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第15話 『魔物の進化』

第15話『魔物の進化』


静まり返った街を見渡しながら、蓮たちは疲弊した身体を引きずるように歩いていた。悠人から受け取った石の力を使い、瘴霊を一時的に封じ込めることには成功したものの、心に重くのしかかるものがあった。勝利の感覚は薄れ、むしろ次に襲いかかる危機への恐怖が彼らの胸を満たしていた。


「これで終わったわけじゃないよな。」陽斗がぽつりと呟くと、咲良が静かに頷いた。「むしろ、始まったばかりだと思う。あの瘴霊、最後に何か変わった気がした。」


「進化してる。」悠人が低い声で言葉を発した。彼は彼らに追いつきながら、冷たい目で街の遠くを見つめていた。「瘴霊はお前たちの感情から生まれる。そしてその感情が強ければ強いほど、瘴霊もそれに応じて強化されるんだ。」


「強化……?そんなの、聞いてないぞ!」陽斗が怒りを露わにする。


悠人は微動だにせず答えた。「お前たちが瘴霊を生み出している理由を、根本から理解していないからだ。それだけじゃない。この街全体が長い年月をかけて負の感情を溜め込んでいる。それが、瘴霊の進化を引き起こしている要因だ。」


「街全体の感情って、そんなのあり得るの?」咲良が眉をひそめて聞き返した。


「あり得るさ。この街には過去にある大きな事件があった。それが町全体に負のエネルギーを撒き散らし、それが瘴霊の温床になっている。お前たちの感情だけじゃなく、周囲の人々の思念までもが瘴霊に影響を与えているんだ。」悠人の言葉は冷たかったが、その裏には真実が感じられた。


蓮は立ち止まり、重い口調で尋ねた。「つまり、俺たちがいくら頑張っても、街がこのままなら瘴霊は強くなる一方ってことか?」


「その通りだ。」悠人は薄く笑った。「お前たちが自分たちの弱さを克服しようとどれだけ努力しても、街全体の闇が消えない限り、進化する瘴霊は止められない。」


その言葉に一同は黙り込んだ。自分たちの内面だけでなく、街全体の問題にも向き合わなければならないと気づいた瞬間だった。


ふと、遠くから聞こえてくる悲鳴がその沈黙を破った。「助けて!誰か!」咲良がその方向に顔を向け、駆け出そうとするが、悠人が手を挙げて制止した。「待て。迂闊に近づくな。もし進化した瘴霊だとしたら、お前たちでは対処できない。」


「でも!」咲良が叫ぶように言うと、蓮がそれを引き継いだ。「見捨てるわけにはいかない!」


悠人は短くため息をつき、手のひらを見せながら言った。「なら、覚悟しろ。お前たちがその悲鳴の元に行けば、瘴霊はさらに強くなる。それがどんな結果をもたらすか分かっているのか?」


蓮たちは互いに顔を見合わせ、迷いが胸を締め付けた。しかし、その悲鳴は次第に遠くなり、やがて途切れた。息を呑むような静けさが訪れる中で、蓮は拳を握りしめた。「俺たちが止めなきゃ、誰がやるんだよ。」


その言葉を合図に、咲良、陽斗、茜も覚悟を決めた表情を浮かべた。悠人は冷ややかな視線で彼らを見つめ、静かに呟いた。「なら、その覚悟を見せてもらおうか。」


こうして蓮たちは、新たな瘴霊との戦いに向けて歩みを進めるのだった。


---


蓮たちは遠くの悲鳴に導かれるように走り続けていた。疲労が蓄積し、呼吸が乱れてくる中でも、彼らは足を止めることができなかった。その先にいる誰かを救わなければならないという責任感と、もしまた瘴霊の犠牲者を出してしまったらという恐怖が彼らを突き動かしていた。


悲鳴の先にたどり着くと、そこには怯えた表情で立ち尽くす女性と、彼女を取り囲むようにうごめく瘴霊の姿があった。しかし、その瘴霊はこれまで見たものとは明らかに違っていた。全身が黒い靄に覆われ、形が不定形に変化を繰り返している。さらに、瘴霊の中心部にはまるで燃えさかる炎のような赤い輝きが脈打っていた。


「何だよ、あいつ……」陽斗が呆然とつぶやく。


「進化している。」悠人が冷静に状況を分析した。「感情のエネルギーを吸収して、従来の瘴霊を超えた存在になっているんだ。」


「それなら、早く止めなきゃ!」咲良が声を上げた。女性を守ろうと前に出ようとする彼女を、悠人が腕で制止する。「待て。無策で挑めば、お前たちも食われるだけだ。」


「でも、見てられない!」咲良が叫ぶと、蓮がその言葉を受けて頷いた。「俺たちにはもう時間がない。悠人、何か手はないのか?」


悠人は一瞬だけ考え込み、持っていた石を手のひらに乗せて見せた。「石の力を使うしかない。ただし、代償はお前たち自身の感情だ。それを差し出す覚悟があるなら、力を引き出せる。」


