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第31話 ハローちゃんの涙

 イーグルアイ先生とタイフーン先生。

 ふたりは俺が転生者であることを知っていた。そして、3年前にも、同じ世界からここに来た転生者がいる、と。


「転生者の秘密については、我々のみぞ知る、トップシークレット。学園長にもお伝えしていない秘密だ」


「分析眼を持ってるブレインはすぐに前の転生者の異常に気づいた。他の生徒とはスキルの容量がまるで違う、と。それでボクも、なんとか聞き出して、彼が転生者であることを突き止めた」


 ふたりの顔はつらそうだ。

 

「だけど、ちょうど彼が2年生の夏、大きな力に体を蝕まれ、そのまま亡くなった」


「亡くなった?」


「でも遺体はまだ見つかってないんだ。体がぼろぼろのまま、川に飛び込んで流されていったからね」


 ふたりの表情からしてそれは真実だろう。

 なんとも言えなかった。


 女神にそんなことを聞いてはいない。


 大きな力に蝕まれた?

 俺も、これからそうやって死んでいくって言いたいのか?


「吾輩もできる限りの検索能力で転生者について詳しく調べた。なんせ別の世界から来た、いわゆる異世界人。この世界での検索では、その転生者というものにある使命があることまでしか突き止めることができなかった」


「使命?」


 もしかしたら死ぬかもしれない。

 そう脅しておきながら、俺に使命があるだと? こっちの気持ちも考えてほしい。


「この世界に潜む悪──邪悪な力を阻止することだ。黒魔術のソーサリーによれば、その力はこの学園にもじわじわと迫ってきている。そこで──」


「まあまあ、落ち着いて、ブレイン。ジャックくんをこれ以上困惑させるわけにはいかない。話はまた今度にしよう。お互い、考えをまとめる時間が必要だ」


「タイフーン先生……」


 少なくとも、これ以上は何も言われなかった。

 タイフーン先生なりの気遣いだろう。


 また何週間後かに呼ぶ、とだけ言って、俺を部屋から出した。


「すまないね、ジャックくん」



 ***



 部屋を出ても、俺の気分はさらに落ち込むばかりだった。


 俺はこの世界でも死ぬ。

 それも、もうすぐ。


 前回の転生者と同じ終わり方をするかどうかはわからない。

 だが、与えられた強大な力に蝕まれた、ということは、俺の体にもその現象が起こり得る可能性──いや、起こっている可能性は高い。


 昼休み開けの5時間目の授業は終わろうとしていた。


 これから授業に向かっても、気持ちが落ち着かないだろう。


 俺はそのまま自分の寮の部屋に戻った。

 もちろん、他の生徒たちはみんな授業に行っているので、寮には誰もいないはずだが……。


「ねね、ジャックくん。なんでさっきは授業をサボったの?」


 ハローちゃんがいる。


 そもそも、なんで男子寮にいるんだ?

 そして、授業はどうした?


「あたしね、ジャックくんが来てなかったから、心配になって来たんだよ。先生にはだめって言われたけど、いいかなーって」


 いや、それなら無理に来る必要はなかっただろ。

 心配してくれたのは嬉しいが、俺のせいで彼女の成績を落としてしまうわけにはいかない。


 ただでさえ、ハローちゃんは座学の成績がクラス最下位というのに。


 実技の成績もさほど高いわけじゃない。


 だが、俺にはなんとなくわかっていた。

 ゲイルにも聞いた話だが、ハローちゃんは俺のことが好きらしい。


「俺は大丈夫。少し休みたかったんだ。もうすぐ授業にも行くから」


「疲れてるの? どうして?」


「それは……いろいろあって」


「いろいろ? 授業サボってるときに、どんなことしてたの?」


 気になるのはわかる。

 だが、俺のプライバシーに踏み込み過ぎてるんじゃないか? もう少し距離感を持ってほしいのが本音だ。


 ハローちゃんは誰にでも気になったことをズカズカ聞いていくタイプ。


 だが、最近は俺とかゲイルくらいしか話しかけているようには思えない。


 いつもひとりでいて、女子の友達と話したり一緒にいたりするような姿は見たことがなかった。


「ハローちゃん、俺──」


「ちょっと待って……」


 俺が、いろいろ忙しくて、と言おうとしたとき、急に慌ててハローちゃんが止めた。


 声は震えている。

 金色の目には涙が溜まっていた。


 ……。


 俺、ハローちゃんを泣かせるようなことはしてないぞ。


「しつこい、って思ってるよね……あたしが、なんでもかんでも気になったら聞くから……」


「俺は別に──」


「ごめんなさい」


「え?」


 溜まっていた涙がこぼれだした。

 ぽろぽろと、収まる様子はなさそうだ。


 突然のことだったから、俺は何もしてあげることができず、固まっていた。


「あたしね、ほんとはいっぱい友達が欲しいの……でもね、友達になってもあたしがしつこくて、すぐに話しかけてくれなくなる……だから、悲しくて話しかけると、またしつこいって思われて……」


「確かに、ハローちゃんはしつこいよ」


「ごめんなさい……ジャックくんにまで──好きな人にまで……」


「それがいいんじゃないか?」


「……え?」


 ハローちゃんの涙が止まった。


「ハローちゃんは明るいし、知りたがり──それは個性だ。みんながどう思ってるかは知らないが、俺はハローちゃんの明るい笑顔にいつも元気をもらってる」


「ジャックくん……」


 また涙が──。


 と思えば、いきなりハローちゃんが俺に抱きついてきた。


 !!!


 俺、そういうのには慣れてないんだが!


「大好きだよ、ジャックくん」


 ゲイル、この言葉をまた使わせてもらうとは。

 オーマイガー。


 リリーの次は、ハローちゃんか……。

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