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帰宅

「おばあさま、今帰ったわ」


 シャルロットと笑顔で別れた後、今日の出来事を頭の中で何度も思い返しながらクロエは自宅のドアを開いた。キッチンで夕食の支度をしていたキャロラインはクロエが思いのほか早く帰ってきたことに驚いて手を止めた。


 クロエは廊下を通り抜け、キッチンに真っ直ぐ向かってきた。キッチンの灯りがついていたからだ。キッチンを開けてすぐにクロエは「おばあさま、この花を見て」と青い花をキャロラインに差し出した。


「どうしたの?今日は門限を守ったうえにプレゼントまでしてくれるの?」


 キャロラインは料理の支度を中断して、桶で手を洗って笑顔で花を受け取った。しかし、クロエは浮かない表情をしている。


「いいえ。おばあさまはこの花を差し出されてどう思った?美しいと思った?幸せな気持ちになった?それとも私を傲慢ごうまんだと思った?」


「傲慢だなんてそんなこと思わないわ」


 キャロラインはクロエが思いつめた表情をしているので慌てて否定した。クロエは祖母の言葉には反応せずに続けた。


「この花は自分の部屋に飾りたいの。いいでしょう?」


 キャロラインは、クロエはいったいどうしたのかしら?と思いながらも「もちろんよ」とだけ答えた。クロエは少しだけ明るい表情を取り戻して、暖炉の上にあった古い花びんを取り、水を入れてしわしわになった青い花を活けた。


 それをキッチンのテーブルの上に置き、いつもの席に座った。キャロラインも吸い寄せられるように彼女の向かい側に座った。クロエは大きく深呼吸をしてから、今日のロボットとのやり取りをキャロラインに話した。


「それでね。スコティッシュ・リリィは花を摘む行為は悪だと断言したのよ。彼はロボットだけど、命を持っているわ。だって命の尊さを知っているもの。それにね、彼には自分の意志を伝える強さもあるの……素敵だわ……」


 話したいことを一方的に話し終えて満足したのか、クロエはキャロラインを見つめて微笑んだ。キャロラインも孫娘に笑顔を向けた。ただし彼女の笑顔はクロエとは少し性質が違って、やさしくすべてを受け入れるようなものだった。


 その後もクロエは話が尽きず、思いつきで何でも話したが、キャロラインはゆっくりと相づちを打ちながら聞き続けた。


「ねえ、おばあさま。なんだかんだ今日はとても素敵な1日だったわ。だって私にはいつでも味方でいてくれるおばあさまがいるんですもの。これ以上の幸せなんてきっとどこにもない。今日は最高の1日よ!」


 そう言ってクロエは髪をポニーテールに結っていたリボンを外した。ゆるくカールしたたっぷりの髪が彼女の視界に覆い被さった。


「クロエの最高の1日は毎日更新されるのね、素敵だわ」


 キャロラインはいたずらに微笑んで、髪おばけになっているクロエを見た。


「ええ、もちろん、昨日より今日、今日より明日が素晴らしいのは当たり前のことよ。でも今日はもう上限だわ!神様もそこまでお人よしじゃないわ」


 クロエは目にかかっている髪を、顔をぶんぶんと振ってほどいた。視界が開けると、キャロラインが食器棚の引き出しから何か取り出すのが見えた。


「じゃあ、これは明日にしようかしら?」




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