【陰キャと王子】 振られて傷心の男の子が女心を学ぶために女装してメイドカフェで働きます。そこで一目惚れした超絶美少女はなんと……
久しぶりの短編です。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
「うぇー。キモ。あたしがなんでアンタなんかとつきあわないといけないの? その前に鏡みたら? アンタなんかとあたしが釣り合う訳ないじゃん。夢は寝てみろよ」
僕はなけなしの一生分の勇気をだして、マリアさんを屋上に呼び出した。そして、震える体を気合いで押さえつけ、『好きです。付き合って下さい』って言った結果がこれだ。鏡見たらは酷い。確かに僕は地味だけど。
そして、僕を振り返る事無く彼女は去っていく。
お淑やかそうでなサラサラの黒いストレートヘア。優しそうで澄んだ凛とした目。全てが僕のタイプだった。クラスの女子で、マリアさんだけが僕に挨拶を返してくれる。だから、もしかしたら、もしかしたら彼女は僕の事を少しは受け入れてくれるかもと思ってたけど、それは打ち砕かれた。
いっその事屋上から飛び降りようかなとかも思ったけど、僕にはそんな度胸が無い。
僕はそれから何をしたのか分からないほどぼんやりしてて、気がつくと家の自分の部屋にいた。どうやって帰ったのかも覚えてない。
「カルア、ちょっと実験台になって」
ノックもせずに部屋に入って来たのはカシス。僕の双子の姉だ。姉は僕と違う学校、メイクの学校に行ってる。僕とは違って明るく可愛らしくてどこでもすぐに誰とも仲良くなる。いつも僕をメイクの実験台にしようとするのだけど、男のプライドで逃げている。けど、今日はなんもしたくないし、抵抗するのも億劫だ。
「いいよ。好きにして……」
「じゃ、遠慮なく」
ニカッと笑うとカシスは自分の部屋から化粧品やなんやらを持ってきて僕の顔をいじり始める。なんか、目を閉じれだの、開けろだのうるさいし、顔がこそばゆいけど、どーでもいい。ああマリアさん……
「あんた、ため息ばっかついて、そんなんだからモテないのよ。シャキッとしなよシャキッと」
なんかこれにはイラッときた。
「うるせーよ。カシスに何がわかるんだよ」
「よくわかるわよ。あんた女心ってのが全くわかってないから。そんなんじゃ一生独身よ」
「うるせーよ」
髪の毛をまとめられて、カツラを被せられる。
「目ーあけて」
僕は目を開けてカシスを見る。腹立つ事に可愛いな。姉じゃなかったらドキドキだ。ん、なんだ、僕の方見て目を見開いて。男が化粧したら問答無用で化け物みたいな顔になる。そんなに面白い顔になってるのか?
カシスが無言で僕に鏡を向ける。
えっ?
誰これ?
僕は頬をつまむ。見たことも無いような美少女が鏡の中で頬をつまむ。
「なんじゃこりゃーーーーっ!」
ついつい叫んじまった。桃色のフワフワな髪の毛。垂れ目がちでパッチリした目。透き通るような白い肌。僕なのか?
確かに僕は小柄で線が細い。それに全体的に顔立ちが地味だけど、目を二重にして色々パーツを強調しただけでこんなにも化けるとは……
「大きい声ださない!」
「はい」
「あんたもっと高い声だせる?」
「高い声?」
言われた通りにちょっと声のトーンを上げてみる。
「もっと」
「ん、こんなもん?」
「んー、こんなものかしら? 言ってみて」
「んー、こんなものかしら? なんでそんなこと言わせるんだ?」
「そりゃ、あんたに女心わからせるためよ。その顔であたしの服を着たら、悔しいけどあたしより可愛いわ。それで完璧な女の子を演じて女心を学ぶのよ」
「そんなんで、学べるのか?」
「ダメ。そんなので学べるのかしら?」
なんか訳が分かんないけど、それから僕はカシスから女の子講座を受け続けた。僕の大好きな漫画のヒロインをイメージし始めたら、なんとか上手くいき始めた。
◇◇◇◇◇
「お帰りなさいませ。ご主人様」
僕は最高の笑顔でご主人様を出迎える。今のご主人様は小柄で髪の毛が薄いけど、とっても優しい人だ。
「いつもミルク殿の笑顔は最高でゴザルな」
「ありがとうございますっ!」
僕は常連のおじさんを席に案内する。
ここは「喫茶ミラージュ」、俗に言うメイドカフェ。ロココ調という装飾華美な店内で見目麗しいメイドさんが働いている。カシスがやたら僕に変な事するなと思ったら、ここに無理矢理連れて来られて働かされる事になった。オーナーが知り合いらしく、バイトに怪我で欠員が出てカシスはヘルプを頼まれたそうだ。カシスはこの手のヒラヒラした服は苦手という事で僕が生贄に捧げられた。厳しい面接があるそうだったけど、一発で採用された。男なのに。
