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2人の任務

「ねえ、ちょっと待って!おかしいから!それおかしいから。ちゃんとフットボールをしましょう!リチャードがボールを蹴るのが苦手ならキーパーでいいわ。

 私とクロエが1対1をしてもいいわ……いえ、ただのシュート練習にしましょう。クロエと私が交互にシュートを打ってリチャードが止めるの!ね、それでいきましょ!」


 シャルロットは我慢できずに一気にまくしたてた。クロエとリチャードが作り出した妙な空気を打ち消したかった。


「わかりました。今度はシャルロットの任務を遂行します。僕はキーパーですね。キーパーは何をすればいいのですか?」


 ロボットは今までの話の流れをぶった切られたことなど気にする様子もなく、いつもの調子でシャルロットに質問した。


「キーパーは脚だけではなく体全体を使っていいから、とにかくボールを止めればいいのよ。できればキャッチできるのが理想だけど、まああんたはゴールを決められなければいいわ。

 ここにゴールポストの代わりに2本線を引くから、リチャードはこの中に立って、ボールを通さないように止める。それだけできればいいわ。最初からキャッチするのは難しいでしょうから」


 シャルロットはそう言って木の枝で2本の線を引いてから「あんたには少し広すぎるかしら……」とぶつぶつ言って一度線を消し、今度はロボットの体の幅よりボール2つ分広い幅の線を引いた。ロボットはクロエに渡しそびれたボールを眺めながら言った。


「僕は今すでにボールをキャッチしています。任務を遂行できています。完璧なキーパーです。しかし、このボールはクロエにプレゼントすることになっています。つまりキーパーとしての任務を放棄することになります。僕はクロエの任務とシャルロットの任務のどちらを優先させればいいのでしょう?」


 シャルロットはここまでくると苛立ちを通り越して冷静になった。恐ろしいほど無機質な作り笑いをしている自分に驚いた。今までこれほど誰かに気を使ったことはなかったからだ。


「いや、キーパーは最初からボールをキャッチしているものじゃないから。私たちが蹴ったボールを線の間に立って止めるのよ。相手のゴールめがけてボールを蹴ることをシュートっていうの。知ってた?」


 普段は決してしない用語の説明までしている。シャルロットはこれは友達の関係ではないと思った。


「なるほど、キーパーは最初はボールをキャッチしていないのですね。それではボールは一度クロエにプレゼントします。シャルロットは全能です。キーパーは線の間に立ってボールを止めるのですね。わかりました、移動します」


 ロボットはボールをクロエに手渡すと、がしゃんがしゃんと線の間まで動いた。シャルロットはふぅーと息を吐いて2人見た後、クロエに近づきボールを奪った。


「クロエ、私がパスを出すからあなたはシュートよ」


「協力プレーね!了解!」


 クロエはフットボールでパスの練習をほとんどしたことがない。1対1でのシュート練習をしたことはあるが、それは止まっているボールを蹴るものだった。シャルロットはクロエの返事が良かったので、力加減なしでパスを出した。クロエはボールのスピードに驚いたが力強く脚を蹴り出した。


 しかし、上手くタイミングが合わずにつま先に辛うじて当たるだけだった。ボールはゴールへと向かう軌道からは大きく逸れて、後ろの木々に当たって止まった。


「あちゃー」


 シャルロットは思わず声を漏らした。いつものシャルロットは運動が好きな男の子たちとボールを蹴り合っているのだ。クロエはあまりスポーツをしないし、フットボールは苦手だったことをつい忘れていた。ロボットはボールが止まってから、よたよたとボールに近づき、一生懸命にそれを掴まえた。


「やりました。任務完了です。ボールをキャッチすることに成功しました」


 シャルロットはがっくりと肩を落とした。しかしすぐに気を取り直しロボットに駆け寄った。


「……よし、次は私が蹴るから、きっちり止めてね」


 シャルロットはロボットからボールを受け取ると、クロエの足元へと転がして、定位置に戻った。


「クロエ、パス出して!」


 クロエはうなずき、思いっきりボールを蹴った。絶妙なパスが送られたのでシャルロットの胸は高鳴った。


「リチャードは正面のボールを止められるかしら?」シャルロットはそう考えてロボットの足元にめがけてシュートを放った。ボールは少し高くなりロボットの胴体に当たって跳ね返った。ロボットは身動きひとつしてないが、とりあえずゴールは守った。


「おっ、ナイスキーパー!」


 シャルロットは、まあこんなもんよねと思い、ロボットを讃えた。ロボットは喜ぶかと思いきや、両腕をぐるぐる回しながら奇声を上げて辺りを徘徊した。


「任務は失敗です!シャルロットは僕を友達として努めていません!友達にボールをぶつけるのは違反行為です!でもシャルロットは僕にボールをぶつけました。友達失格です!

 クロエは僕の友達です。クロエの蹴ったボールは僕にぶつかりませんでした。シャルロットはどうしたら僕の友達になってくれますか?シャルロットは僕が嫌いですか!」


 そうわめきながら、ロボットは仰向けになり手足を上に上げてジタバタさせた。それをシャルロットは冷ややかな目でしか見られなかった。ロボットがひっくり返った巨大な虫にしか見えない。


「ごめん、あとはクロエに頼むわ。私だってひっくり返りたい気分よ」


 クロエはシャルロットが言い返す元気を失っていると知り、気の毒に思ってうなずいた。ロボットを説得するのには時間がかかって、その日フットボールの練習が再開されることはなかった。

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