昨日という日
太陽がまだ斜めから射し込む朝の時間帯から、さっさと朝ごはんを食べ終えたクロエは軽くカールしたたっぷりの髪を時間をかけておだんごヘアーにしていた。くせのある髪はリボンで結ぼうとすると何度もぱさぱさと落ちてしまった。クロエがヘアースタイルに悪戦苦闘していると、見かねたキャロラインが後ろからリボンを結んでくれた。
できあがった髪型に満足したクロエはにっこり微笑んで「ありがとう、おばあさま!今日はきっと素敵な1日になるわ!」とはしゃいだ。それからクロエはクローゼットの中からキャロラインが仕立てた黄色いワンピースを選んで鏡を見てポーズを決めた。
クロエはそのポーズに満足すると急いでキッチンに向かった。キャロラインの手を引いて。そしてキャロラインからお昼用のサンドイッチを急かして受け取ると、クロエは「おばあさま、行ってくるわ!今日の私は渡り鳥なのよ!」と謎の言葉を残し、足早に家を出た。
シャルロットの家までは早足で15分ほどの距離だ。クロエは小走りになりながら、ときどきスキップをして親友の家に向かった。心はいつものわくわくと少しの緊張感で踊っていた。シャルロットの家に着くと、クロエは髪型が乱れていないかチェックしてから呼び鈴を鳴らした。少し間があって玄関のドアが開き、テンションの低い親友が呆れかえった顔で迎えでた。
「あ、やっぱりクロエね……あんた今何時だと思ってるの?私はまだ何も食べてないのよ……あんた何か食べてきたの?」
クロエがシャルロットの家にくる時間は日によってまちまちだが、さすがにまだ朝の非常識な時間だった。シャルロットは寝起きらしくあくびをして目を擦った。服装はラフなルームウェアーを着ていた(彼女の外装もにたようなものだが)。
シャルロットはやれやれと頭を掻いたが、クロエの元気そうな顔を見て少し嬉しそうでもあった。
「まあいいわ。入って」
「わあ!」
クロエは嬉しさのあまりシャルロットに抱きついた。
「会いたかったわシャルロット!私あなたに会える日をずっと心待ちにしていたのよ!」
これにはシャルロットは心底あきれ返り、親友を引き離して冷めた口調で言った。
「いやいや、昨日1日会わなかっただけだから」
それに対してクロエは大げさに頭を横に振った。
「昨日という日は生涯でたった1日しかないわ〜それほど大切な日をあなたと一緒に過ごせなかったことがどれほど心残りだったことか〜しかし希望の翼は今大きく広げられた〜さあ〜自由の羽根となり〜共に羽ばたき〜新し〜大地を目指して〜空高く〜舞い上がりましょ〜」
クロエはオペラ歌手のマネをして溢れる気持ちを歌にした。シャルロットに向かって手のひらをかざした。
「いつにも増して朝からハイテンションね……」
シャルロットは朝からテンションが高すぎるクロエを見て、少し意地悪をしたくなってドアを閉めた。クロエの瞳がパチクリとした。
「ちょっとシャルロット!私はここよ!まだ外にいるわ!シャルロット!」
クロエは駄々をこねる子どものように叫んでドアをノックした。シャルロットがまたドアを半分開けて眠そうな目でクロエを見た。
「もう少し落ち着いたほうがいいわよ……朝からそのテンションにはついていけないわ」
「無理よ!今の私の気持ちは花びらを巻き込んだ竜巻のように舞い上がってるわ!」
クロエは笑顔で答えた。
「あんた昨日寝てないの?今日はテンションおかしいわよ」
「たっぷり寝たわ!だから元気よ!」
「私は寝起きで低血圧よ……」
「ええ、そんなあなたも大好きよ。シャルロット」
会話が噛み合っていないがそれはいつものことだ。シャルロットは寝ぼけ眼のまま、ぼーっと家の外を眺めた。庭ではスズメがぴょんぴょん跳ねて鳴いている。クロエは希望に溢れた顔で親友の応対を待った。
「まあいいわ……兄貴たちがまだ寝てるから静かに入って」
シャルロットはクロエのテンションを落ち着かせることを諦めて家に入れた。同時に深いため息もついたが、それもいつものことで大して疲れているわけではない。
扉が全開になるとクロエは嬉しそうにジャンプして入ってきた。シャルロットは「これは静かにする気はないな」と思ったが、それもいつものことなので諦めた。