始めは恥ずかしくて恥ずかしくて仕方なかったけど、慣れって恐ろしい。チヤホヤされる事もあって、なんか僕はここのバイトが気に入り始めている。男なのに。
『カラン、コロン』
入り口の鐘が鳴り、新たなお客様が入って来る。あ、女の子一人? 珍しいな。他のメイドさんは手が離せないみたいで僕が応対に行く。
「お帰りなさいませ。お嬢様」
「まじか、本当にお帰りなさいませって言うんだな」
ハスキーな低めの声。けど、僕はその顔を見て心臓が止まるかと思った。帽子からこぼれるプラチナブロンドのサラサラな髪の毛、見たこと無いけどエメラルドみたいなグリーンの瞳。真っ白な肌に凛としたスッとした顔立ち。整った目と鼻。うちのメイドさんにはエルフさんもいるけど、それ以上に美しい。
僕たちはしばらく見つめ合う。
「ミルクちゃん、大丈夫ーっ?」
先輩に言われてやっと我にかえる。
「こちらのお席にどーぞ」
僕は女の子を席に案内する。マリアさんの事好きだと思ってたけど、それは優しくされてると思ってたから。これがまさしく恋、一目惚れ。一目惚れって僕には関係ない都市伝説だと思ってたのに確かに存在したんだ……
◇◇◇◇◇
「なんだこりゃ?」
俺は倉庫の隅で古ぼけたネックレスを見つけた。それのチャームは記号の♂♀が絡んだ形をしている。ここにあるって事は何かの魔道具だろう。呪われたものじゃないな。取り敢えず付けてみるか。
「うぐっ、うががががっ」
まじか呪いの品だったのか? 心臓が鼓動が痛い程早い。
「ふぅーっ」
すぐに落ち着くが、体がおかしい。なんか服がブカブカだし視線が低くなった。
「大丈夫か? アントニー」
部屋の外からガイルの声がする。
「何でも無い」
声がおかしい。いつもより高い。なんなんだ。そばにあった古ぼけた鏡を見て俺は絶句する。そこには見た事が無い美少女がいた。
そして、検証した結果俺が首にかけたネックレスは付けると性別が変わるものと言う事が分かった。けど、これで護衛無しで街を歩ける。まあ、マジックボックスに着替えを入れとけばどこででも変身できるしな。妹の服を無断拝借して俺は嬉々として街へと繰り出した。俺の実力ならバレずに城を抜け出すなんて楽勝だ。
「んー、メイドカフェか……」
ガラス張りの店内を見て俺の体に衝撃が走る。め、女神! 女の子を女神とか妖精って言う奴は頭イカれてんだろって思ってたけど、居るんだな。妖精や女神にしか見えない女の子って。俺はフラフラと生まれて始めてのメイドカフェへと吸い込まれて行った。
◇◇◇◇◇
「ご注文お決まりですかっ!」
ミルクことカルアはメニューから女の子の顔が上がるや否や食い気味に話しかける。
(絶対。絶対に名前くらいは聞いてみせる)
「ブラックコーヒー」
アントニーは震えかける声をなんとか押さえつける。
(やっべー、可愛い過ぎる。天元突破しすぎだろ。ミルクって呼ばれてたよな。肌真っ白だし似合い過ぎな名前だろ)
「お嬢様、こちらにはよくいらっしゃるんですか」
少しでも情報収集しようと、ミルクは勇気を振り絞って話しかける。
「いや、初めてだ」
言い寄る女性も多いアントニーだけど、意識しすぎてガチガチで言葉も覚束ない。
(なんとかして、名前だけでも聞かないと)
ミルクは勇気を振り絞る。
「おっ、お名前、何て言うんですか?」
「えっ、俺っ、私、な、名前? アント」
(やばっ、今、俺、女だった。何とか口滑らさなかったけど、『アント』って名前はねーよ。蟻って意味だよな。そーだな)
「『アン』と言う名前だ」
(何とか誤魔化せたな)
「アンさんってお名前ですのね。いい名前ですね。覚えましたわ。ありがとうございます」
ミルクは花がバックに咲くような笑顔になる。作りものじゃなく本物の笑顔にアンも笑顔になる。
お互いに微笑む美少女二人。まるで絵画のようなワンシーンに店内のメイドもお客さんも注目している。
けど、中身はクラス一の陰キャとクラス一女子の人気を集める王子様。
二人の恋の行く末は神のみぞ知る。
fin
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