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第29話 付き合って

「あのね、リリー、ジャックくんのことが好き」


「……」


 リリーの顔はトマトみたいに真っ赤になっていた。

 きっと俺の顔も赤くなってるだろう。


 なんと答えればいいんだ?


 こんな経験はない。

 

「その……もしよかったらでいいんだけど……付き合ってくれない、かな?」


 なぜ俺はリリーに告白されているのか、って?

 それは少し前にさかのぼる。ちょうどアクロバットダンスのクラス代表オーディションが終わったあとだった。


 ***


 

 代表に決まったのはゲイルとハローちゃんのペア。

 ふたりはきっと、俺たちよりもはるかに練習を重ね、はるかに大きい気持ちを持って、この選考会に臨んでいたんだろう。


 俺はこの結果に満足だった。


 ちらっとフロストの方を見ると、彼も同じことを思っているような気がした。

 

「話が違うじゃねーか! おい! ただで済むと思うな!」


 ブレイズの怒鳴り声が聞こえてくる。

 確かに俺は有言実行できなかった。自分の言ったことを守れなかった──それは悔しい。


 だが、はっきりと言おう。

 ゲイルが代表になれたことに対して、悔しさは何もない。


 当然の結果だ。

 俺たちの完敗だ。


「今年のエリートクラスはすごーい! せんせー、おいらももっと関わりたいー。お願いしますよー」


 生徒会長は相変わらずだった。

 タイフーン先生と話している。


「正直、彼らはボクの期待を超えてきたさ。ボクを圧倒できるだけの風を、すでに持ってたんだ」


「ウィンド、もうすぐ鐘が鳴る」


 会話に熱中するふたりを、イーグルアイ先生が止める。


 もう授業がちょうど終わるであろう時間だった。

 演技していた時間はたったの3分だったのに、俺の体感では1時間くらい。結果発表にいたっては5時間くらいかと思っていた。

 

 まだ授業すら終わっていなかったことに驚いている。


「よし、今日素晴らしい演技を見せてくれた6人、そして、それをしっかりと目に焼きつけた9人。ここからのスタートだ。なんといっても、本戦の練習がキミたちを待ってるからね」


 タイフーン先生が微笑んだ。

 緊張の糸はほどけ、すっかりリラックスしている。


「本戦の練習は毎年壮絶で、必ず泣き出して授業を放棄する生徒まで出る。それだけ大変だけど、それだからこそ、本戦のベストウォーリアートーナメントは特別なんだ。心して臨むように!」


「はい!」


 威勢のいい、エリートクラスの声が響いた。


「いい風だ」


 そうして、次へのモチベーションも最高潮に達し、本戦こそは絶対に優勝しよう、と心に決めた。


 ところまでは普通の流れだったのだが──。


「ジャックくん……今日の昼休み、あの部屋に来て」


「リリー……」



 ***



 そうして今にいたる。

 ちなみに、リリーの言った「あの部屋」というのは、一緒にアクロバットダンスの練習をした第3訓練室のことだ。


 またふたりきり。


 練習のときはだんだん慣れて緊張したり、変に意識したりすることもなくなっていた。

 だが、今はもうふたりで集まって練習する必要なんてない。


 ああやって練習をしてできた大きな接点が、失われようとしていた。


 もちろん、前夜祭では一緒に踊ることになるだろう。

 だが、代表以外は楽しみのひとつとなるだけで、特に練習する必要なんてない。

 

 だから、選考会が終わったことで俺たちはただの「席が隣のオトモダチ」に戻ったわけだ。


「……ジャックくんって、ほんとにすごいもん」


「え?」


 急に何を言い出すかと思えば。


「優しいし、強いし、頭もいいし……でもね、すっごく鈍感」


「俺が鈍感!?」


「うん。だって、リリーの気持ちに全然気づいてくれないんだもん。ずーっと気づいてもらえるように頑張ってたのに」


 リリーの頬が膨らむ。

 やっぱり可愛いのは変わらない。


 そして、ついにあの言葉を聞くことになる。


「あのね、リリー、ジャックくんのことが好き」


「……」

 

「その……もしよかったらでいいんだけど……付き合ってくれない、かな?」


 リリーの目には涙が溜まっている。

 フラれることを恐れてるのか? ただ、緊張してるだけ?


 こういうときの女子の心情はよくわからない。


 俺のスキルはそういうチート能力じゃないぞ。


 だが、これだけはわかっていた。

 ここでの俺のひとことが、今後の俺たちの関係性を決めることになる。俺がどう生きるか、リリーがどう生きるか。学園生活の中でも最も重要な決断だ。


 そして俺は──。


「俺も言わないといけないことがあるんだ」


 はっきりと目を見て、真剣な表情で。

 リリーの告白に返事をする前に、はっきりと伝えることがある。


 リリーは今にも泣きそうな目で俺を見つめていた。


「俺はずっと……リリーを──みんなを騙してた。力を持っておきながら、それを隠し、そして……せっかくリリーはそんな俺のことをかばってくれてたのに──」


「ううん、リリー、気にしてないもん。言えないことが、あったんだよね?」


 リリーは優しかった。


「ああ……だから今それを言いたい。俺は転生者なんだ」

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