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第19話 『魔物の巣』

第19話『魔物の巣』


悠人の裏切りによって、咲良たち4人は瘴霊の巣窟と呼ばれる異形の空間に閉じ込められていた。その場は霧のような瘴気で満ち、空気は重く、呼吸さえままならない。視界はほとんど遮られ、どこからともなく瘴霊のうめき声が響いてくる。この状況に、咲良たちは恐怖と動揺を隠せなかった。


「悠人…どうしてこんなことを…」咲良は信じられない思いで呟くが、返事はない。ただ悠人の嘲笑が耳に残り、裏切りの実感が胸を締めつけた。陽斗が怒りに震え、「俺たちを罠に嵌めるなんて、絶対許さない!」と声を上げるも、その声は瘴気に飲み込まれてどこか虚ろだった。


蓮は冷静を装いながらも内心の焦りを抑えられない。「今は悠人のことより、この場を脱出することが先だ。」そう言い放つが、その言葉に自信はなく、方法も見つからない。茜は周囲の異様な雰囲気に怯え、言葉を失っていた。彼女の震える肩を見た咲良は、リーダーとして皆を落ち着かせなければならないと感じた。


「みんな、大丈夫。まずは一緒に出口を探そう。」咲良の声は震えていたが、それでも仲間たちを奮い立たせるには十分だった。蓮が歩き出し、茜が後に続く。陽斗は苛立ちながらも最後尾を務め、咲良はその間に立って周囲に目を配った。


しかし、進むほどに瘴気は濃くなり、足元には粘液のようなものが絡みつき、動きが鈍くなる。さらに、四方八方から聞こえる瘴霊の声は次第に大きくなり、不気味な囁き声が混じり始めた。「ここから逃げられない」「お前たちが次の犠牲だ」――その言葉が彼らの心を揺さぶる。


茜がふと立ち止まり、「こんなところに出口なんてあるの?」と不安げに呟いた。その時、咲良の目に奇妙な光景が飛び込んできた。壁のように立ちはだかる瘴霊の巣窟の一部が、まるで意志を持ったようにうごめき始めたのだ。「気をつけて!」咲良が叫ぶと同時に、その部分が裂け、無数の瘴霊が姿を現した。


「戦うしかない!」蓮が叫び、全員が武器を構えた。しかし、これまでの瘴霊とは明らかに異なる存在感に、4人はすでに圧倒されていた。咲良は必死に呼吸を整え、「私たちは負けない!」と自分に言い聞かせるように叫ぶ。だが、彼女の心には、悠人の裏切りの真意と、この状況をどう打破するかという大きな疑問が渦巻いていた。


---


目の前に現れた無数の瘴霊に対し、咲良たちは各々の武器を構えたものの、息が詰まるような瘴気に身体の動きが鈍っていた。瘴霊たちはひとつひとつが異形の姿をしており、いずれもこれまでに戦ってきたものとは比べものにならないほど強力な瘴気を放っている。


「こいつら…今までの瘴霊とは違う。まるで、瘴気そのものが意思を持ってるみたいだ…!」蓮が剣を振りながら叫ぶ。その言葉通り、瘴霊たちは連携して動き、4人を包囲しようとする様子を見せていた。咲良は必死に冷静を保ちながら、「みんな、連携を崩さないで! 一人一人が孤立しちゃダメ!」と指示を飛ばした。


陽斗が咄嗟に前に出て、最初の瘴霊を迎え撃つ。「くそっ、なんて固さだ!」彼の槍が瘴霊の表皮に突き刺さるが、表面をかすめただけで思ったように貫通しない。茜も後方から火の玉を放つが、瘴霊はその攻撃を吸収するかのように無傷で立ち続ける。


「普通の方法じゃ倒せないのか…」咲良は焦りながらも、自らの武器である弓を構え、矢に瘴気を消し去る力を込めた。「これでどうだ!」放たれた矢は一体の瘴霊に命中し、その姿を消滅させる。しかし、周囲にはまだ無数の瘴霊がいて、矢を放つたびに体力が削られていくのを感じた。


「全員、一旦引くぞ!」蓮が叫ぶ。彼の声に応じて、4人は瘴霊の包囲網を突破しようと試みた。茜が咄嗟に壁を作るような呪文を唱え、瘴霊たちを一瞬だけ足止めする。その隙に全員が走り出し、瘴霊の巣窟のさらに奥へと進んでいった。


しかし、進む先に待っていたのは希望ではなく、さらなる絶望だった。奥に進むほど瘴気は濃くなり、空間そのものが歪んで見える。まるで生きているように脈動する壁が彼らの行く手を阻むかのように伸び縮みしている。その中心には、不気味な光を放つ黒い結晶のようなものが鎮座していた。


