恋人に裏切られ、異世界召喚された社畜聖女。イケメンと結婚し王妃になるが、子どもが出来ないからと離縁され復讐を決意し、女神になる。
愛理は、玩具を企画製作するブラック企業に勤めている社畜だった。
職場でのパワハラやセクハラ、モラハラに耐えながら「結婚資金を貯めるまでは頑張ろう」と真面目に仕事をしていたが、ある時、婚約者が浮気をしていて結婚資金を使い込んでいたことを知ってしまう。
絶望した愛理は、会社を辞めて婚約を破棄し、新たな人生を送ろうとしたが、ストーカー化した元婚約者に刺されてしまう。
だが、刺された瞬間に眩い光が愛理を包む。
気がついたら、愛理は豪奢な宮殿にいたのだった。
「ようこそいらっしゃいました。聖女様」
愛理は聖女として異世界召喚をされてしまっていた。
元の世界に未練のない愛理は、愛を告げてくれた王と結婚することになる。
愛理は『愛情の女神』の聖女として、苦しみや憎しみの浄化に努めていた。
国は良くなり、たくさんの夫婦が生まれたが、愛理は妊娠しなかった。そのため、国王が愛妾をめとることになる。仕方がない、後継ぎが必要だからと愛理は我慢して受け入れる。役立たずのレッテルを貼られた愛理を、使用人たちまで見下すようになる。
だが、不妊は聖女と出会う前からの恋人と一緒になるために、国王が考えた策略によるものだった。
怒りが怒髪天をつき、愛理は女神として覚醒した。
愛理は知らなかったが、実は愛理は『愛情の女神』の後任だったのだ!
愛理は、自分の経験やキャリアの全てを掛けて、復讐を決意する。
召喚された聖女は、亡くなってから女神になるはずだった。
愛情を司る神を奉る神殿は、聖女がいなくなってから姿を変えてしまった。
本来なら寿命で天に召された聖女が愛情を司る女神と代替わりして後任に就くはずだった。
だが、王家の裏切りにより、寿命より遥か前に聖女は神になってしまった。
聖女は、王家に愛情と信頼を裏切られ、契約の神になった。
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『愛情の神の喪失と、契約の神の誕生』より抜粋
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聖女が天に召されてから、ある手順を踏まなければ結婚が成立しなくなった。
王家は始め、聖女を見下していたため、手順を無視して結婚していた。
だが、なぜか何年たっても、何人愛妾を召し抱えても、子どもができることはなかった。
契約の神の呪いと言われるが、定かではない。ただ、神は確かに存在していた。
「それでは、『婚姻の契約』を始めます。スイン公爵家のカイルとマルダー伯爵家のシャーロット。お互い、女神様に祈りを捧げてください」
神官の指示に従って、一組の男女が祭壇に進み出た。
祭壇の前に跪き、祈りを捧げると、胸の前で組んだ手の中に光が生まれ、何枚かのカードに変わった。
祭壇の上には、山になったカードがあり、二人はそれを挟んで、対面する。
まずはカイルのほうが、手札のカードをシャーロットに見せる。
「私の手札はこれだ!こちらの条件は『公爵夫人』でどうだ!」
「防御ですわ!『幼馴染の女と同居』していますわね!こちらの条件は『持参金なし』でいかがかしら」
「交渉カード『融資の要求』を配置し、『一目惚れ』で攻撃する」
「防御!『学生時代の女性遍歴』ですわ!こちらの手札による攻撃!『公爵家の裏帳簿』と『使用人の質の悪さ』のコンボにより、『公爵夫人』を破壊!山札から一枚引きますわ!『愛人との隠し子』により、『離縁』まで3ターンになりますわ!」
「なんだと!『謝罪』と『泣き落とし』と『色仕掛け』で『離縁』を回避する!」
「『泣き落とし』による権威の失墜により、場に出ている『使用人の質の悪さ』が悪化!『公爵家破滅』まで5ターンになりますわ!」
「くっ、条件『王位継承権』!」
「『公爵家破滅』の効果により、『王位継承権』を破壊します!」
シャーロットの宣言と共に、カイルのカードがすべて消え失せ、女性が光に包まれた。神官はそれを見て、終了宣言をする。
「勝負ありました!!この婚約は不成立です!!」
「そんな!……私はシャーロットを愛しているんだ!結婚したら、絶対に大切にする!だから」
「私と本当に結婚したければ、身辺整理をして出直してくるべきですわ!!」
晴れやかな顔で祭壇を後にするシャーロットと、絶望に蹲るカイルの姿を見届ける人は神官のみ。
神官は、この婚約についての記録を忘れないよう記述する。
スイン公爵家のカイルとマルダー伯爵家のシャーロット、婚約不成立。敗因『幼馴染みの女と同居』『学生時代の女性遍歴』『公爵家の裏帳簿』『使用人の質の悪さ』
神官は、記録簿を祭壇の横の棚にしまう。記録簿は、女神の信者ならば誰でも閲覧できるのだ。
新しい女神が生まれたこの世界に、新しい婚約の仕方が生まれた。
互いの手札には『結婚の条件』と『婚約前に調べた情報』が、山札には『結婚したら起こる出来事の予測』『回避方法』が入っている。
聖女が女神になってから、女神から与えられた試練を回避できた者たちにしか、結婚できなくなった。
あらかじめ互いの欠点や利点を理解しておくことで、円満な夫婦生活を築くことができる。結婚後に起きる夫婦の危機を回避することができる。
婚約破棄や離縁は減ったが、結婚する人もかなり減った。
愛や信頼などという見えないものを信じていたばかりに、聖女は王家によって害されてしまった。
「女神様、あなたのお心が休まるまで、あなたが『愛情』を取り戻せるまで、私どもがともにおります」
『愛情の女神』の神官たちは、聖女を愛し慈しんできた。本来ならば、この国の王に愛されることによってこの国を愛するはずだった。愛に裏切られた聖女は、愛を呪い信じなくなった。
「では、今日もお祈りしましょう」
神官たちは祭壇の前に並び、声を揃えて歌い出す。
「「「「もげろ!もげろ!!もげろ!!!地獄に落ちろ!クソ野郎ども!!!あいつら絶対にゆるさない!!消えろブラック企業のサービス残業!パワハラモラハラ許さない!抹殺!マウント女とフレネミー!仕事をしない給料泥棒!呪われろ!」」」」
聖女様が残された日記を、言葉の意味がよく分からないながらも、大神官が改編して歌にしたものである。
お祈りの時間に歌うと、きらきらした光が神殿を包み込む。
「ああ、女神様が喜んでおられる!」
神官たちは知らなかったが、彼らの祈りは愛理のいた異世界にまで届いており、すばらしい報復となっていたのだった。
短編のタイトルがめっちゃ長くて、あらすじも大体一緒で、本編を読んだら内容がタイトルまで到達していないという作品を読み、だったら省略してもいいんじゃないかと「あらすじ」と「前書き」に一緒の文章をぶっこんで本編を省略してみました。
読まれた皆様が幸せになるよう、作者は祈っております!