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第12話 『司の痕跡』

第12話『司の痕跡』


街には不穏な空気が漂っていた。瘴霊の出現頻度が急激に増加し、蓮たちは次なる対策を立てるため情報を収集していた。蓮、圭吾、美咲、茜、陽斗、そして翔太は放課後に集合し、美咲が集めた資料をもとに調査を進めていた。


「この名前、見覚えない?」美咲が机の上に広げた古い新聞の切り抜きには、「司」という名前がいくつも記されていた。記事には数年前、この街で発生した不可解な事件について書かれている。事件の中心にいたとされる「司」という少年の名前が頻繁に登場するものの、詳細についてはほとんど記載がなかった。


「司って誰だろう?」蓮が首をかしげると、翔太が軽い調子で「またなんかの都市伝説じゃないの?」と笑い飛ばす。しかし、美咲は真剣な表情で言葉を続けた。

「都市伝説にしては、あまりにも具体的すぎる。ほら、この記事では彼が周囲の人々を次々に失踪させたって書いてある。でも、どれも中途半端で、その後どうなったのかがわからないの」


「それって、瘴霊と関係あるってこと?」茜が不安そうに尋ねると、陽斗が資料に目を通しながら静かに答えた。

「可能性はあるね。この記事が本当なら、司って名前の少年が何かを引き起こしたのかもしれない。ただ、それが瘴霊の原因だとしても、僕たちにはまだ手がかりが足りない。」


その瞬間、美咲が別の資料を取り出した。「これ、SNSで見つけたの。この司って名前、実は最近でも何度か話題になってるの。」

彼女が見せたのは匿名掲示板の投稿だった。「司に会った」「司が街に戻ってきた」といった内容が散見される。投稿の真偽はわからないが、どれも恐怖や謎めいた雰囲気が漂っていた。


「なんか怖えーな。俺らも変なことに巻き込まれるんじゃねえの?」翔太が冗談めかして言うが、その言葉に場の空気はさらに重くなる。


蓮はふと、自分の中に何か奇妙な感覚を覚えた。「司」という名前を聞くたびに、どこか遠い記憶の奥から何かが浮かび上がりそうで、けれどそれが何かはわからない。


「とにかく、街をもう少し調べてみよう。」圭吾が声を上げ、皆もそれに頷いた。彼らは手分けして、街中を巡る計画を立てた。その中で蓮は、何か忘れていることがあるという不安を感じながらも、足を踏み出さざるを得なかった。


---


蓮たちは街中を手分けして調査を進めていた。蓮と美咲は古い図書館に向かい、圭吾と茜は住民への聞き込み、陽斗と翔太はかつての事件現場とされる廃屋を訪ねることになった。それぞれが「司」に関する新たな手がかりを探す中、彼らは不安と期待が入り混じった心境で行動していた。


図書館では、美咲が新聞のバックナンバーや未整理の資料を手際よく調べていた。一方、蓮は頭の片隅に引っかかる「司」という名前に集中できない様子だった。「蓮、どうしたの?」と美咲が問いかけると、彼は曖昧に「なんか…変な感じがするんだ」と答えた。


美咲は蓮を気遣いつつも、調査を続けた。その結果、ある古い記事を見つけることに成功する。そこには「司」という少年が、街のある集会所で頻繁に目撃されていたことが記されていた。その集会所は今や廃墟となっており、周囲では奇妙な現象が起きる場所として有名になっているらしい。「ここ、行ってみる価値がありそうだね」と美咲が提案し、蓮もそれに同意する。


一方、廃屋に向かった陽斗と翔太は、薄暗い建物の中で妙な違和感を覚えていた。「なんか、空気が重いな…」と陽斗が呟くと、翔太も頷きながら壁に目を向けた。そこには奇妙な文字や記号が落書きのように残されており、その中に「司」という名前が何度も書かれていた。


「これ、ヤバくない?」翔太が不安そうに言うが、陽斗は慎重に壁の一部を写真に収めながら冷静を装っていた。しかし、その時、背後からかすかな音が聞こえた。振り返ると、暗がりの中で人影が動いている。「誰かいるのか?」陽斗が声をかけるが、返事はない。恐怖を感じながらも、二人はその人影を追いかけることにした。


