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第18話 『裏切り者の痰』

第18話『裏切り者の痰』


咲良たちは悠人から聞いた「瘴霊が生まれる根源を探れ」という助言を頼りに、街の奥深くに潜む闇の手がかりを追い始めた。悠人が提供した地図には、街の中でも特に瘴気が濃いとされる場所が記されており、その一つが廃墟となった旧工場だった。


「ここ、本当に入るの?」茜が震える声で言う。薄暗い夕暮れの中、工場は不気味な影を落としていた。陽斗は茜の肩を軽く叩き、「怖がるなよ。俺たちがやらなきゃ、誰がやるんだ?」と励ましを口にするが、彼自身も不安を隠せない様子だった。


「慎重に進むぞ」と蓮が低い声で告げる。彼は先頭に立ち、手にした懐中電灯で足元を照らしながら進む。咲良はその後ろを歩きながら、工場の空気が普通ではないことを感じ取っていた。腐敗した金属と湿気の臭いに混じり、どこからともなく漂う異様な瘴気。それは肌にまとわりつくようで、彼女の心を重くした。


建物の中に足を踏み入れると、床は崩れかけ、壁には奇妙な黒い模様が浮かび上がっていた。「この模様、瘴霊が出た場所で見たものと似てる…」と咲良が呟くと、悠人が静かに頷いた。「そうだ。これは瘴霊の発生と関係がある。だが、もっと重要なのはここに隠された真実だ。」


「真実って?」陽斗が問い詰めるように聞く。悠人は答えず、代わりに壁の一部を指差した。「この奥に何かがある。」彼の指摘に蓮が動き、壁を調べ始める。だがその瞬間、茜が後ろから声を上げた。「待って!誰か…見てる気がする。」


全員が振り返るが、そこには誰もいない。しかし、茜の不安はすぐに現実となる。背後の暗闇から何かが蠢く音がし、一瞬のうちに冷たい風が彼らの間を駆け抜けた。「瘴霊だ!」蓮が叫び、全員が身構える。


だが瘴霊は現れず、代わりに工場内のどこかから聞こえる囁き声が響いた。それは意味を成さない言葉の羅列のようだったが、不気味なほど耳に残る。「これは…?」咲良が声を震わせながら言うと、悠人が険しい表情で応じた。「これはお前たちの中の誰かが発している声だ。」


その言葉に場が凍りついた。誰もが互いの顔を見回し、沈黙が重くのしかかった。悠人は静かに言葉を続けた。「ここにいる誰かが、この瘴気を引き寄せている可能性がある。」


蓮が厳しい目で悠人を睨む。「何を言ってる?俺たちは仲間だぞ。」しかし悠人は一歩も引かない態度で応じた。「仲間であることが、全ての真実を保証するわけじゃない。」


その言葉が、咲良たちの間にさらなる不信感を広げていく。内部に裏切り者がいる可能性を示唆され、彼らは次第にぎこちない空気の中で行動を続けることとなる


---


悠人の言葉によって、咲良たちの間には微妙な不信感が漂い始めた。しかし、それを振り払うように蓮が「無駄に疑ってても仕方ない。今は前に進むだけだ」と断言し、グループの士気を何とか立て直した。


彼らは工場内の奥深くへ進むにつれ、周囲の瘴気がさらに濃くなり、息苦しささえ感じ始めた。壁に刻まれた奇妙な模様は次第に鮮明になり、黒い線が蜘蛛の巣のように広がっていた。「この模様、まるで道案内をしてるみたいだ…」茜が不安げに呟く。


「瘴霊たちの巣だろうな」と悠人が冷静に言いながらも、慎重に足を進める。その時、陽斗が「ここはなんなんだよ?こんな場所が街にあったなんて…」と怒りを抑えた声で呟くと、悠人は短く答えた。「ここはただの工場じゃない。瘴霊を作り出すための“場”だ。」


「瘴霊を作り出す?」咲良が驚きの声を上げると、悠人はうなずいた。「瘴霊は自然発生じゃない。特定の条件が揃うことで生まれる存在だ。その条件の一つが、この場所だ。」


蓮が眉をひそめ、「そんなことが可能なのか?」と問うと、悠人は懐から古びたノートを取り出して見せた。「これは過去の記録だ。この街の瘴霊発生とこの場所の関係が記されている。ここを放置すれば、瘴霊は無限に生まれ続ける。」


その説明を聞いた咲良たちは改めて背筋が凍る思いをした。しかし、茜が不安そうに言った。「でも、そんな大事な場所に、どうして私たちみたいな普通の人間が関わってるの?私たちが選ばれた理由って…?」


