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第51話 闇に包まれた決勝戦

 闇のスキルを持つ人がいると、幼い頃に母親から聞いた。母親っていうのは、この世界で俺を育ててくれた母親のことだ。


 言い伝えでは、昔この世界にはたくさんの闇のスキルを持つ人たちがいた。


 それ自体悪いことではなかったらしい。

 そういう人たちも、普通の一般国民とともに生活していた。


 だがあるとき──今からちょうど200年くらい前、闇のスキルを持つひとりの青年が、闇のスキルの中の本来の性質である、他を力でねじ伏せ、自分だけの世界を作る、というものに目覚めてしまった。

 それから他にも多くの闇のスキルの持ち主が、その野生の性質を目覚めさせたことで、世界は混乱に陥った。


 それから王国の政策で、この学園のように闇の勢力と戦うための戦士の強化が進み、70年前にその勢力を打ち倒し、今のような比較的明るい生活が取り戻されたそうだ。


「ジャック、あなたは最高の戦士になって、また闇の勢力が暴れたりしないように、王国を守ってちょうだいね」


 優しい母親の腕の中にくるまりながら、そう言われた。



 ***



 そして今、俺は──俺たちはみんな、この闇のスキルを目にしている。

 準決勝、ブレイズ対ルミナスの戦い。


 ブレイズは強化された、俺の最高質力の3倍はあるだろう炎を放ち、会場を沸かせる。


 が、ルミナスには一切効いてなかった。

 暗い漆黒のオーラをまといながら、狂気の微笑みでブレイズを見下している。


 そして……正体不明の闇の力が、ブレイズの全身を包み、蝕み始めた。あまりの苦しみに耐えきれず、あのブレイズがもがき叫んでいる。どんなときも熱く、諦めの悪いあのブレイズが、もうやめてくれ、と言うように涙を流していた。


 その涙が俺にとってどんな意味を持つのか。


 強烈な怒り。

 俺の頭の中にはそれしかなかった。


 あの闇の力、絶対にあの包帯男が関係している。

 観客席は戦場よりも少し上に設置されている。だが、俺は居ても立ってもいられなくなっていた。友達のブレイズを苦しめる拷問、彼の苦しみ叫ぶ声に、我慢できなかった。


「やめろ!」


 そう言って、観客席の手すりを飛び越える。

 そのまま10メートルくらい下の戦場に着地した。


 ブレイズの叫び声がさらに大きく聞こえる。


 観客からも悲鳴が上がっていた。これは闇の勢力による、王国への侵攻だ、なんて騒ぐ人たちもいた。

 絶望して闘技場から出ようとしている親子もいた。


 先生たちでさえ、あまりの恐ろしさに固まっている。

 タイフーン先生やサンダー生徒会長の実況解説も、ぴたりと中断した。そしてふたりとも、恐怖の顔をしている。

 俺は怯えるどこじゃなかった。そんな余裕はなかった。


 むしろ、この怒りを抑えることができなかった。


「ルミナス!」


 やつの方に飛びかかり、強烈なパンチをお見舞いする。

 なんて、うまくはいかなかった。


 拳はよけられ、俺の方が強烈なパンチをくらう。


 なんでこんな威力が──。

 気づけば地面に倒れていた。血が……俺の口から赤い血が……。


 戦いに負けて血を吐いたことなんてない。鉄の味がする。これが敗北の味なのか……。


「そうか、無能のジャック。これが君の、転生者として授かった力なのか?」


 転生者──なんでそんなことまで知っている?


「せっかくだから、これが決勝だ。会場の皆様、ご注目ください! 僕とジャックの戦い──決勝戦が今から始まります!」


 こいつ……。

 会場が一気に静まり返った。誰もそんな気分ではなさそうだ。


 絶望した目が、俺とブレイズを見ている。何も抵抗することはできない。別にルミナスが不正しているわけでもない。やっていることは最悪だが、スキルの範疇なのであれば、試合は続行される。


 簡単に試合が中断されることなんてない。

 たとえ苦しもうと、伝統あるベストウォーリアートーナメントの決勝戦だ。


「立て、ジャック。君が立ってくれないと戦いにならない。僕が勝って君なんかよりもずっと強いってこと、王国中に知らしめないといけないからさ」


 やっぱり、性格最悪だな、こいつ。

 俺を怒らせる方法をよく知ってるじゃないか。面白い。なら、俺はここでこいつに勝って、優勝するしかない。


 痛みに耐えながら立ち上がり、氷の壁を作る。

 ルミナスの周囲を氷で包み込み、動きを封じた。その間に、ハローちゃんとの戦いで使った地震のスキルを準備する。


「残念!」


 ルミナスの声が聞こえた。

 それも、隣で、だ。


「僕はこのスキルのおかげで物質をすり抜けることができるんだよ」


 俺の全身に紫のもやがまとわりついた。

 ブレイズにも使っていたこの攻撃……もしかして……拷問か。


 今までに味わったことのない、激しい苦しみ。

 1000キロを全力で走らされたあげく、ナイフで心臓を滅多刺しにされている。希望に向かっていて歩いていたかと思えば、何も光が見えなくなって絶望の淵に立つ。楽しいことなんてない。そこにはただ苦しみが待っているだけ。


「ずいぶんと苦しんでるじゃないか」


 このとき叫んでいたとか、泣いていたとか──自分では何もわからない。

 記憶がなくなるほど辛いのに、意識ははっきりしていた。地獄の時間だ。


「あの方に君を殺してもらおうと思っていたよ。でも、今気づいた。やっぱりここで、僕が君を殺す。最後まで苦しむ姿を見ながらね」


 ああ、俺はもうここで、死ぬんだ……。

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