があってから、権蔵家にとっておむすびはとても縁起のいいものとされた。
「はいはい。わかっていますよ。もうできますから。」
そのとき、家の扉が叩かれた音がした。
「? 誰かの?」
権蔵が扉を開けたところ、そこには友康がいた。
「あぁ、お前さんは確か…となりの村の…えと、友康か?」
「そうだ。あんたに一つ、聞きたいことがあって来た。」
「………ほぉ」
「あんた、3日前から突然大金持ちになったんだろ?」
「あぁそうだ。偶然な。」
「偶然?ほんとか?あんた、俺の家から金目の物を盗んだんじゃないのか?」
「盗んだ?いやいやそんなわけない。だって、お前さんとは住んでいる村が違うだろ。そんな長い距離を移動しながら物を盗んだら誰かに見られる。」
「じゃあどうやったんだ?教えてくれよ。その方法を。」
「だから違うと言っているだろう。今持ってる金は、3日前にネズミからもらったんだ。」
「は?ネズミ?どういうことだよ?」
「実は、3日前にな……」
8月9日 友康
友康はおむすびを三つほど持って山に来ていた。
「あいつが言ってた穴ってのは…これのことか?」
友康の前方に人一人が余裕を持って入れるほどの穴があった。
「ここに、このおむすびを落とせばいいんだな…」
友康がその穴におむすびを落とすと、なにやら声が聞こえてきた。
「もしかして本当にネズミがいるのか?」
権蔵が言うには、あの金はネズミからもらったものだから、そのネズミに聞けば何かわかるのでは、とのことだった。
友康は、思いきってその穴に入っていった。
穴のなかにはたくさんの白いネズミがいた。が、金を持ってるというわけではなさそうだ。それと、目の前に一つ、箱があり、ネズミがそれを指差していた。
「なんだ?これを開けろと言うことか?」
ネズミが頷く。
意志疎通が取れることに驚きながらも、友康は箱を開けた。なかには一枚の紙が入っていて、そこに何か書いてある。
「何か書いてあるな…」
『馬鹿は死ぬ運命にある。』
「何だこれは…」
そのとき、友康は気づいた。周りからネズミがいなくなっていることに。
そして自分が入ってきたはずの入り口が……
塞がっていることに。
権蔵
ネズミを経由して物を盗む。この計画が、バレるはずがない。だって、村の奴らは意志疎通が取れるネズミがいるなんて、夢にも思わないはずだから。
それから
友康が行方不明になりました。一時は捜索されましたが、そのうち忘れ去られていってしまいました。一方、権蔵は大量の金を使いながら、余生を悠々自適に暮らしましたとさ。