プロローグ
過酷な弱肉強食の世界で狩人を生業とする一族の族長の長男が僕だ。次代を担う優秀な狩人を期待された僕には致命的な欠点があり、とにかく血が駄目だった。弟と妹達が優秀なことも相まって僕は一族の落ちこぼれだった。
特に一つ下の妹は群を抜いていた。勇敢で冷静、何より妹は幼いころから獣と心を通わせることが出来た。パートナーの獣と連携して狩りを行うその狩猟は一族史上初で神童と持てはやされた。僕はというと獣に触ることが出来ても殺生しようとする度に気絶していた。
両親の期待に応えたい、一族の役に立ちたい、弟と妹たちに格好いいところを見せたい。そんな気持ちがあるにもかかわらず現実は非情で、僕の努力は報われることはなかった。
当然、父は次の後継には妹を指名した。僕が生まれて12回目の生誕を迎えた翌日の事だった。
その日は集落から離れて人知れず泣いた。
妹が後継に指名されてすぐ僕は外の世界へ留学に出された。務めを果たせない事を責められる事を案じて、一族に縛られず生きていけるように王国にある学園に通わせることにしたそうだ。僕は鬱蒼とした気持ちを抱えながらも父の指示に従った。己のどうしようもなさを散々嘆いてなお、狩人以外の役割で一族に役立てる何かを求めたのだ。
あれから6年後、僕は学園を卒業した。王国に来てからは鍛冶、薬学を学んだ。故郷にはないものを考えた時、最も役に立つ技能だと判断したからだ。在籍中はギルドに所属して早数年、卒業前にはそれぞれの親方から及第点を貰うことが出来た。
これから帰郷に向けて出発するので返事は無用の旨を書いた手紙を大鷲に括り付けて飛ばす。獣を使役することが出来る妹のお陰で早馬を飛ばすよりも俄然速く連絡を取ることができるのだ。
向こうに手紙が届く頃には道程を半分は終えている事だろう。大きく羽ばたかせて旅立つコンドルを見届けると僕も後を追うように馬を走らせた。
それから数ヶ月後
故郷にたどり着いた僕を出迎えたのは
腐肉とそれを喰らう悪辣な獣だった