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第13話 『咲良の過去』

第13話『咲良の過去』序盤


廃屋で見つけた写真が、一同の間に新たな緊張感を生んでいた。写真に写る少年「司」らしき人物と、その背後に映る廃屋らしき建物。その手がかりは確かに一歩前進だったが、依然として多くの謎が残されている。蓮たちは集まった情報を基に、次の行動を決めるべく話し合っていた。


「この写真の場所がどこなのか、もっと詳しく調べる必要があるな。」圭吾が冷静に提案するが、その言葉に咲良が突然動揺を見せた。「その場所……知ってるかも。」彼女の小さな声に、全員が振り返る。


「咲良、どういうこと?」茜が尋ねると、紗良は少し戸惑いながら答えた。「たぶん、だけど……小さい頃、弟の翔太とその場所に行ったことがある気がする。でも、あまりはっきり覚えていなくて……ただ、すごく嫌な思い出があるの。」


咲良の声には微かな震えがあった。その様子を見た陽斗が、気遣うように「無理に話さなくてもいいよ」と言ったが、咲良は首を振る。「いいえ、話さなきゃいけない。これは私の責任だから。」


一呼吸置いて、咲良は過去の記憶を語り始めた。


「それは、私がまだ小学校に上がる前のことだったと思う。両親が忙しくて、翔太と二人でその場所に遊びに行ったの。でも、目を離した一瞬の間に、翔太がいなくなったの。」


その言葉に、一同は息を呑んだ。咲良の表情は苦痛に歪んでいる。「必死に探したけど、どこにもいなくて……。その時、すごく怖い声が聞こえた気がするの。でも、何が起きたのかは思い出せない。ただ、しばらくして翔太は自分で帰ってきたの。でも……彼の様子は明らかにおかしくて、それ以来、ずっと何かを怖がるようになった。」


「その場所って、廃屋の近くだったの?」蓮が尋ねると、咲良は首を縦に振る。「たぶん、あの廃屋が写真に映っている建物と同じだと思う。」


蓮たちは咲良の話に耳を傾けながら、それが瘴霊や司にどう繋がるのかを考えた。しかし、彼女の記憶は曖昧で、断片的だ。「その時のこと、もっと思い出せないかな?」茜がそっと声をかけるが、咲良は困ったように俯く。「正直、あの記憶に触れるのが怖いの。けど、翔太のことを思うと、向き合わなきゃいけない気がして……。」


その場に重い沈黙が流れる。だが、咲良の告白は新たな可能性を提示していた。司という少年と、咲良の過去が繋がっているかもしれないという事実だ。圭吾が口を開く。「咲良の記憶が鍵になるかもしれない。けど無理はしないで。俺たちも別の方法で調べられることは調べる。」


咲良は小さく頷き、肩をすぼめながら「ありがとう」と呟いた。写真に隠された真実を探るため、一同は再び廃屋とその周辺の調査を進めることを決意する。その時、咲良は心の中で、弟の翔太に謝罪するように呟いていた。「もう一度、ちゃんと向き合わなきゃ……」


---


咲良の話を聞いた後、蓮たちはそれぞれ考え込んでいた。彼女が抱える過去の痛みは、蓮たちにも重くのしかかるようだった。しかし、その話には瘴霊や司との関係を示唆する何かが隠されているかもしれない。


「咲良、もう少し詳しく話してもらえる?」蓮が慎重に尋ねると、咲良は一瞬ためらいながらも頷いた。


「私が翔太を見失った場所は、確か廃屋の裏手にある小さな森だった。その時、何か怖い音がしたのを覚えてる。何ていうか、人間の声じゃない感じの……低くて、耳に響くような音。」


「それって瘴霊の気配に似てる?」茜が恐る恐る聞くと、咲良は思い出すように目を閉じた。「わからない。でも、あの音を聞いた瞬間、体が動かなくなったの。その場に立ち尽くしてしまって、翔太を探さなきゃいけないのに、何もできなかった。」


咲良の声は震えていた。彼女が握りしめた拳を見て、陽斗が口を開く。「それで、翔太はどうやって戻ってきたんだ?」


「それが……私も詳しくは覚えてない。ただ、しばらくして森の奥から歩いてきたの。でも、翔太の顔は真っ青で、何かに怯えているのがわかった。それ以来、彼はあの場所のことを一切話そうとしなかった。」


