第45話 おめぇに勝つことがすべてだ!(ブレイズside)
この本戦が始まる2日前、オレはあいつに談話室に呼び出された。
ずっとあいつに負けないために練習を重ねてきた。
誰にも練習を見せず、本戦であっと驚かせてやるつもりだ。
オレの炎が、そもそも火力でジャックに負けていたこと。
それは認める。
同じ系統のスキルを持ってるからこそ、オレのあいつに対するライバル心はでかかった。絶対に、あいつより強力な炎をぶっ放して、優勝してやる。圧倒的な差をつけて。
「ブレイズ、座ってくれ」
談話室にはオレたち以外誰もいない。
こんな夜遅くまで起きて練習してるやつは、オレとジャックだけか。
おもしれーじゃねーか。
「で、なんの用だ? オレは忙しいんだ、早く言え」
ジャックはもたもたしてた。
焦らすのもいい加減にしろ。
「俺の秘密を話したいと思う」
「……あ?」
秘密。
オレにとってどーでもいいことだったら、すぐにシバく。
どんな秘密だろうが、こいつのことはこいつの問題──オレに関係があることでもない。
「実はこのスキル、女神からの貰い物なんだ」
「……おい! ふざけたこと言ってんじゃ──」
ここで思った。
こいつがそんな冗談を言うようなやつじゃないことは知ってる。
あり得ねー話だが……ジャックがそう言うってんなら、本当だ。
「で、だからなんだ?」
「信じてくれるのか?」
「疑う理由がねーだろーが! で、何が言いたい?」
「俺は前世で死んで、この世界に転生してきた。そのときにスキル『適応』をもらったんだ──」
それからぐだぐだと、自分は転生してなんのかんの話し出した。
こいつの言ってることはバカげてる。
嘘じゃない。
本気の目だ。で、オレに信じてもらえないんじゃないか、って顔をしてやがる。
確かにスキルのことについては納得がいった。
だけどな──。
「おめぇが転生者だろうと、そのスキルが貰いもんだろうと、オレにはどーでもいい。いいか、大事なのは今の実力だろうが、ボケ。おめぇはオレより強い。オレは前回おめぇに負けた。だから次のトーナメントで、貰いもんのスキルを持つおめぇを叩き潰す」
しばらくジャックは何も言わなかった。
オレに秘密を言って満足か? あ?
「ありがとう」
「あ? オレは感謝なんか──」
「本戦では絶対、決勝で戦おう」
ずっと知ってた。
ジャックの実力の高さを、誰よりも高い壁だってことを。
ジャックの目は熱い。
メラメラたぎる闘志──戦いってのはそういうもんだ。
「準決勝とかで落ちんな、ジャック」
***
ジャックは絶対に決勝に残ってくる。
オレが勝つための細かい戦略なんてない。
攻める。何があっても攻撃する。相手に考える隙を与えず、降参するまで痛めつける。
それが戦士の戦い方だ。
1回戦目の相手は他クラスのモブ。
髪の毛まで焦がして、泣かせてやった。
それからはモブどもとの戦いが続き、オレは攻撃戦法で勝ち続けた。
これだけ攻撃していかないと、ジャックを圧倒するなんてできねぇ。呼吸を整える隙さえも与えない。
オレが優勝する。
それだけだ。ジャックと決勝で戦い、そしてオレが勝つ。
それしか眼中にないオレにとって、ジャック以外のやつとの戦いは、モブとの戦いでしかない。
「なんとなんと、エリートクラスのブレイズ・バーニングが一気に来ましたー! 準々決勝進出! すっごーい!」
実況はまた、あのうるさいアホ生徒会長。
オレが出てるのはもちろん1年部門。
それを考えればエリートクラスの生徒が上位に行くのは当然だ。
準々決勝のリストには見覚えのある名前ばかり。
オレの対戦相手は……。
「きみか、次の相手は」
冷めたような、熱のない声が聞こえた。
オレはこの声が大嫌いだ。
熱を冷ますような生ぬるい声──フロスト・ブリザード。
炎のオレとは正反対なやつだ。
相性は最悪。
あいつはジャックに対してだけヘラヘラしてるらしいが、オレには氷の態度。
「おい、おめぇなんだその目は? あ? 燃やされたいか?」
「きみとの掛け合いに付き合ってられないね」
軽蔑の目を向けて、フロストが立ち去っていく。
殴りかかろうかとも思った。
あんなやつ、最高火力で燃やして灰にしてやる。
が結局、次の準々決勝で実力の差を見せつければいいだけだ。
見とけよ、ジャック。
進化したオレの炎、目に焼きつけてやる。