その人影を追ってたどり着いたのは、建物の奥にある小さな部屋だった。部屋の中央には古びた机があり、その上には日記が置かれていた。日記には「弱さを吐き出せ。さもなくば世界は飲み込まれる」という言葉が繰り返し書かれていた。そして最後のページには、「司」という署名とともに、「私を見つけるな」という謎めいた言葉が記されていた。


陽斗と翔太が困惑していると、突然、廃屋全体が震えるような音が響き渡った。同時に黒い霧のようなものが現れ、二人を包み込もうとする。咄嗟に外へ逃げ出す二人だったが、その黒い霧の中に一瞬だけ「司」と名乗る少年の姿が見えたような気がした。


二人は慌てて外に出ると、圭吾と茜に連絡を入れた。「司という名前の人物が、やっぱりこの街の瘴霊と関係してるのかもしれない」と陽斗が言い、彼らは蓮と美咲に情報を共有するために集合することを決めた。


---


蓮、美咲、圭吾、茜、陽斗、翔太の6人は廃屋の近くに集合した。それぞれが持ち寄った情報を共有する中、陽斗が見つけた日記の話題が中心となった。「弱さを吐き出せ」と書かれた日記の文言に、皆は不気味さを感じる。「この『弱さ』って、俺たちが吐き出してる痰と関係があるんだろうか」と蓮が呟くと、美咲が深く頷いた。


「可能性は高いと思う。この街の瘴霊が『弱さ』に引き寄せられるのなら、それを知っている司という人物が、瘴霊の発端に関わっているのかもしれない。」

「じゃあ、司を見つければ、すべてが解決するのか?」翔太が苛立ちを見せながら言うが、圭吾は冷静に言葉を返した。「いや、司を探し出しても、その真意や瘴霊との繋がりがわからなければ意味がない。彼を敵と決めつけるのは早い。」


その時、美咲がさらに手がかりを見つけたことを告げた。図書館で見つけた古い記事によれば、「司」という少年は集会所だけでなく、この街の外れにある森にも足繁く通っていたという。そこで、蓮たちは次の調査地点を森に定め、翌日に改めて探索に向かうことを決めた。


話し合いを終えた一同が解散しようとした矢先、空気が一変した。廃屋の奥から再び黒い霧が立ち上り、その中から巨大な瘴霊が現れたのだ。これまでに見たどの瘴霊よりも異様で、明らかに強力な気配を放っている。「逃げろ!」陽斗が叫ぶが、霧の動きは速く、一行は廃屋の周囲に追い詰められてしまった。


「どうする!? こんなの、今までと違う!」茜が怯えた声を上げる中、蓮は必死に状況を見極めていた。瘴霊の動きはまるで意思を持っているようで、彼らを囲む形でじわじわと迫ってくる。その時、蓮の頭にある言葉が浮かんだ。


「弱さを吐き出せ…。」


蓮は恐怖に震えながらも、自分の胸の内にある感情に向き合おうと決意した。過去に見捨ててしまった友人のこと、家族に対して抱える罪悪感、そして自分がリーダーとして不十分だと思っている弱さ。それらを声に出しながら、一気に吐き出した。


すると、彼の前に浮かんでいた黒い霧が揺らぎ始めた。それを見た他の仲間たちも、自分の弱さに向き合い始めた。「俺は…翔太を本気で向き合う友として支えられなかった。」「私は、自分を偽って周りに合わせてばかり…」それぞれが自分の内なる弱さを吐き出すたび、霧は薄れ、瘴霊の力が徐々に弱まっていった。


最終的に、瘴霊は消え去り、一行はその場に崩れ落ちた。「やっぱり、俺たちの『弱さ』が関係してるんだ…」蓮は息を切らせながら呟いた。だが、その消えた瘴霊の残骸の中に、一枚の古びた写真が落ちているのを茜が見つけた。


写真には、少年時代の「司」と思しき人物が笑顔で写っていた。そしてその背後には、現在の廃屋の前で彼を見守る大人たちの姿が写っている。「司は、ここで何をしていたんだろう…?」圭吾がつぶやき、一同はその写真を手がかりに、さらなる真相を探る決意を固めた。


第12話 『司の痕跡』 (完)

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