「これは…何だ?」蓮が足を止めて黒い結晶を見つめる。その異様な存在感に、全員が動きを止めていた。その瞬間、結晶から瘴気が渦を巻いて噴き出し、その中から瘴霊の中でも格別に大きな一体が姿を現した。


「ここが、奴らの核なのか…?」咲良が震える声で呟く。その瞬間、黒い結晶が共鳴するように光り、4人の足元に瘴霊の手が現れた。「逃げて!」咲良が叫ぶが、瘴霊の手に捕まりそうになったその時、突然、結晶の光が薄まり、瘴霊たちの動きが一瞬止まる。


「この状況を作ったのは誰だ…?」蓮が呟いた。その疑問に答えるかのように、奥から再び悠人が現れた。「やはり、お前たちにこの場所は早すぎたようだな。」悠人のその冷ややかな声が、再び彼らの混乱を深めていった。


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悠人の登場により、緊張感がさらに高まる中、咲良たちは警戒を解かずにその言葉を待った。悠人は黒い結晶を見上げながら、低い声で語り始める。「この結晶が瘴霊たちの根源だ。そして、それを動かしているのは、この街の人々の負の感情だ。」


「負の感情…?」咲良がその言葉に反応する。悠人はゆっくりと振り返り、4人を鋭い眼差しで見据えた。「怒り、悲しみ、嫉妬、憎しみ――それらが結晶に蓄積され、瘴霊を生み出している。そして、それを増幅させているのが、この街に存在する“魔物”だ。」


「じゃあ、この結晶を壊せば…!」陽斗がすぐに動こうとするが、悠人がそれを制止する。「やめろ。触れるだけで、お前の心にある闇が引き出される。それに…」悠人が鋭い声を上げると同時に、結晶が再び光を放ち、周囲の空間が歪んで見えた。その光の中から、先ほど以上に巨大な瘴霊が姿を現した。


その瘴霊は、まるで人間の形をしているかのように見えるが、その目には生気がなく、全身から瘴気が噴き出している。咲良たちは自然と後ずさりした。「これが…瘴霊の進化形?」茜が恐る恐る呟くと、悠人が冷たく言った。「進化じゃない。これが瘴霊の“本来の姿”だ。」


巨大な瘴霊はゆっくりと動き出し、その一歩ごとに地面が震えた。咲良は矢を構えるが、手が震えてしまい、思うように狙いが定まらない。「どうすれば…?」咲良の目に迷いが浮かぶ中、蓮が剣を抜いて前に出た。「考える暇はない。やるしかないんだ!」


蓮のその声に触発され、陽斗も槍を構え、茜は呪文を準備し始めた。しかし、悠人はそれを冷静に見守っていた。「無駄だ。お前たちだけでは、この瘴霊には勝てない。」


「だったら、あんたが何とかしろよ!」陽斗が怒鳴りつけるが、悠人は薄く笑いながら言った。「お前たちの力がどれだけ通用するのか、見せてもらうのも悪くない。」その言葉に蓮は「ふざけるな!」と声を荒げたが、咲良がそれを止めた。「悠人さんがどういう意図でここにいるのかは分からない。でも、今は目の前の敵を倒さなきゃ!」


その言葉で再び咲良たちの心が一つになり、彼らは瘴霊に立ち向かう。だが、瘴霊の圧倒的な力の前に次第に追い詰められていく。矢が通じず、剣も跳ね返され、茜の魔法すら瘴霊に吸収されるように無力化されていった。


その時、悠人が静かに呟いた。「やはり、お前たちにはまだ“鍵”がない。」悠人が一歩前に出ると、彼の手に黒い光が集まり始めた。「俺が少しだけ手伝ってやる。だが、これが最後だ。」


悠人の放った黒い光が瘴霊を貫くと、瘴霊の動きが一瞬止まった。その隙を見逃さず、咲良たちは力を振り絞って総攻撃を仕掛ける。蓮の剣が瘴霊の胸を切り裂き、咲良の矢がその心臓を貫くと、瘴霊は叫び声を上げて崩れ落ちた。


しかし、勝利の余韻に浸る間もなく、悠人が冷たく告げた。「これで終わりじゃない。この結晶を破壊しない限り、瘴霊は何度でも蘇る。そして、それを破壊するにはお前たちの覚悟が必要だ。」


悠人の言葉を聞いた咲良たちは、それぞれの胸に新たな決意を抱きながら、結晶に向き合うのだった。


第19話 『魔物の巣』 (完)

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