約束
クロエの生き生きとした瞳とは対照的にシャルロットはいぶかしげに眉をひそめた。もしかしたら、さっき脇道の入り口ですれ違った薄汚れた気味の悪い男がジャミールなのではないかと思ったのだ。
ロボットの話だとここはジャミールの所有地で、他人が入ってくることはほとんどない。だとすれば、屋敷に続く1本道から出てきた人物がジャミールである確率は高い。もちろん違う可能性もあるが。
「ジャミールは優しいのですね。インプットします」
ロボットは目を赤と青に点滅させ、彼の頭部からはシューッとモーター音が聞こえた。クロエは「はっ」と何かを思いついた。シャルロットは嫌な予感にさいなまれた。
「今からジャミールに会えないかしら?」
「無理です。ジャミールは食料の買い出しに出かけています。いつも買い出しから帰るのは夕暮れです。今は屋敷にはいません」
ロボットは相変わらず淡々とした口調で答えた。シャルロットは予想が当たって、あからさまに顔を歪めたが、あいにく誰もその顔を見なかった。そして、クロエも勘づいたようだ。
「あら!もしかしてさっき森ですれ違った紳士がジャミールだったのかしら?えっと……小さな……重たそうな荷車を辛そうに……一生懸命に引いていたわ。ちょっと体が弱そう……華奢で質素な……動きやすそうな服装をしていた人ね。
でも少し意外だわ。私の想像するジャミールは、ほうきに乗ったオオカミ男だったわ……まあいいわ。私の想像力が乏しかったということね。彼の帰りは遅いのね。出直すわ。明日ジャミールに挨拶しに屋敷にうかがってもいいかしら?未来の親友、リチャードにも会いたいし……」
クロエは「じゃあ、今日は帰りましょ。続きは明日よ!」とシャルロットの腕を取った。
シャルロットはジャミールの姿を思い出して、明日来るのはあまり乗り気ではなかったが、期待に満ちたクロエの瞳に気圧されて「うん」とうなずいていた。
「わかりました。クロエとシャルロットが明日ジャミールに挨拶しに屋敷に来ます。ジャミールにそう伝えておきます」
そう言いながらロボットは釣り竿を引き上げて、糸の先の重りを眺めた。そしてバランスを取りながら立ち上がり、桶をつかんで、
「今日の釣りが完了しました。僕は屋敷に帰ります」
と、川にむかって言った。彼は「クロエ、シャルロット。ではまた明日」と2人に挨拶して、長い竿を左手で引きずり、右手では水がたっぷり入ったままの桶を引きずり、ふらつきながら水を零しつつ屋敷のほうに歩き出した。
シャルロットはそれを見て、ロボットにツッコミたい気持ちと戦いながらどうにか抑えた。
クロエは「リチャード、また明日ね!」と気にすることなく笑顔で手を振った。ロボットが手を振り返そうとすると、桶がボトンと地面に転がり、水が全部流れた。




