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魔男

「えっと……なんだったかしら?ジャム?うーん、違うわ。シャガール?これでもないわね。ジャ、ジャ……ジャミールって誰だと思う?」


 すっかり慣れた道を2人で歩いていると、クロエが2つに結った髪を弾ませながら、シャルロットに唐突な質問をした。シャルロットはそれが今まで聞いたこともない名前だったので、眉をひそめた。


「ジャミール?でいいのかしら?私の周りにはそんな名前の人はいないわよ」


 彼女はあまり考えないで答えた。クロエはときどき、彼女の創作した人物の話題を持ち出す。いちいち付き合っていたらきりが無い。

 しかしクロエはシャルロットの返答を聞いても、まだ首をかしげて考えているようだ。


「昨日、リチャードがジャミールという人物に謝っていたの。それから別れ際にジャミールのもとへ帰るとも言っていたわ。


 何者かしら?リチャードは創造主がどうのこうのとも言っていたけど、同一人物だったりするのかしら?


 あ、もしかしてリビングデッド……黒い影の正体なのかも?うーん、謎は膨らむばかりだわ。素敵ね、想像が膨らむわ!」


 そう言いながらクロエはシャルロットの顔を見てにんまりした。彼女の瞳は期待に満ちていた。シャルロットはロボットがその名前を出したということに反応した。黒い影の正体が気になっていたからでもある。


「黒い影がジャミール?ロボット……リチャードが名前を呼んだなら可能性はあるわね。でもあの屋敷にいるのがリチャードと黒い影だけとは限らないわ」


 クロエの瞳がさらに輝きを増し、きょろきょろと眼球が動いた。


「そのとおりよ!ジャミールが黒い影とは限らないし、ひょっとしたら小人や妖精の名前かもしれないわ!


 だってあのお屋敷には私たちの知らない現実があるのよ!ということは私たちが知っているモンスターよりも恐ろしいものがいるかもね。


 事実は小説よりも奇なり、って言うしね……私最近ようやく現実世界のおもしろさに気づいたところよ。今まで空想の中だけで生きてきたことを残念に思うわ」


 クロエはシャルロットに口を挟む機会を与えないほどの早口でしゃべり続けた。シャルロットは「今でもあなたは空想の中の住人じゃないの」と思いながらも、クロエの話が途切れないので、黙ってそのまま歩を進めることにした。




「何かいるわ!」


 屋敷へと続く脇道に入ったところで、2人は道の向かいから何かがやってくる気配を感じた。木々に隠れて暗い道の先に何かが動いているのが見えたのだ。動物だろうか。

 彼女たちは道を外れて、森林の中へ入り、背の低い灌木かんぼくに隠れて息を潜めた。それはゆっくりと、しかし真っ直ぐに小道を進み、少女たちの隠れている灌木の近くまでやってきた。


 彼女たちが木陰から覗くと、その正体は荷車を引く男だった。裾の破れた真っ黒のズボンを履き、シミだらけの汚いシャツを着て、細く弱々しい体つきで、表情はやつれて暗かった。彼には小さな荷車を引くのも辛そうだ。


「この道は屋敷への一本道よね?」


 シャルロットは男が小道を通り過ぎ、見えなくなったことを確認してからクロエに尋ねた。


「彼は魔女……いいえ魔男よ!あの表情……間違いないわ!きっとお屋敷に住んでる魔男なんだわ!」


 クロエはわくわくで妄想が膨らんで仕方がない。シャルロットが、


「彼が魔法使いなら荷車を引く必要ないんじゃない?」


と尋ねてもクロエはまだ妄想の世界に浸りきって、


「魔法使いだって荷車を引きたいときがあるはずよ。人は自分にないものに憧れるもの!」


と答えたので、シャルロットはこの状態のクロエにまともな質問をぶつけることを諦めた。


「答えは明確にしないときのほうが素敵なこともあるわ。そこには想像の入り込む余地がたくさんあるもの」


と、その後もクロエはシャルロットの後ろを1人で楽しそうに歩いた。




 少女たちが屋敷に着くと、ちょうどロボットが屋敷から出てきたところだった。彼はまた空の桶をずるずると引きずり、右手には昨日とは違う木の竿を持っていた。


 少女たちは運良くロボットが釣りに出かけるタイミングで、それを目撃することができたのだ。彼女たちは当たり前のようにロボットの後を追った。



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