「その時、翔太が何を見たのか、わかればいいんだけど……」圭吾が低い声で言う。


咲良は苦しげに眉をひそめた。「私がもっと強かったら、翔太を守れたのに。あの時の私は、怖さに負けて何もできなかった。本当に情けない。」


「咲良、それは違うよ。」茜が毅然とした口調で言った。「怖いものに直面して動けなくなるのは、誰にでもあること。それを責めるのはやめて。」


「でも……」咲良が反論しようとした瞬間、蓮が口を挟んだ。「茜の言う通りだ。俺たちはここに来るまでに何度も怖い思いをしてる。それでも、みんなで力を合わせて乗り越えてきた。咲良だって、一人じゃないんだ。」


蓮の言葉に、咲良はしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。「ありがとう。でも、これ以上私が迷ってると、時間を無駄にしちゃうね。」


彼女は意を決したように顔を上げると、改めて一同に告げた。「あの場所に戻って、もう一度探してみたい。私がその記憶に向き合わないと、何も前に進めない気がする。」


その場の空気が引き締まる。咲良の決意を受けて、蓮たちは廃屋とその周辺を再調査するための準備を進めることにした。しかし、その行動には確実に危険が伴うだろう。


「気をつけよう。瘴霊がまた現れる可能性がある。」圭吾が警戒心を滲ませて言った。


---


再び廃屋を訪れることになった蓮たち。夕暮れが近づき、周囲が薄暗くなる中、一同は慎重に足を進めた。咲良の案内で森の中を進むと、彼女がかつて翔太を見失ったという場所にたどり着いた。木々の間からひっそりと姿を現す廃屋。その不気味な佇まいに、一同は思わず身震いする。


「ここだと思う。」咲良は声を震わせながら言った。「あの日、翔太が森の奥から戻ってきたのも、この辺りだった。」


蓮が辺りを見回しながら声をかける。「ここに何か手がかりがあるかもしれない。慎重に調べよう。」


それぞれが手分けして探索を始める中、咲良は一人で廃屋の壁に手を触れた。荒れ果てた木材の感触が、彼女の記憶をかき乱すようだった。「あの日、私がここで立ち尽くしていたせいで……」咲良は心の中で自分を責める言葉を繰り返した。


その時、不意に冷たい風が吹き抜け、森全体がざわめき始めた。


「何だ……?」圭吾が身構えた瞬間、薄暗い森の奥から低いうなり声が聞こえてきた。その音は、咲良の記憶に深く刻まれたものだった。


「この音……間違いない、あの時の……!」咲良が叫ぶと同時に、影のような存在が森の中から姿を現した。瘴霊だった。


「来たぞ!」陽斗が叫び、全員がそれぞれ武器を手に取った。瘴霊の姿は巨大で、その禍々しい気配が一同の恐怖心を刺激する。


咲良は足がすくみそうになるのを感じたが、必死で踏みとどまった。「もう逃げない……!」彼女はそう呟くと、瘴霊に向かって一歩踏み出した。


「咲良、危ない!」茜が叫んだが、咲良は振り返らずに声を張り上げた。「私はずっと、自分の弱さに向き合うのを避けてきた。でも、もう逃げたくない。翔太のためにも、ここで終わらせる!」


その言葉に応えるように、瘴霊は咆哮を上げながら突進してきた。


「咲良、俺たちがついてる!」蓮が叫び、陽斗や圭吾もそれぞれの位置から攻撃を仕掛ける。茜も瘴霊の動きを牽制しながら、咲良をサポートする。


咲良は震える手でポケットから取り出したペンダントを握りしめた。それは翔太が幼い頃に贈ってくれたもので、彼女にとって大切な思い出だった。「翔太……私が守るから。」


その瞬間、咲良の胸の奥から強い光が放たれた。それは彼女が押し込めていた罪悪感や恐怖心が浄化されるような感覚だった。同時に、瘴霊が苦しむように後退し始めた。


「今だ!」蓮が合図を送り、一同の攻撃が瘴霊に集中する。その連携は見事に決まり、瘴霊は煙のように消え去った。


「終わった……」咲良はその場に膝をつき、涙を流した。「翔太、やっと……許してくれるかな。」


蓮たちは彼女を囲み、そっと肩に手を置いた。彼女の決意と行動が、瘴霊を倒す鍵となったのだ。


「咲良、お疲れ様。これでまた一歩前に進めた。」茜が優しく言うと、咲良は微笑みながら頷いた。


だが、彼らの戦いはまだ終わらない。咲良の過去を紐解くことで新たな手がかりを得た一行は、次なる目標に向かって動き出すのだった。


第13話 『咲良の過去』 (完)

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