「感情を差し出す……?それって、どういうことだよ?」陽斗が不安げに問いかける。


「この石は、お前たちの内面の力を引き出す代わりに、感情の一部を封じ込める。言い換えれば、自分が何を犠牲にするかを選ばなければならない。」悠人の言葉には厳しさがあった。


その時、瘴霊が女性に向かって一気に迫り出した。咲良が反射的に叫び、蓮が動き出す。「時間がない!やるしかない!」


悠人から石を受け取った蓮は、それを胸に抱えながら目を閉じた。すると、石が淡い光を放ち始め、蓮の体にじんわりと力が満ちていくのを感じる。しかし同時に、彼の心の中から何かが少しずつ削り取られていくような感覚があった。


「くそ……こんな感じなのか……!」蓮が歯を食いしばりながら前に進むと、咲良と陽斗もそれに続く。彼らは協力し合いながら、進化した瘴霊に向けて攻撃を仕掛けた。石の力で強化された彼らの一撃は確実に瘴霊を削り取るが、瘴霊も負けじと異様な力で反撃を仕掛けてくる。


その中で、咲良がふと何かに気づいたように叫んだ。「あの赤い光!あそこが弱点かもしれない!」


蓮と陽斗が彼女の指示に従い、瘴霊の中心部に狙いを定める。その瞬間、瘴霊は彼らの動きを察知したかのように形を変え、攻撃を激化させた。蓮たちはギリギリのところでかわしつつ、必死に赤い光を目指して進んでいく。


「ここでやらなきゃ、次はない!」蓮の叫びが響く中、彼らは瘴霊の中心部に向けて最後の攻撃を繰り出した。


---


蓮たちの攻撃が瘴霊の中心部を捉えた瞬間、赤い光が激しく明滅し、瘴霊全体が震え始めた。その異様な光景に、咲良と陽斗は立ち尽くすが、悠人は鋭い声で叫ぶ。


「まだ終わりじゃない!瘴霊の核を壊さないと、奴は再生する!」


「核って、あの赤い光だよな?」蓮が息を切らしながら聞く。悠人は短く頷き、続けた。「そうだ。ただし、瘴霊が進化した今、その核を壊すには相当な力が必要だ。だが、ここで仕留めなければもっと厄介なことになる。」


その時、茜が震える手で声を上げた。「私も……やる。もう誰かが犠牲になるのは嫌だから。」


「茜……」咲良が驚きながらも彼女を見つめる。これまで恐怖で戦闘に加われなかった茜が、自ら名乗り出たのだ。


「お前、無理すんな!」陽斗が声を荒げるが、茜は毅然とした表情で言い返した。「無理でも、やらなきゃいけない。自分の弱さから逃げてたら、何も変わらない。」


その言葉に、蓮は目を細めた。「分かった。一緒にやろう。」


蓮、咲良、陽斗、茜の四人は互いに頷き合い、再び瘴霊に向き合った。進化した瘴霊は最期の抵抗を試み、周囲に黒い靄を巻き散らしながら巨大な触手のような形状に変化して攻撃してきた。


「攻撃が激しすぎる!」陽斗が叫びながらかわすが、一瞬の隙をつかれて咲良が地面に倒れ込む。その瞬間、茜が咄嗟に彼女を引き寄せ、間一髪で瘴霊の攻撃を避けた。


「咲良、大丈夫?」茜が焦るように聞くと、咲良は小さく頷いた。「ありがとう、茜……」


「今は助け合うしかない。」茜の言葉に、咲良は決意を新たに立ち上がった。「じゃあ、私が陽斗と注意を引く。蓮と茜で核を狙って!」


「了解!」陽斗が大声で返事をし、咲良とともに瘴霊の前に飛び出していった。二人は瘴霊の攻撃を引きつけるように動き回り、蓮と茜が核に近づく隙を作る。


「茜、俺が行くからサポートを頼む!」蓮が叫ぶと、茜は手に握った石を蓮に向けて差し出した。「これ、使って。私の力も込めたから……必ず仕留めて!」


蓮はその石を受け取り、大きく頷いた。そして瘴霊の中心部を狙い、全身全霊で拳を振り下ろす。石が光を放ち、瘴霊の赤い核に直撃した瞬間、核が砕ける音とともに瘴霊全体が激しく崩壊していった。


爆発的な光が一瞬辺りを包み込み、次の瞬間には静寂が訪れた。瘴霊は完全に消滅し、周囲には黒い靄のかけらすら残っていない。


「終わったのか……?」陽斗が息を切らしながらつぶやく。悠人がゆっくりと彼らに歩み寄り、冷静な声で答えた。「ああ、これであの瘴霊は消えた。だが……次はさらに強いものが現れるだろう。」


悠人の言葉に茜は顔をしかめた。「次……また?」


「進化は止まらない。そして、瘴霊だけでなくお前たちも、もっと成長しなければならない。」


その言葉を受けて、蓮は拳を握りしめた。「俺たちは、もっと強くなる。それで、もう誰も犠牲にさせない。」


仲間たちもそれぞれに覚悟を決め、再び歩みを進める。次なる試練に向けて、彼らはさらに強くなろうと誓った。


第15話 『魔物の進化』 (完)

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