その問いに悠人は一瞬言葉を詰まらせたが、静かに答えた。「それは、まだ分からない。ただし、お前たちの存在がこの街の瘴霊に大きく関係していることは確かだ。」


その答えに茜は困惑し、陽斗も険しい表情を浮かべた。「俺たちが関係してるってどういうことだよ?俺たちはただ、普通に生活してただけだ。」


「普通に見えるだけだ」と悠人が冷たく言い放った。「人間は自分の心の奥底に何があるのか、ほとんど分かっていない。お前たちの中に潜む感情や過去が、この場に引き寄せられた理由かもしれない。」


その時、突然工場内に轟音が響き、床が大きく揺れた。「何だ!?」蓮が叫ぶと同時に、壁の模様が淡い光を放ち始める。まるで彼らの侵入に反応しているかのようだった。


「急げ、奥に何かがあるはずだ」と悠人が指示し、全員が揺れる足場を駆け抜けていく。その先には巨大な扉が現れ、扉の上には瘴霊の顔を象った彫刻が施されていた。


「ここか…」咲良が呟いたその時、再び不気味な囁き声が響き渡った。それは工場全体に反響し、まるで彼らを嘲笑するかのようだった。そして、その声の中に確かに聞き覚えのある響きがあった。


「この声…まさか…」咲良が戸惑いながらも確信に近い恐れを口にする。しかし、誰も彼女の疑念を口にできず、ただ重たい空気が全員を包み込むのだった。


---


瘴霊の巣窟と思われる巨大な扉の前で、咲良たちは立ち止まった。扉には不気味な模様と瘴霊の顔が彫られ、圧倒的な威圧感を放っている。悠人は冷静に扉を見つめ、「この中だ。この場所こそが瘴霊の核心に繋がる」と告げた。


「本当にこの先に答えがあるのか?」蓮が不安げに問うと、悠人は短く頷いた。「だが、進む覚悟がなければここで引き返せ。中に入れば、戻れないかもしれない。」


その言葉に茜が動揺した。「戻れないって、どういうこと?」彼女の不安げな声が静まり返った空間に響く。悠人は視線を逸らさずに答える。「瘴霊の本拠地に足を踏み入れるということは、それだけ危険だという意味だ。だが、それを避けていては、この街の闇を根絶することはできない。」


咲良は悠人の言葉を聞きながら、家族を襲った霧の惨劇を思い出していた。「私はもう逃げない。どれだけ危険でも、立ち向かう」と決意を口にする。その言葉に触発されるように、蓮や陽斗も頷いた。


悠人が扉に手を触れると、不気味な音を立てながらゆっくりと開いていった。その先には瘴霊の気配が渦巻く異様な空間が広がっていた。光がほとんど届かず、瘴気の霧が漂う中、奥には巨大な影が動いているのが見えた。


「来たな、人間ども…」低い声が響き、空間全体に共鳴した。その声の主は、瘴霊たちを操る存在だった。咲良たちは緊張感に包まれながらも、前に進む。


しかしその時、不意に悠人が後ろに一歩下がり、冷たい視線で咲良たちを見つめた。「ここで試させてもらう」と言った瞬間、彼が手にした小さな装置が起動し、瘴霊たちの瘴気が急激に広がり始めた。


「悠人…?何をしているんだ!」蓮が叫ぶが、悠人は冷淡な笑みを浮かべた。「俺が本当にお前たちの味方だと思っていたのか?」


咲良たちは衝撃を受ける。陽斗が激昂し、「どういうつもりだ!」と迫るが、悠人は動じずに言葉を続けた。「この瘴霊たちはただの敵じゃない。この街を浄化する存在でもある。お前たちが彼らを滅ぼそうとするなら、俺はそれを止める。」


「そんな馬鹿な…」茜が信じられない様子で呟いた。しかし悠人の態度は変わらない。


その時、咲良が前に進み出た。「あなたが何を考えているのか分からない。でも、私たちを裏切るなら、私は全力で止める。」彼女の目は怯えながらも決意に満ちていた。


悠人は少しだけ驚いたような表情を見せたが、すぐにそれを消し去り、瘴霊の影に向かって手を伸ばした。「ならば、試してみるがいい。この瘴霊たちが、誰の味方をするのか…」


咲良たちと悠人の間で緊張が高まり、決戦の幕が上がる。その中で、悠人の真意と瘴霊たちの目的が明らかになるのか。物語は次なる局面へと進んでいく。


第18話 『裏切り者の痰』 (完)

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