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余韻

「わたし……現実を馬鹿にしてしまっていたのかしら?こんなにファンタスティックなこと、夢の中だけだと思っていたの。世界は私の想像以上に想像的なのね。私、夢を語るのをやめようかしら。現実がこんなにおもしろいのなら、夢を見る必要もないわ……」


 話し終えるころには瞳が虚ろになっていた。クロエは夢見心地で、彼女の視線は灌木かんぼくの下の方をさまよっているが、頭には何も入ってきていないのかもしれない。


「クロエ、現実に帰ってきなさい。この状況は非現実的よ。人型のロボットなんて物語の中だけよ!それが動いて、二足歩行して、洗濯までしたのよ。あれが洗濯と呼べるかはともかくね……。

 それにしても、あのコミカルな動きは見ていておもしろかったわね。私もあの子と友達になりたくなってきたわ」


 シャルロットはロボットの不器用な動作を思い出して、くすりと笑った。

 クロエの空想話にしぶしぶ付き合ってここまで来たので、まさか一昨日の人形が動くとは思わなかったのだ。あれほど巧妙なロボットを現実に見たことはない。それはクロエにとっても同じだったが。


「素敵って言葉は特別なのかもしれない。私、安易に使いすぎていたわ。今日みたいなスペシャルな日のために取っておくべきだったかも……。

 だって毎日使っていたら、素敵な日が普通の日みたいじゃない。これなら普通ね日のほうが特別感があるわ」


 やはり親友の話が頭に入らないクロエは、脱力して後ろの草っ原に倒れ込んだ。日陰でまだ湿り気のある場所だったらしく、彼女は「冷たくて気持ちいい」と言葉に漏らして目をつぶった。


「どうする?こっそり屋敷を覗いてみようか?」


 シャルロットは面白いものをみつけ、男の子のようにはしゃいでいる。好奇心の力を借りてもう少し頑張ろうと意気込んだ。しかし、クロエは起き上がらない。


「ごめんなさい。シャルロット。私、満腹すぎて動けないわ。お腹って食べ物だけでいっぱいになるものでもないみたい。今の私がそう。幸せすぎて動けないわ。

 食べたことないけどシロナガスクジラを1頭食べた後のように満足しているわ。もうお腹いっぱいでこれ以上は食べられない。

 明日出直してもいいかしら?私たちの明日は1万枚の金貨よりも輝いているわ」


 少し放心状態で答えた。


 シャルロットもその言葉を聞いて、大きく後ろに倒れ込んだ。しかし、湿気った落ち葉が首に触れて「ひゃ、なにこれ、冷たい!」とすぐに飛び起きた。


「クロエ、ワンピース濡れちゃうよ。どうして平気なの?」


 その問いにクロエは起き上がる様子もなく、気持ち良さそうに微笑んで答えた。


「平気よ。高給ベッドで寝てるみたい」


 それを聞いたシャルロットは、ふーっと息を吐き、「そうね」と呟き、2人はしばらくその場に居残った。




 肌を撫でる風に涼しさを感じ始めた。太陽が西に傾きかけていた。そろそろ帰りましょうかとシャルロットが考えてから口に出すのに30分ほどの時間を要した。

 真夏とはいえ、薄暗い屋敷の木陰はひんやりとして気持ちが良い。シャルロットは茂みに座り込んだまま、夏の涼やかな気候の中でまどろんでいた。


 クロエはお気に入りのワンピースが汚れてることも気にせず、草の上に寝転んで、眠ってしまった。

 シャルロットが声をかけると、クロエは何も言わずにゆっくりと体を起こした。シャルロットがクロエの肩や背中についた葉っぱを払った。

 2人はきょろきょろと辺りを見渡しながら立ち上がった。屋敷にはロボットの他にも黒い影がいるのだ。


 誰かに見られていないかの確認と、ここは現実世界なのかという確認が必要だった。物音も人影もないことを確認して、少女たちは言葉少なに、ふらふらと家路に着いた。

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